YY 歓聚時代 2019年2Q決算

中国の老舗ライブストリーミングサービス。

ゲームストリーミングのHUYAを子会社に持つほか、今年の3月に中国外でライブストリーミングやショートビデオを運営するBIGOを完全子会社化した。

 

3Qの売上高は前年比+67%の増収、営業利益は-90%の減益だった。non-GAAPの営業利益は-44%の減益。

会社別に見るとYYは売上高30億RMBで+12%の増収、営業利益6.8億RMBで-6%の減益だった。売上はまだ伸びているものの利益はここ2~3年横ばいとなっている。この事業がいつ稼げなくなるかが大きな不安要素としてある。

HUYAは売上高20億RMBで+94%の増収、営業利益は1.2億RMBの黒字転換だった。HUYAは絶好調を維持しており連結上でも重要性が高まっている。ただし、HUYAに関してはテンセントが議決権ベースで50.1%まで株式を買い増す権利(2020年3月8日~2021年3月8日の期間)を持つため、これが行使されると子会社から外れてしまう。

BIGOは今四半期からフル寄与となる。売上高12億RMB、営業利益-6.8億RMBの赤字。

 

YYの提供する主なサービスは、ライブストリーミングのYY Live、中国外のライブストリーミングのBIGO Live、ショートフォームビデオのLikee、インスタントメッセージのIMO、カジュアルゲームプラットフォームのHAGO。

グローバルモバイルMAUは433.5百万人。

ショートフォームビデオのモバイルMAUは前年比431%増加して90.3百万人。Likeeのキーマーケットはインド、インドネシア、ロシア、US、南アメリカのいくつかの国とのこと。

ライブストリーミングのモバイルMAUは39%増加して140.9百万人。BIGO Liveのコアマーケットは東南アジア(約40%)、中東(約30%)、先進国(20%)とのこと。

インスタントメッセージングのIMOのMAUは212百万人。メインユーザーはインドなどの南アジアや中東諸国。IMOには2Qからショートビデオを徐々に導入した。ほかにもグループチャット、ミニゲーム、ライブストリーミングなどのコンテンツを追加していく計画。

HAGOの売上は急速に伸びておりYYの売上増加のメインドライバーの一つになっているそうだ。ただしYYの売上に占める比率は10%以下と低い。

 

YYの時価総額は42億ドル。今四半期の売上高を4倍するとPSRは1.3倍程度となる。

また、YahooFinanceのアナリストの予想利益を使うと今期PERは11倍、来期PERは8.6倍となる。

バランスシート上のネットキャッシュは28億ドル(200億RMB)ある。また、YYが約半分を保有するHUYAの時価総額は46億ドルとなっている。

以上のように基本的にどの指標から見ても割安感はある。ただ、BIGOへの先行投資によって収益面で見た割安感は薄れてしまっている。中国のネット企業は先行投資が多いが、アメリカの会社と違って赤字が評価されないのがきつい。

 

3895 ハビックス 2020年3月期1Q決算

紙と不繊布製品の会社。紙おむつ、クッキングペーパー、おしぼり、テーブルナプキンといった製品を作っている。

現在30億円をかけて海津工場を増設している。12月に稼働の計画。これにより海津工場の衛生用紙の生産能力は約2倍となるそうだ。

 

1Qは売上高-1%の増収、経常利益-12%の減益だった。

中間の会社予想は1Q並みの経常利益で達成できる。

通期の予想は売上高+3%の増収、経常利益+25%の増益。経常利益率は6.6%の予想で過去の平均より若干低い程度。

 

前回の記事では年度ベースの経常利益と原油、木材パルプ、キッチンペーパー、紙おむつの価格を比べてみた。

今回は四半期ベースで経常利益率と原油、木材パルプ、キッチンペーパーの価格を比べてみる。

なお、木材パルプと原油の価格はFEDRのデータ。これを日銀の為替レートで円建てにした。キッチンペーパーの価格は小売物価統計調査のデータ。

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パッと目では緩やかに関連があるかなという感じ。相関係数は紙パルプ-0.36、原油-0.44、キッチンペーパー0.49。

現在は原油価格も下がっているが、2017年~2018年に急騰した木材パルプの下げが著しい。2Q以降の利益率改善に期待したいところ。

今期PERは7.9倍と割高感はない。

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JD 京東商城 2019年2Q決算

中国を代表するEコマースの大手。市場シェアはアリババに次いで2位。直販&マーケットプレイスというアマゾンスタイルの販売方式。

 

