01772.HK ガンフォンリチウム 2021年4Q決算

中国のリチウム会社。川上のリチウム資源開発から川下のバッテリー製造やリサイクルまでを手掛けている。アルベマールやSQMと並ぶリチウム最大手の一角。

 

2021年の業績は、売上高が前年比2倍、粗利益・調整EBITDA・調整純利益が前年比3~5倍と大幅な増収増益になった。

希薄化EPSは3.72人民元(4.57香港ドル)。ただし、純利益には金融資産の評価益が含まれている。純利益と調整純利益の比率から計算するとEPSは2.25人民元(2.76香港ドル)となる。

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四半期の売上高と純利益の推移は下のグラフの通り。先に書いたように純利益には金融資産の評価益が含まれているので参考にならないが、この会社は四半期によって営業利益や調整純利益を発表しないので仕方なく使う。

時系列に見ると、2021年の2Qから売上高が急増していることが分かる。

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直近2年分だが四半期の粗利益が説明会資料に掲載されていた。3Qの粗利益の伸びがやや弱く見えたが、4Qは再び大きく増加している。

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2021年のセグメント売上高と利益は下の表のとおり。

リチウムメタル・化合物がメインだが、リチウムバッテリーの売上高もそれなりに大きい。

リチウムバッテリーは、コンシューマーバッテリー、TWSバッテリー、パワー/エナジーストレージ、固体電池、リサイクルを手掛けている。売上高の内訳が開示されていないので何を主力にしているのか分からない。

固体電池は2021年発売の東風汽車のE70に搭載されたそうだ。

リサイクルは年間3.4万トン(前年比横)の廃リチウム電池の処理能力を持つ。リン酸鉄リチウム電池では国内シェア1位、三元系リチウム電池では国内シェアトップ3入りしているそうだ。将来的には10万トンの処理能力を目指すとのこと。

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2021年のリチウム製品の生産量は9万トンで、前年の5.4万トンから大幅に増加した。

販売量は9.1万トン、平均販売価格は上半期が72,277人民元/トン、下半期が107,777人民元/トンとなっている。平均販売価格は前年比で49%上昇した。ちなみに足元で中国国内の炭酸リチウムのスポット価格は500,000人民元/トンまで急騰している。

 

設計キャパシティ(Degigned capacity)は前年から横ばい。Ningdu の炭酸リチウムラインが改修により微増している。

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※水酸化リチウムやリチウムメタルは積み上げただけで炭酸リチウム換算していない。

 

実効生産キャパシティは水酸化リチウムが大幅に増加した。2020年末に追加された Xinyu の水酸化リチウムプラント5万トンが寄与している。

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製品別の生産量は昨年から開示されなくなったが、設備稼働率は開示されている。2021年の稼働率は、水酸化リチウムが88%、炭酸リチウムが69%。

実効生産キャパシティに設備稼働率をかけて生産量を計算したのが下のグラフとなる(2019年までは実際の生産量)。

水酸化リチウムの割合が年々増加しており、2021年は生産量の約3/4が水酸化リチウムになった。

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設計キャパシティ、実効生産キャパシティ、実際の生産量の推移。

2020年に生産量が落ちたが、長期で見るとキャパシティ・生産量ともに右肩上がりとなっている。伸び率はアルベマールやSQMらの競合に比べても高い。原材料から開発する垂直統合にこだわらず、コンバーター能力の拡大に注力しているためだろう。

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リチウム化合物の原材料は、自社が50%の権益を持つマウントマリオン、6.16%出資するピルバラミネラルズが主な調達先。この他に青海省の Yiliping 塩湖の49%の権益を獲得した。

マウントマリオンは2021年に42.2万トン(≒5.3万トンLCE)のスポジュメン精鉱を生産した。ガンフォンは生産物の49%を確保している。さらに今年の2月にミネラルリソーシズが持つ残りの51%も加工・販売する契約を交わした。マウントマリオンのキャパシティは年45~48万トンだが、アップグレードにより今年の下半期に20~30%増加する予定。

ピルバラは2021年に32.4万トン(≒4万トンLCE)のスポジュメン精鉱を生産した。ガンフォンの購入量は、フェーズ1が16万トン以下、現在建設中のフェーズ2が15万トン以上という契約。

青海省の Yiliping 塩湖の生産キャパシティは炭酸リチウム1万トンとのこと。

原材料の調達先を見て分かるように、ガンフォンはオーストラリアの鉱石への依存度が高い。このため生産物は水酸化リチウム主体になっている(鉱石からの炭酸リチウムの生産は高コストになる)。一方で現在の中国ではLFPバッテリーがシェアを伸ばしており、炭酸リチウムにプレミアムがついている。今年の下半期に稼働予定の Cauchari-Olaroz によって炭酸リチウムの生産を強化したいところだろう。

 

今後の拡張計画としては、アルゼンチンの2つの塩湖プロジェクト、メキシコのクレイプロジェクト、リチウム化合物とリチウムメタルのコンバージョンプラントの5つがプレゼン資料に掲載されている。

