09696.HK ティエンチー・リチウム

中国のリチウム会社。アルベマール、SQM、ガンフォンと並ぶ業界大手4社の一角。

会社資料によると、2021年のリチウム化合物の生産量は世界4位、市場シェアは7%。

電池用の炭酸リチウムに限ると世界2位で市場シェアは13.5%。電池用の水酸化リチウムでも世界10位に入るそうだ。

 

会社の保有する上流資源はオーストラリアのグリーンブッシュ鉱山で、ティエンチーは権益の26.01%を持つ(ティエンチーはIGOとのJVであるTLEAの51%を持ち、TLEAはアルベマールとのJVであるWindfieldの51%を持つ)。会社の生産するリチウム化合物の原料はすべてこの鉱山から供給されている。

グリーンブッシュ鉱山の2021年末の埋蔵量は168.3Mt@2.04%、リチウム含有量8.5Mt LCEとのこと。稼働している鉱山の中では最大かつ最高グレードとなる。

生産量も世界最大で、2021年の鉱山生産量の約38%を占めるそうだ。生産コストも最低クラスで、2021年のトータル営業キャッシュコスト(All-In Sustaining Costs)は271ドル/トンとなっている。

 

鉱山のキャパシティ(鉱石の処理能力)と稼働率は下の資料の通り。

現在、テクニカルグレードプラント(TGP)、ケミカルグレードプラント1(CGP1)、ケミカルグレードプラント2(CGP2)が稼働している。2019年に稼働したCGP2は2022年4Qにフル生産に達する見込み。

新たな拡張としてケミカルグレードプラント3(CGP3)が2025年に完成予定。スポジュメン精鉱の生産キャパシティは年520Kt。既存設備と合わせて年間の生産能力は2.1Mtに拡大される。

さらに2025年からはCGP4の建設も計画されている。

 

グリーンブッシュ鉱山以外では、中国の Yajiang Cuola Mine を開発している。この鉱山はアジア最大のリチウム鉱区に属しているそうだ。

資源量は632Kt LCE(グレード1.3%)で、ティエンチーの持分は100%。

2022年後半にフィージビリティスタディを完了させ、2025年の生産開始を目指している。

 

下流のリチウム化合物の精製プラントは3か所。

Shehongでは炭酸リチウム、水酸化リチウム、リチウムメタルを、Zhangjiagangはで炭酸リチウムを、Tongliangではリチウムメタルを生産している。

キャパシティと稼働率は下の会社資料の通り。2021年末の時点では、3か所合計で約45Ktのリチウム化合物の生産能力を持っている。

なお、ティエンチーの生産コストは炭酸リチウム・水酸化リチウムともに市場平均を下回っている。

炭酸リチウムの生産コストは、Shehongが5,481ドル/トン、Zhangjiagangが4,889ドル/トンに対して、世界平均は5,830ドル/トン。炭酸リチウムの生産において不利な鉱石を使い低コストを達成しているのは立派だと思う。

水酸化リチウムの生産コストは、Shehongが5,617ドル/トンに対して世界平均は8,269ドル/トン。2021年に操業を開始した Kwinana は9,910ドル/トンとやや高い。

 

下流設備の拡張計画は下の表のとおり。

オーストラリアのKwinanaが水酸化リチウム48Kt(フェーズ1&2、ティエンチーの持分は51%)、Anjuが炭酸リチウム20Kt、Tongliangが2Ktの追加。

Kwinanaのフェーズ1はすでに建設完了しており、現在は試運転の段階にある。2016年に建設がアナウンスされてから中断を含めてようやく生産を開始することになる。年間キャパシティは24Kt。

Kwinanaフェーズ2とAnjuは2019年にプロジェクトが中断していたが、2022年に建設が再開した。Kwinanaフェーズ2は2024年の完成、Anjuは2023年の完成を目指している。

これらの工場がすべて稼働すると、リチウム化合物の年間生産能力は110Ktを超える。

 

その他に関連会社への投資として、SQMの22.78%、チベットZhabuya塩湖プロジェクトへの20%を保有している。

SQMへの投資金額は4.07Bドル。現在のSQMの時価総額は24Bドルとなっている。

 

続いて業績を見てみる。

過去3年の損益計算書は下の表のとおり。

2021年は売上高が倍増し、営業利益は10倍になっている。

 

売上高に占めるリチウム化合物とスポジュメン精鉱の比率は2:1程度。

リチウム化合物の内訳を見ると、炭酸リチウムの売上高が78%と大半を占めている。

なお、電池用のリチウム化合物は、2021年のリチウム化合物の売上高の84.3%とのこと。

 

販売数量と平均販売価格の推移は下の表のとおり。

販売数量を見ると、リチウム化合物の伸びは低いが、スポジュメン精鉱は2021年に大きく増加している。

平均販売価格は2021年に前年比2倍以上に値上がりした。ただ、それでも足元の中国スポット価格と比べると大幅に低い。

 

2022年1Qの業績は、売上高が前年比6倍近くになり、営業利益も136M人民元→4,780M人民元に急増している。

1Qのリチウム化合物の平均販売価格は326,525人民元/トン(48,364ドル)で前年同期の59,280人民元から大幅に値上がりしている。

スポジュメン精鉱は11,576人民元/トン(1,714ドル)で、前年同期の3,451人民元から大幅な値上がり。販売数量も168,841トンで前年同期の97,160トンから増加した。

 

2Qの決算はまだ発表されていないが、先日プロフィットアラートが出ている。

上半期の純利益 9,600M~11,600M人民元(前年85M人民元)

一時的な損益を差し引いた純利益 8,460M~10,380M人民元(前年19M人民元)

EPS 6.5~7.85RMB

 

バランスシートを見ると、現預金(拘束預金を含む)が2,484M人民元、短期有利子負債が6,676M人民元、長期有利子負債が11,843M人民元となっている。

ティエンチーの有利子負債は大きく、2020年にはグリーンブッシュ鉱山の部分売却まで迫られたものの、リチウム価格の急騰に伴って利益が急増したため(今期上半期の純利益が9,600M~11,600M人民元)、有利子負債はそれほど問題ではなくなっている。

 

株価は現在78.3香港ドル、時価総額は213B香港ドルとなっている(A株116.85人民元×1477M株+H株78.3香港ドル×164M株)。

上半期の業績を単純に2倍して計算すると今期PERは10倍を下回りそうガンフォンやSQMと同レベルの数字となる。

PER10倍は低く見えるが、これが割高か割安かは今後のリチウム価格によるだろう。足元のスポット価格が続けば文句なしに割安だし、現在の販売価格を維持できる水準(4~5万ドル程度)でも数量の伸びを考えれば割安だと思う。

リチウム価格が大きく下げた場合でも数量の伸びである程度はカバーできそうだが、価格下落の環境下では株価の方は厳しくなるかなと思う。

ゴールドマンサックスのレポートのように極端な水準まで価格が下げれば、当然ながら株価は割高になる。

 

他社との比較だと、時価総額はガンフォンと同レベルで、アルベマールやSQMよりやや高い水準にある。

単純に生産量を比較するとティエンチーは他の3社の半分程度なので、SQMの株式の2割を持っているとはいえティエンチーに割高感を感じる。

Kwinanaフェーズ1とAnjuの稼働でティエンチーの生産量は倍増するが、他社も積極的にキャパシティを拡大しているのでそれほど差は埋まらないはず。