売上高は前年比+23%の増収だった。

成長率は過去数年にわたって緩やかな右下がりだが、ここ1年の四半期増収率は+25%、+22%、+21%、+23%と横ばいになっている。

売上の内訳ではサービスの伸びが大きく前年比+42%の増加。なかでも物流その他のサービスの伸び率は+98%とのこと。ただし、サービスが売上全体に占める割合は11%に留まる。

 

営業利益は22億RMBで2四半期連続の黒字。ここ2年は散発的に黒字化していたが、2四半期連続かつ比較的大きな黒字を計上した。

利益率が拡大した理由にはJDリテイルの粗利益率の拡張、効果的なマーケティングプログラム、JDロジスティクスの営業効率の改善を挙げている。

JDリテイルの粗利益は前年比ベースで21四半期連続の拡大とのこと。また、JDロジスティクスの3PLのnon-GAAP営業利益は2Qに損益分岐点に達したそうだ。

 

年間のアクティブアカウント数は3.21億人。前年比+2%、前四半期比で+3%の増加。

アクティブアカウント数は2018年下半期に減少に転じたが、2019年に入り再び増加しており2Qは過去最高を記録した。

 

3Qのガイダンスによると売上高は前年比+20~24%の増収という見通し。また、通期のnon-GAAP純利益は80~96億RMBとのこと。純利益は上半期に68億RMBを計上しているが、下半期に行う投資とマクロ経済の不透明さからこの数字を計画している。

 

決算後の株価は13%上げて30.66ドルになった。

過去4四半期の売上を使ったPSRは0.6倍になる。YahooFinanceのアナリスト予想EPSを使うと今期PERは45倍、来期は30倍となる。

ただしPERは利益率次第。ウォルマート並みの純利益率3~4%を実現すればPERは18倍、5%の利益率を実現すればPERは12倍となる。会社によると長期的にJDリテイルは1ケタ台後半の純利益率を目指すそうだ。

 

9517 イーレックス 2020年3月期1Q決算

新電力の会社。バイオマス発電と電力小売りを行っている。

1Qは売上高+28%の増収、経常利益+62%の増益だった。

通期の会社予想は売上高+44%の増収、経常利益+67%の増益。

 

高圧小売の売上高は+14.4%の増加、販売電力量は+22.5%増加の413百万kWh。決算資料によると高圧小売の販売電力量は計画を上回っている。東電との新会社であるエバーグリーン・マーケティング本格稼働とのこと。

前年の下方修正の一因になった高圧分野だが1Qの売上高は2桁伸びており堅調な印象を受ける。

 

低圧小売の売上高は+29.9%の増加、販売電力量は+26.2%増加の154百万kWh。低圧小売の販売電力量は計画を下回った。全国的な気温低下により電⼒使⽤量の減少も⼀因とのこと。

低圧分野の需要家件数は約13.6万件で前年比+24%増加、前四半期比+3%増加した。前年の資料からは低圧分野の今期末の目標は約15万件なので、このペースだと目標達成できるか微妙といったところだと思う。

 

利益は相対電源の拡充、JEPX価格の低下、コスト抑制により大幅増益。

 

土佐と佐伯の発電所は順調に稼働とのこと。

2020年1月には大船渡と豊前の発電所が稼働する。2施設の出力の合計は150MWとなる。現在稼働している2施設の合計が70MWなのでインパクトは大きそう。

 

昨日時点の今期PERは13~14倍で成長率からすると割高感はない。

ただ、この会社の株価は決算ごとに急騰急落するうえ、ここ2~3年は横ばいかつボラティリティがあるので継続して持ちにくい印象がある。

 

3830 ギガプライズ 2020年3月期1Q決算

集合住宅向けのネット接続サービスとイオンハウジングのフランチャイジー。

1Qは売上高+57%の増収、経常利益600万円→1.57億円への大幅増益だった。ただ、経常利益の進捗率は10%と低い(去年と一昨年も低かったが)。

 

セグメント別に見ると、HomeIT事業は+63%増収の+47%増益と絶好調を維持している。サービス提供戸数は前期末比で+11%増加の47.4万戸となった。とにかくこの事業はどこまで伸びるのだろうというほど好調な様子。

