リチウム大手の2023年1Q決算

〇 ALB アルベマール

1Q決算は、前年比では大幅な増収増益、4Q比では減収増益だった。

 

1Qの数字は好調だったものの、リチウム価格の大幅な下落を受けて通期のガイダンスを下方修正している。

1Qの調整EBITDAが1.6Bドルなので、残りの四半期当たりの調整EBITDAは0.6~0.8Bドルに半減する計算となる。

 

2023年のリチウム販売量は+30~40%の増加、平均販売価格は+20~30%の上昇を見込む。平均販売価格は4月中旬のリチウム価格が通年で続くという前提。

 

拡張計画はKemertonⅢ・Ⅳ(水酸化リチウム年産5万トン)の投資が最終決定された。

また、ミネラルリソーシズとのジョイントベンチャーも再編されている。

・Wodgina(スポジュメン精鉱) ALB60 : MIN40 → ALB50 : MIN50

・KemertonⅠ・Ⅱ(水酸化リチウムプラント年産5万トン) ALB60 : MIN 40 → ALB85 : MIN15

・Qinzhou(年産2.5万トン、2024年初に稼働予定)、Meishan(水酸化リチウム年産5万トン、2024年末に稼働予定) ALB100 : MIN0 → ALB50 : MIN50 中国当局の許可が必要となる。

 

チリ大統領が表明したリチウム国有化だが、以下の理由からアルベマールへの影響は比較的少ないと思う。

・まだ決定事項ではなく、議会の承認が必要になる。

・アタカマのリース契約は2043年まで残っている。大統領は既存の契約を尊重すると言っている。

・アルベマールのチリの生産量は年間8万トンでいまのところ拡張の計画はない。アルベマールは現在20万トンのキャパシティを2027年に30万トンまで増加させる計画なので、チリの割合は相対的に低くなっていく。

 

株価は昨年11月の高値325ドルから173ドルまで大きく売られた後にやや戻している。

今期の予想EPSは20.75~25.75ドルなので予想PERは8~10倍となる。

仮に今期1Qの利益を残りの3四半期並みに減らすと、中央値のEPSは17ドル程度まで下がる。この条件であればPERは12倍となる。

 

 

〇 SQM

1Q決算は、前年比では1桁の減益、4Q比では3割を超える減益となった。

 

リチウムの販売量と販売価格は下のグラフのとおり。

1Qの販売量は低調だったが、2Qに大きく伸びるそうだ。SQMのキャパシティは2021年末12万トン→2022年末18万トンと大幅に拡大しているため、短期的な販売量の落ち込みを気にする必要はないと思う。

平均販売価格は51,000ドル/トンまで下落した。中国スポット価格の下落に比べるとマイルドだが、タイムラグがあるので2Qの平均販売価格はさらに大きく下がりそう。

 

チリのリチウム国有化だが、もし決定すればSQMに大きな影響を与えそう。

SQMの生産するリチウム製品はすべてチリからとなっているうえ、リース期間は2030年までとかなり短い。

 

この会社は今期のガイダンスを発表していないので予想PERを計算できない。

実績EPSは13.68ドルだったので、実績PERは5.2倍となる。2022年のリチウム製品の販売量は15.7万トン、平均販売価格は52,000ドル/トンだった。

今期の販売量は1~2割は伸びると思うが、業績がどうなるかは販売価格次第だろう。

なお、この会社は配当による株主還元が良い。2022年は7.62ドル出しており、2023年もこれまで3.2237ドルの配当が出された。

 

 

〇 LTHM ライベント

1Q決算は、前年4Q比でも大幅な増収増益となった。

好調な業績は、リチウム製品の平均販売価格が大幅に上昇したのが原因。主力製品の水酸化リチウムの販売価格は4Qに比べて+46%上昇した。

販売量は前年比で横ばい。

 

通期のガイダンスも上方修正されている。

単純計算すると、残りの四半期当たりの調整EBITDAは1Q比で-10~20%の減少にとどまりそう。

アルベマールに比べて減少幅がマイルドなのは、ライベントの場合、年間固定価格の契約が7割と大きいためだろう。

2023年の販売量は+20%の増加、固定価格契約の平均販売価格は+40%の上昇を見込む。

 

5月10日にライベントとオールケムの合併というビッグニュースが発表された。

オールケムはオーストラリアのリチウム生産・開発会社。オーストラリアでスポジュメン精鉱を、アルゼンチンで炭酸リチウムを生産しているほか、いくつかの開発プロジェクトを持っている。

2022年の業績は、売上高1,147Mドル、調整EBITDA816Mドル、純利益544Mドルとなっている。

ライベントの2022年の業績は、売上高813Mドル、調整EBITDA367Mドル、純利益273Mドルだった。

合併によりオールケムの株主は新会社の56%を、ライベントの株主は44%を保有することになる。

業績の数字上はライベントが有利な比率に見えるが、実績、生産キャパシティ、販売価格などを考慮したのだと思う。

 

合併相手のオールケムの資産を見てみる。

 

・Mt Cattlin

オーストラリアの鉱山プロジェクトの先駆け。スポジュメン精鉱を生産している。

2022年は地質上の問題から生産量が落ち込んだが、今四半期は改善が見られている。2023年上半期は80,000~90,000トンというガイダンス。4-6月期のスポジュメン精鉱6%ベースの販売価格は約5,000ドルの見込み。

 

この鉱山は資源の枯渇が心配だったが、探索により資源量がアップデートされている。現在の資源量は12.8Mt@1.3%Li2Oで、90%が精測・概則資源量となっている。