キャパシティは、2021年の年10万トンを2025年に年30万トンまで増加させる目標。さらに長期的には少なくとも年60万トンを目指すとしている。

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プロジェクトのうち最も進んでいる Cauchari-Olaroz は2022年の下半期に稼働する予定。Cauchari-Olaroz は膨大な資源量を持つアルゼンチンの塩湖プロジェクトで、フェーズ1では年4万トンの炭酸リチウムを生産する。ガンフォンはプロジェクトの46.67%と、パートナーであるリチウムアメリカズの約15%の株式を持っている。

Mariana はアルゼンチンの塩湖プロジェクト。すでに建設が始まっており、フェーズ1では年2万トンの塩化リチウムを生産する計画。Mariana の資源量は大きいもののグレードは低い。ガンフォンの持ち分は100%。

Sonora はメキシコのクレイプロジェクト。こちらも建設フェーズにある。資源量は大きく、フェーズ1では年5万トンの水酸化リチウムを生産する予定。会社によるとクレイは鉱石と塩湖の中間の性質を持ち、鉱石と同様のスピードでリチウムを抽出できる一方で塩湖のように低コストとのこと。ただし、現状でクレイからリチウム化合物を生産している会社は存在しない。また、メキシコでリチウム国有化の話が出ているのも問題。ガンフォンはプロジェクトの50%、パートナーであるバカノラの86.88%を持つ(買収オファーが継続中)。

Fengcheng はリチウム化合物のコンバージョンプラント。フェーズ1では年2.5万トンの水酸化リチウムを生産する。フェーズ2で年5万トンのキャパシティとなる。

 

上記以外の新たな投資としては、マリの Goulamina 鉱石プロジェクトの権益を50%取得している。Goulamina の概測・精測・予測資源量は108.5Mt@1.45%と、大型かつハイグレードな資源を持つプロジェクトとなる。すでにDFSは完了しており、2024年初めの生産開始を目指している。ステージ1のスポジュメン精鉱の生産量が年50.6万トン、ステージ2が年83.1万トンで21年以上のマインライフ。ガンフォンはオフテイク契約により生産物の50%、条件により100%を購入する権利を持つ。

 

投資先以外のオフテイク契約は、AVZと5年+オプション5年のスポジュメン精鉱16万トン、コアリチウムとスポジュメン精鉱7.5万トン以上を結んでいる。

AVZ の持つコンゴの Manono プロジェクトは、概測・精測・予測資源量401Mt@1.65%と世界最大規模。コアリチウムの持つオーストラリアの Finniss プロジェクトは、資源量が小さくマインライフ7年と短いが、今年末には生産を開始する予定となっている。

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2021年のキャッシュフローは、営業キャッシュフロー26.2億人民元、投資キャッシュフロー61.7億人民元だった。大規模な投資によってフリーキャッシュフローは4年連続で大幅なマイナスになっている。

バランスシートを見ると、有利子負債は63.6億人民元、キャッシュは63.3億人民元となっている。新株発行による資金調達によって財務は悪化していない。

 

株価は昨年秋に185香港ドルの高値をつけた後、ジリジリと値下がりしている。現在は110香港ドル前後。

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A株とH株を合計した時価総額はドル換算で約267億ドルとなる。アルベマールの254億ドルやSQMの245億ドルよりも大きい。

2021年末の3社の生産キャパシティは、ガンフォン約10万トン、アルベマール約9万トン、SQM約12万トンでそれほど大きな差はない。アルベマールとSQMは原材料からの完全垂直統合であること、リチウム以外のビジネスも抱えていることを考えると、ガンフォンの評価はかなり高い。

高評価の理由は、これまでの成長力の高さや新規プロジェクトへの積極的な投資かと思う。ただ、今後数年で見るとアルベマールやSQMもガンフォンに負けないスピードで生産能力を増加させる計画を出している。ガンフォンのみがずば抜けて評価が高くなる理由はないと思う。

 

バリュエーションは、2021年の調整EPSを使うと実績PER40倍程度になる。ただ、2021年の販売価格が現在のスポット価格を大きく下回っていることから、単純に割高と結論できない。

ガンフォンの販売価格をSQMやオールケム(Olaroz)と比べると、販売価格は2社を上回っているが、値動きはおおむね並行して動いている。業績を見ても、リチウム価格が落ち込んだ2019年はピークから8~9割減益になっていることから、アルベマールのような安定的な価格政策はとっていないのではないかと思う。今後の価格上昇に期待できそう。

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なお、会社は3月末に1~2月の業績をアナウンスしている。売上高36億人民元、調整純利益18億人民元。ちなみに前年4Qの業績は、売上高39.9億人民元、調整純利益17億人民元だった。

単純に1~2月の調整純利益を年換算すると108億人民元となり、2021年の31.5億人民元から3倍以上の増益となる。EPSは9香港ドルを超え、今期PERは11~12倍程度と割安感のある数字となる。