前回の4Q決算レビューに書いたが日本の民間共同住宅1,300~1,500万戸前後(資料によって違う)に対して2018年のマンションISP提供戸数は226.5万戸になっている。市場がどこまで拡大するのかが気になるところ。

 

不動産事業は5.5%増収の赤字やや拡大。「運営店舗に対する人材採用、教育等への先行投資及び売上高に占めるサブリースの割合が高まったことによる原価等の増加」。

運営店舗は前期末から2つ増加して23店舗になった。

この事業は2018年1Qに開始して以来ずっと赤字が続いている。今期は前年比で売上増加が低いのが懸念点。

 

今期の業績予想は売上高+32%の増収、経常利益+19%の増益。予想PERは27倍になる。

バリュエーションに割安感はないが、不動産事業の赤字があるので(1QはHomeIT事業6億円の黒字に対して不動産事業1億円の赤字)実際のPERはもう少し低いと考えても良さそう。

 

リチウム株への投資 ⑥リチウム化合物を生産している会社

リチウム化合物を生産している会社について簡単に紹介していく。

 

・アルベマール(ALB)

アタカマ湖とグリーンブッシュ鉱山(権益49%)というかん水と鉱石のトップ資産を保有する。また、資源量では最大クラスとなる Wodgina の60%を取得した。

現在のキャパシティは65Ktだがこれを2021年に175Ktまで引き上げる計画を出している。

アルベマールのリチウム販売は長期契約を主としているのが特徴。リチウム以外の事業が半分を占めていることもあってリチウム価格の短期的な影響を受けにくい。現在リチウム各社の業績が悪化しているがアルベマールはほとんど影響を受けていない。ただ、リチウム価格が反転した場合は恩恵を受けにくくなるかもしれない。

時価総額74億ドル、株価70.25ドル、今期PER11~12倍。

 

・SQM(SQM)

アタカマ湖を持つほかオーストラリアでマウント・ホーランド(権益50%)を開発している。

現在のキャパシティは70Kt。2021年にアタカマの拡張により120Kt、2022年にマウン・ホーランドの生産開始により142.5Ktになる計画。

SQMのリチウム販売価格は四半期ごとに顧客と決めるためアルベマールと違って短期的な需給の影響を受ける。

1Qの時点ではリチウム事業の粗利益は全体の半分程度を占めている。

SQMは他社よりも高めのバリュエーションで評価されている。しかし今期の販売量を抑制していることや、下半期の価格の大幅な下落をガイダンスしたことから株価は大きく下げている。

時価総額75ドル。株価28.59ドル。今期PER20倍。

 

・ガンフォンリチウム(1772.HK)

マウントマリオンの50%を持つほかリチウムアメリカズとカウチャリ-オラロスを開発している。

炭酸リチウムと水酸化リチウムのキャパシティは71.5Kt。2020年には水酸化リチウム25Ktが追加される。カウチャリ-オラロスも2020年下半期に稼働する計画。

ガンフォンの特徴は必ずしも垂直統合にこだわっていないところ。少額出資または出資のないサードパーティーからも材料を調達してリチウム化合物を生産している。この特徴もあり近年は生産キャパシティを大幅に増やしている。マイナス点としては垂直統合されていないのでコスト面で不利になるかもしれない。 

1Qの業績は前年並みだったが中間の業績は大幅な減益になるとの警告を出している。

時価総額35億ドル。株価9.41香港ドル。実績PER7.7倍。

 

・ティエンチリチウム(002466.SHE)

グリーンブッシュ鉱山の51%の権益を持つ。またSQMの株式23.77%も保有する。

現在はグリーンブッシュ鉱山の生産量倍増とキャパシティ48Ktの水酸化プラントをオーストラリアに建設するプロジェクトが進行中。

1Qは-20%の減収、-83%の減益だった。英語の決算書がないので詳細は不明。

昨年は香港にIPOする話が出ていた。

 

・ライベント(LTHM)

FCMからスピンオフされたリチウムの老舗。アルゼンチンのオンブレ・ムエルト湖からリチウム化合物を生産している。

炭酸リチウムの生産コストは世界で最も低いレベル。戦略的にハイエンドの水酸化リチウムに注力している。

現在の炭酸リチウムの生産キャパシティ約20Ktを2025年に60Ktまで拡張する計画。

ライベントの不安点は今後の販売価格。現在のリチウム価格はざっくりと中国or中国外、炭酸リチウムor水酸化リチウムに分かれているが、中国外の水酸化リチウムは最もプレミアムが高く価格の下落余地も大きそう。