ちなみに同じくオーストラリアにあるコアリチウムのFinnissプロジェクトの初期DFSは、資源量7.4Mt@1.3%Li2O、スポジュメン精鉱の年間平均生産量17.3万トンで、鉱山寿命8年だった。Mt Cattlinもあと数年は稼働できそうに思える。

 

・Olaroz(持分66.5%)

アルゼンチンの塩湖プロジェクト。

長らくフルキャパシティの1.75万トンに達したことがなかったが、直近2四半期の生産量はかなり大きくなっている。

1Qは、テクニカルグレード65%、バッテリーグレード35%とテクニカルグレードの生産量が多かった。この比率はだいたい5割程度で推移していた。バッテリーグレードはプラントの生産量を減らすそうだ。

生産量と平均販売価格の推移は下のグラフのとおり。2Qの(楢葉を除く)外部への平均販売価格は42,000ドル程度になる見込み。

 

Olarozでは現在ステージ2への拡張工事が進められている。1Q末での完成度は98.2%と稼働が近い。

ステージ2では年産2.5万トンのテクニカルグレードの炭酸リチウムを生産する。この炭酸リチウムの一部は、楢葉のプラントに供給されてバッテリーグレードの水酸化リチウムが生産される。

 

資源量は20.7Mt@625Li(mg/l)にアップデートされた。膨大な資源量を活かし、ステージ3の拡張計画も進行している。

 

・楢葉(持分75%)

Olarozの炭酸リチウムを原料に水酸化リチウムを生産する工場。キャパシティは年産1万トン。

2022年10月に生産を開始して、現在は立ち上げや品質テスト中。1Qでは670トンのテクニカルグレードの水酸化リチウムを販売した。

 

・Sal de Vida

アルゼンチンの塩湖プロジェクト。下の地図を見てわかるようにライベントのHombre Muertoに隣接している。資源量6.8Mt@752Li(mg/l)。

2ステージで計画を進めており、現在建設中のステージ1は年産1.5万トン、ステージ2は3万トンのバッテリーグレードの炭酸リチウムを生産する。

2022年4Q時点ではステージ1の稼働が2023年下半期というアナウンスだった。

ライベントは長年この地域で一部DLEも使用した生産を行っているため、統合によるシナジーがありそう。すでにステージ1の建設が始まっているためどれくらいあるかは分からないが。

 

・James Bay

カナダ・ケベック州の鉱石プロジェクト。

資源量40.3Mt@1.4%Li2Oと中規模の鉱山。年間33万トンのスポジュメン精鉱を生産する計画。鉱山寿命は19年。

カナダ政府の承認を得て、現在は州政府の承認を得る段階にある。2022年4Qの時点では、2023年1Qに建設を開始し、2024年上半期に稼働する計画だった。

 

James Bayはライベントが50%の株式を持つネマスカのWhabouchiと近い位置にあるため統合プロジェクトとなりそう。

Whabouchiの資源量は50Mt@1.4%Li2Oで中規模クラスだが、James Bayと合わせることで大規模な資源量となる。

ネマスカはケベック州のBécancourに年産3.4万トンの水酸化リチウムプラントを建設する計画。Whabouchiでのスポジュメン精鉱の生産は2025年、Bécancourでの水酸化リチウムの生産は2026年を見込んでいる。

 

ライベントとオールケムの統合会社の資源・工場は下の資料のようになる。

 

ライベントとオールケムの合併はかなり良いのではないかと感じた。

両社ともに今後数年の成長力が高く、一方でバリュエーションはそれほど高くない。合併により、成長力が低くなったり、割安感が薄れるといったマイナスが起きない。

成長力に関しては、下の資料のとおり2023年から2027年にかけて生産キャパシティを2.8倍に拡大する計画を出している。

また、2023年の9万トンという生産キャパシティもこれから稼働する分が大きく、足元の生産量はまだ小さい。2022年通期の生産量は、ライベントの炭酸リチウム1.7万トンとオールケムの炭酸リチウム1.4万トン+スポジュメン精鉱10.7万トン(炭酸リチウム換算で1.3万トン程度)にすぎない。今後の成長余地は非常に大きい。

 

時価総額は、ライベント4.5Bドル、オールケム6.3Bドルとなっており、オーストラリア上場の鉱石開発会社のピルバラ・ミネラルズ9.6Bドル、ライオンタウン・リソーシズ4Bドルらに比べると評価が低い。

ライオンタウンは資源量こそ大きいもののまだ生産もしてないし、生産を開始しても上流のスポジュメン精鉱のみの会社だ。

一方で統合会社の10.9Bドルは、アルベマール24BドルやSQMの20.3Bドルと比べると妥当なところにも思える。アルベマールやSQMが下落することで差が縮まってしまった。

いずれにせよライベントもオールケムも少なくとも割高な評価にはなっていないと思う。

 

統合によるシナジーはかなり期待できそう。

先に書いたように、ライベントのHombre MuertoとオールケムのSal de Vidaは隣接しているし、ネマスカのWhabouchiとオールケムのJames Bayの位置も近い。

技術的にはライベントのノウハウはSal de Vidaの開発に役立つだろうし、一方でライベントは鉱石資源を開発したことがないのでオールケムのMt Cattlinの経験が役立ちそう。

 

さらにこれはライベントのメリットだが、バランスシートの改善がある。

ライベントは財務的に余裕がなかったことで2018年にIPOしてから生産キャパシティをまったく増やせていなかった。昨年GMと長期契約を交わし198Mドルの前払いを受けることで財務が大きく改善したが、それでも1Q末時点で48Mドルのネットの有利子負債となっている。

一方でオールケムは3月末時点で578Mドルのネットキャッシュを持っている。

統合後は500Mドル以上のネットキャッシュを持つ財務的に余裕のある会社となり、リチウム価格が下がったとしても積極的に投資していける体制となる。