中国のリチウム大手。川上のリチウム資源開発から川下のバッテリー製造やリサイクルまで手掛けている。中国では天斉リチウムと並ぶ2強。深セン(002460)と香港(01772)に上場している。
4Q単体は前年比で売上高+49%の増収、純利益27M人民元→695M人民元の大幅増益だった。大幅増益の原因は金融資産の評価益が計上されたため。
四半期の売上高と純利益の推移は下のグラフのとおり。売上高は4四半期連続で増加している。
年間ベースの売上高、粗利益、純利益の推移。
2020年は売上高が+5%の増収、粗利益が-6%の減益だった。純利益は金融資産の評価益526M人民元が計上されたため大幅増益となった。
なお、中間決算の時点では売上高-15%、粗利益-35%だったので下半期にかなり巻き返している。
セグメントの売上高はリチウム化合物&メタルが3,853M人民元で前年比-7%の減収、リチウムバッテリーが1,267M人民元で+110%の増収だった。
粗利益は、リチウム化合物&メタルが888M人民元で前年比-19%の減益、リチウムバッテリーが205M人民元で前年比+163%の増益。
リチウム市場の低迷でリチウム化合物&メタルが不調だった一方でバッテリービジネスは好調だった様子。
バッテリーは、コンシューマーバッテリー、TWSバッテリー(ワイヤレスイヤホンのバッテリーみたい)、パワー/エナジーストレージ、全個体電池などを手掛けているとのこと。製品ごとの内訳などは開示されていないのでイメージがつかみづらい。
また、会社はリチウムイオンバッテリーのリサイクルビジネスにも力を入れており、2020年は34,000トンの処理能力を達成したそうだ。将来的には100,000トンの処理能力を目指すとしている。このレポートによると欧州でリサイクルトップの Umicore の処理能力が7,000トンとのことなのでかなりの規模に思える。ただ、売上高などの開示がないのでこちらも詳細はよく分からない。
リチウム市場についてはいくつかリサーチレポートの数字を挙げている。
・2020年の需要は369Kt(以下特に断りがなければ単位はLCE)。2019年の309Ktより増加。
・2020年の水酸化リチウムの需要は123Ktでうちバッテリーが98.8ktを占める。2025年には575Ktとなり、2020~2025年は年率36.35%の成長率となる予想。
・鉱石の生産量は2015年の61Ktから2020年は210Ktに増加。
・塩湖の生産量は2015年の97Ktから2020年は184Ktに増加。
・水酸化リチウムの生産量はアルベマールとガンフォンで半分を占めている。キャパシティではガンフォンがトップ。
・中国のEV販売台数は136.6万台で前年比+7.5%。全体の自動車販売台数は前年比-1.8%。EVのマーケットシェアは5.4%。2021年の販売台数は184.2~218.5万台を予想する。
・新エネ社への補助金は2020年で全廃の予定だったが2022年まで延長された。
・中国のスポット価格は炭酸リチウムが9月に水酸化リチウムが12月に底打ちした。現在は炭酸リチウム価格が水酸化リチウムの価格を上回っている。
・国際価格は比較的安定している。下のグラフはアジアでの価格。なお、グラフの炭酸リチウムと水酸化リチウムの価格は逆になっていると思われる。国際価格は水酸化リチウムの方が炭酸リチウムよりも高い。
会社の基礎化学材料(Basic chemical materials)の生産量は前年比でほぼ変わらずの54.3Kt(炭酸リチウム換算)だった。
販売量は前年の48.4Ktから63Ktに増加した。生産量以上の販売によって在庫は14.6Ktから5.9Ktに減っている。
平均販売価格は上半期70,850RMB/トン、下半期54,940RMB/トン。前年比で22.5%の下落。
Fastmarket によると直近の中国国内バッテリーグレードのリチウム化合物の価格は、炭酸リチウムが85,000-90,000RMB/トン、水酸化リチウムが70,000-75,000RMB/トンとなっている。
グループの設計キャパシティ(Designed capacity)は Xinyu の拡張により50Kt増加した。
2025年までに鉱石から100Kt・かん水とクレイから100Ktを達成し、将来的に600Ktを目指すとのこと。
※水酸化リチウム、リチウムメタルはLCE換算していない。
実効生産キャパシティ(effective production capacity)は炭酸リチウムが横ばい、水酸化リチウムが24Ktから31Ktへ増加した。
ガンフォンの生産能力は右肩上がりに増えており非常に順調に見える。
製品ごとの生産量は開示がなくなってしまった。代わりに生産設備の稼働率が開示されている。
参考までに実効生産キャパシティに稼働率をかけた数字で代用したのが下のグラフとなる。水酸化リチウムが増えた一方で炭酸リチウムが減少したようだ。
ガンフォンの持つ川上の資源マップ。
現在の主力は50%の権益を持つマウントマリオンで年間400Kt(≒50Kt LCE)のスポジュメン精鉱を生産している。ガンフォンはこのうち半分程度を購入する権利を持つ。
鉱石では同じくオーストラリアの鉱山を持つピルバラの6%弱の株式を持つ。フェーズ1では160Ktまでのスポジュメン精鉱を購入する契約。
かん水資産は2022年1Hに生産開始する予定のカウチャリ・オラロスの51%を持つ(+リチウム・アメリカズの約15%)。年間生産量は40Ktの計画で生産量の76%を購入する権利を持つ。
その他にはメキシコのソノラ・プロジェクトの規模が大きそう。ガンフォンはプロジェクトの50%とバカノラ・リチウムの約3割を持つ。ただし、資源量は大きいものの現在クレイからリチウム化合物を生産している会社は存在しない。
上で書いたようにガンフォンはキャパシティを順調に拡大させている。設計キャパシティは炭酸リチウム40.5Kt、水酸化リチウム81Ktに達している。一方でマウントマリオンとピルガングーラ(ステージ1)の持ち分はフル生産でも50Kt LCE に満たない量にすぎない。ガンフォンはアルチュラやAVZらともオフテイク契約を持っているが、これらの生産が順調にいかない場合は原材料が不足気味になりそう。
キャッシュフローは営業キャッシュフローが746M人民元、投資キャッシュフローが3,955M人民元。フリーキャッシュフローは3年連続で大幅なマイナスとなった。
結果として有利子負債(転換社債を含む)は前年の4,187M人民元から6,102人民元まで増加した。一方で流動資産のキャッシュは2,175M人民元となっている。
2017年には2,095M人民元の純利益を出しているので業績が回復すれば大きい負債とは言えないかもしれないが、業績が低迷したままこの規模の投資を続けるのは厳しいのではないかと思う。
株価は今年の2月に150HKドル近い高値を付けた後に現在は94.9HKドルまで下げている。
業績低迷によってバリュエーションは見積もるのが難しい。
好調時のEPSは2017年が1.89人民元、2018年が1.17人民元だったが、2018年と比べて水酸化リチウムの実効生産キャパシティは約2倍に増加している。ただ、仮に好調時のEPSを2倍してもPERは30倍くらいになりそうなのでガンフォンはかなり高く評価されていると思う。
他社と比較するとガンフォンの時価総額18.5Bドルに対して、アルベマール17Bドル、SQM14Bドルとなっている。アルベマールやSQMはリチウム以外のセグメントの利益が大きいので、リチウムに限るとガンフォンの時価総額が際立って大きい。