中間決算は大幅減益だったが4Qの業績改善が示された。

時価総額11億ドル。株価7.58ドル。今期PER12~13倍。

 

・オロコブレ(ORE.AX)

アルゼンチンのオラロス湖から炭酸リチウムを生産している。2015年に生産を始めた新興の会社となる。

キャパシティは17.5Ktだがここ何年も10Kt弱の生産量しか達成できていない。クオリティ的にも他社に劣るようだ。

ただ、会社が発表しているステージ2の拡張プランと楢葉の水酸化リチウムプラントが実現すれば、バッテリーグレードの炭酸リチウム17.5kt、バッテリーグレードの水酸化リチウム10kt、テクニカルグレードの炭酸リチウム15.5ktの生産キャパシティーとなる見込み。

時価総額7.3億オーストラリアドル。株価2.81オーストラリアドル。

 

リチウム株への投資 ⑤リチウム資源と化合物の生産

リチウム資源はかん水系と鉱石系に分かれる。

かん水系は初期の開発コストが高く時間がかかる一方で生産コストは低い、鉱石系は初期の開発コストが低く時間も短い一方で生産コストは高いとされてきた。

しかし水酸化リチウムの需要が高まったことでこの構造が変わっている。鉱石からは直接水酸化リチウムを生産するのに対してかん水からは炭酸リチウムを経て水酸化リチウムを生産するため、水酸化リチウムに関しては両者のコスト差が大きくないためだ。

水酸化リチウムの需要が増えているのはNCM811やNCAといったニッケル系の正極材への移行が予想されているため。ニッケル系の正極材はエネルギー密度が高く航続距離を延ばすことができる。

コスト面での優位性が低くなったこと、開発や生産の容易さ、カントリーリスクといった点から現在のリチウム資源開発はオーストラリアの鉱山へのシフトが鮮明になっている。

ただし、ニッケル系の正極材への移行がどれくらいのスピードで進むのかには異論もある。技術的に難しく予想より進まないのではという見方もある。

 

・かん水系の資源

チリのアタカマ湖(アルベマール、SQM)が有名。他にはアルゼンチンのオンブレ・ムエルト湖(ライベント)、同じくアルゼンチンのオラロス湖(オロコブレ)から生産が行われている。

いずれも鉱石系に比べると資源量が大きく、炭酸リチウムの生産コストも4,000ドル/トン程度と競争力がある。

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Neo Lithium Presentation

 

・鉱石系の資源

グリーンブッシュ(ティエンチ&アルベマール)の資源量とグレードが高い。資源量では Wodgina(アルベマール&ミネラルリソーシズ)やピルガングーラ(ピルバラミネラルズ)も大きい。

マウントマリオン(ガンフォン&ミネラルリソーシズ)の規模はそれらよりやや劣る。マウントキャトリン(ギャラクシーリソーシズ)やボルドヒル(タワナリソーシズ)は小規模。

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上で見たようにリチウム資源というのは数多く存在する。ただ、実際にリチウム化合物を生産している会社はそれほど多くない。アルベマール、SQM、ティエンチ、ガンフォン、ライベント、オロコブレ、それに中国のコンバーターといったところだ。

リチウムは炭酸リチウムや水酸化リチウムといった化合物を生産する川下部分では特殊化学品としての特徴を持つため単なるコモディティ商品ではない。化合物の生産は顧客の要望に合わせて行われるため品質への信頼性や供給の確実性が求められる。したがってリチウム市場には誰もが簡単に参入できるわけではない。

 

リチウム株への投資 ④リチウムの需給 その2

今回は今後何年かのリチウムの需給について考えてみる。

下の表は各社のHPや決算資料から拾った2019年~2022年のリチウム化合物の生産キャパシティの数字。前回の記事でも書いたようにリチウムの生産計画は当てにならないのであくまでも参考程度となる。大手以外の中国の生産設備も考慮していない(中国の生産設備の計画は Lithium's price paradox に一覧表がある)。

またキャパシティと生産量は必ずしも一致しない。たとえばオロコブレのキャパシティは17.5Ktだが実際の生産量はここ何年も10Kt台前半にとどまっている。

あと生産設備の拡張が完了してもすぐに生産が増えるわけでもない。アルベマールの La Negra は2021年の1Qに拡張が完了する予定だが、品質確認のプロセス(4~6か月)を経た後に徐々に生産量が増えていく。会社によると2021年には大きな販売増加は期待できないとのこと。

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2018年には以下の生産設備が追加された。

・SQM 22Kt 拡張完了。戦略的な在庫積み増し。

・ガンフォン Xinyu 20Kt 稼働率9割超。

・ガンフォン Nindu 17.5Kt 稼働率9割超。

・ティエンチ Kwinana(ステージ1) 24Kt 2018年末に工事完了。6か月の試運転期間。

 

 2019年は2施設の拡張が計画がされている。

・アルベマール Xinyu 20Kt 年末までにフル稼働というアナウンス。

・ティエンチ Kwinana(ステージ2) 24Kt  年末に工事が完了する予定。

 

2020年はガンフォン、ティエンチ、ライベントに加えて新たにリチウムアメリカズが生産を開始する計画。

・ガンフォン Xinyu 25Kt

・ティエンチ Anju 20Kt

・リチウムアメリカズ/ガンフォン 25Kt

・ライベント 9Kt

 

2021年はアルベマールとSQMの大幅な拡張がある。

・アルベマール LaNegra 40Kt

・アルベマール Kemerton 50Kt

・SQM 50Kt

 

2020年は順調にいけばティエンチのKwinanaステージ1(24Kt)とアルベマールのXinyu(20Kt)の稼働率が高まる。また在庫を積み増しているSQMの供給量も増えてきそう。2019年末に工事完了予定のティエンチのKwinanaステージ2(24Kt)の貢献があるかは不明。

需要の増加量は市場の成長率が前年比20%であれば70Kt程度となる。

これらの数字からすると大手以外に大幅な供給増加がなければ需給は現状程度もしくはやや引き締まるのではないかと思う。

 

2021年は順調にいけばティエンチのKwinanaステージ2(24Kt)の稼働率が高まる。これにプラスしてティエンチのAnju(20Kt)、ガンフォンのXinyu(25Kt)、リチウムアメリカズ(25Kt)、ライベント(9Kt)が2年目を迎える。ただし、リチウムアメリカズやライベントは前年下半期に生産開始の予定なのでどこまで稼働するかは怪しい。特にリチウムアメリカズは新規の生産となるのであまり期待できないと思う。

2021年中にはアルベマールとSQMの両社を合わせて140Ktものキャパシティ拡張の計画があるが、1年目ということもあり数量的な増加はあまりないと思う。

この年も需給が崩れるほどの大幅な供給増加はないのではと思う。

 

2022年になるとアルベマールとSQMの拡張が終わるため単純に数字を足し上げれば供給過剰になってしまう。ただし、これらは少し先の話で不確実性が高い。

 

需要面についてはヨーロッパの動向が注目される。

2020年以降はヨーロッパで各社からEVのモデルが発売される。現在のEV市場ではテスラのモデル3を除くと中国勢の独壇場となっているが、来年以降は先進国で本格的に普及が始まるかが試されることになる。

 

・ヨーロッパで販売されるEVのモデル数

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Electric vehicle sales to surge across Europe, with 2020 seen as new tipping point

 

リチウム株への投資 ③リチウムの需給 その1

リチウム価格の下落が止まらない。2018年の初めにピークをつけてから炭酸リチウムと水酸化リチウムの価格は一貫して下落を続けている。

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Fastmarkets

 

背景には鉱石プロジェクトの生産量の増加がある。2018年には新たに4社が生産を開始したのだが、この4社のスポジュメン精鉱の生産キャパシティは合計で約800Ktにもなる。炭酸リチウムに換算すると約100Ktもの量だ。

ちなみにアルベマーレによると2018年のリチウム需要は炭酸リチウム換算で270Ktだった。フル生産が実現すれば明らかに供給過剰となる。

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LITHIUM SUPPLY REVISITED

 

ただし、スポジュメンの供給過剰がそのままリチウムの供給過剰を意味するわけではない。スポジュメン鉱石は材料でありそこからリチウム化合物を生産する必要があるからだ。

現在はこれらのスポジュメンは中国に送られてそこでリチウム化合物の生産に使われている。上の記事に書かれているが生産量の約6割はアルベマール、ティエンチ、ガンフォンの3社によって引き受けられることになる。この3社はリチウム大手であり情報も開示しているので分かりやすい。

問題は残りの4割。これらは中国のコンバーターが引き受けることになるが、実際にどれくらいの量や質のリチウム化合物を生産できるのか不透明で分かりにくい。

Lithium’s price paradox というレポートによると2016年以降に中国では大手3社を除くとたった3つのプロジェクトしか生産にこぎつけていないそうだ。その他の多くのプロジェクトは遅延や停止によって実現していないとのこと。

同様の話はオロコブレのプレゼンテーションに掲載されているグラフを見ても分かる。2018年に実現した生産量は計画を大幅に下回っている。

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Lithium's price paradox によると各国で進行中のプロジェクトのを額面通り数え上げていくと2020年までに500Ktものキャパシティが追加されるそうだ。だが現実に実現するのはこの数字の40%以下になるだろうと指摘している。

 

リチウムの需給は以上のような事情もありなかなか分かりにくいところがある。

ただ、価格の下落が続いていること、昨年キャパシティを拡張したSQMが今年の販売量を絞って在庫を積み増していること、アルベマールが拡張計画を大幅に縮小したことなどを見ると、現時点でリチウムは供給過剰になっていると見ていいのではないかと思う。

 

リチウム株への投資 ②リチウムは需要のストーリー

アルベマールの資料によると2018年のリチウム需要は270kt(LCE)となっている。この需要が2025年に1,000ktにまで増えると予想している。

※LCEは Lithium Carbonate Equivalent。リチウム化合物には炭酸リチウム、水酸化リチウムなどいろいろあるが、最も需要の大きい炭酸リチウムに換算した値が標準的に使われている。

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しかしこの予想の前提となっているEVの市場シェアは2025年時点で15%に過ぎない。仮にシェアが30%、50%と増えればそれに沿ってさらに需要も増えていくだろう。EVが一般に普及した場合にはリチウム需要は現在の10倍以上になってもおかしくない。この需要増加がリチウム銘柄への投資の前提となる。

 

ただし単に需要が増加するだけではインパクトがやや薄い。リチウム自体は自然界に豊富に存在するため時間をかければ需要に見合う量を供給できるためだ。

たとえば(稼働中の)世界最大のリチウム資源はアタカマ湖だが、アルベマールとSQMの現在のアタカマからの生産キャパシティは年間100Ktを超えており2021年には両社の更なる拡張によって年間200Ktにも達する(あくまでも計画だが)。

アタカマ湖以外にも生産中・開発中のリチウム資源はたくさんあり、増産のタイミングによっては現在起きているような供給過剰の状態になってしまう。

したがって単に需要の増加だけでなくどれくらいの速さで需要が拡大するかというスピードも重要になると思う。

リチウムは資源開発から実際に化合物を生産するまでには数年以上の時間がかかる。よってリチウムの需要が予想を超えて急速に増加した場合は供給が間に合わなくなる。これがリチウム価格を上昇させ、生産量の拡大と合わせて大幅な投資リターンを生むのではないかと期待している。

 

それでは供給が追い付かなくなるような需要増加はいつ来るのか。

個人的にはEVがガソリン車のコストを下回ったとき、ガソリン車を買うよりEVを買う方が得だと誰もが思ったときに来るのではないかと思っている。

EVとガソリン車のコストを比較した記事はたびたび見かける。たとえばブルームバーグ・ニュー・エナジー・ファイナンスは電池価格の下落により2022年にEVがガソリン車のコストを逆転すると予想している。この予想時期は年々早まっているそうだ。

ただ実際問題としてそんなに差が縮まっているのかという気はする。

現時点でEV市場をけん引しているのはテスラのモデル3だが平均購入価格は5万ドルとかなり高い。しかもこの価格で売ってもテスラは赤字を出している。テスラは今年に入って35,000ドルというスタンダードレンジの発売も開始したが、現状ではその価格で売って利益が出せる車ではなさそうだ。

モデル3は自動運転などの付加価値が大きいので比較としては適当でないかもしれないが、いずれにせよガソリン車と比較してお買い得感を感じるようなEVが出ないと一般に普及するのは難しいのではないだろうか。

そんなわけで個人的にはここしばらくは供給の増加をはるかに上回るようなリチウムの爆発的な需要は起こらないのではないかと思っている。