PLL ピードモント・リチウム

アメリカとオーストラリアに上場するリチウムの開発会社。

旗艦プロジェクトは、アメリカ・ノースカロナイナ州で開発中のカロライナリチウム。

その他、サヨナ・マイニングやアトランティック・リチウムへの出資、アメリカでの水酸化リチウムプラントの建設計画もある。

 

各プロジェクトの開発状況は下の資料の通り。

サヨナ・マイニングの持つノース・アメリカン・リチウムプロジェクト(NAL)の進行が最も早い。2023年1Qに生産を開始する見込み。

 

・カロライナリチウム(持分100%)

スポジュメン鉱石の採掘から水酸化リチウムの生産まで行う垂直統合プロジェクト。

ノースカロライナ州では、1950~1980年代にかけて世界のリチウムのほぼ100%を生産していたそうだ。

 

カロライナリチウムの資源量は、44.2Mt@1.08%Li2Oと中規模。

年間242ktのスポジュメン精鉱と年間30Ktの水酸化リチウムを生産する計画となっている。

BFSは2021年末に出ている。

最新2022年3月のPEAによると、統合プロジェクトのCAPEXは988Mドル、生産コスト(AISC)は4,377ドル/トン、税引後NPV8%は2,843Mドル(水酸化リチウム22,000ドル/トン、スポジュメン精鉱1,200ドル/トンの前提)となっている。

 

このプロジェクトは、2020年にピードモント・リチウムがテスラへのスポジュメン精鉱の供給契約を締結したことで注目を浴びた。

しかし、その後は反対運動により計画が止まっている。州や郡の許可も不足している状態。

先のスケジュール表を見ても、カロライナリチウムの生産開始は最も遅い。

 

・LHP-2(持分100%)

テネシー州に建設予定の水酸化リチウム精製プラント。ノースカロライナに続いてアメリカで2か所目の計画となる。

PEAは2022年3月に出ている(下表)。

サヨナ・ケベックやアトランティック・リチウムらから196Ktのスポジュメン精鉱を購入し、年間30Ktの水酸化リチウムを生産する計画。

CAPEXは572Mドル、生産コスト(AISC)は10,630ドル/トン、税引きNVA8%は2,248Mドルとなっている(水酸化リチウム22,000ドル/トン、スポジュメン精鉱1,200ドル/トンの前提)。

2022年末にDFSが出る予定。

 

・ケベック

サヨナ・マイニングの14.4%、サヨナ・マイニングの子会社であるサヨナ・ケベックの25%を持つ。サヨナ・ケベックはNALの100%を持つ。

また、NALプロジェクトで生産したスポジュメン精鉱の50%、または113Ktのうち大きい方を500~900ドル/トンの固定価格で買い取る契約を結んでいる。

 

サヨナ・マイニングはオーストラリア上場のリチウム開発会社。

もともとはカナダ・ケベックでAuthierプロジェクトを進めている会社だった。Authierは資源量17.1Mt@1.01%Li2Oと規模が小さい。

サヨナ・マイニングは2021年8月に子会社のサヨナ・ケベック(サヨナ75%/ピードモント25%)を通してNALを買収した。

NALはAuthierから30kmほど離れた場所にある鉱山で、資源量は101.9Mt@1.06%Li2Oと大きい。

この鉱山と工場には前オーナーによって400Mドルが投資されており、2017年~2019年にかけてはスポジュメン精鉱の生産も行なっていたが、リチウム価格の低迷により操業停止に追い込まれた。

サヨナ・ケベックによるNALの再稼働は2023年1Qを予定している。生産能力は年間220Ktのスポジュメン精鉱とのこと。

 

なお、サヨナ・マイニングはAuthierとNALをまとめてAbitibi Hubとしている。

Abitibi Hubの計画は、AuthierとNALから採掘した鉱石をNALの選鉱場でスポジュメン精鉱にして、Bécancourに建設予定のプラントに送って水酸化リチウムを生産するというもの。

 

ピードモント・リチウムが結んだオフテイク契約は、現在の高騰したスポジュメン精鉱の市場価格を基準にすると、かなり有利な条件になっている。

スポジュメン精鉱の販売価格を6,000ドル、サヨナ・ケべックからの購入価格を900ドル、購入量を113Ktで単純計算すると、粗利益は約600Mドルにもなる。

また、ピードモント・リチウムの持つサヨナ・マイニングの株式(14.4%)は、現在のサヨナ・マイニングの時価総額2,697オーストラリアドル(≒1,834Mドル)を基準にすると264Mドルとなる。

サヨナ・マイニングは北ケベックにも開発プロジェクトを持っているが、現状では時価総額の多くはAbitibi Hubの分だと思うので、サヨナ・ケベックの持分25%もかなりの価値になりそう。

 

・ガーナ

アフリカのガーナでスポジュメン鉱山(EWOYAA)を開発しているアトランティック・リチウムの9.9%と、EWOYAAの50%の権益を持つ。

EWOYAAの資源量は30.1Mt@1.26%と中規模だが、探索による拡大が見込めるそうだ。

計画では年間300Ktのスポジュメン精鉱を生産する予定で、ピードモント・リチウムはそのうちの50%を購入する権利を持つ。

PFSは2022年3Qに出る予定。2024年の生産開始を目指している。

 

アトランティック・リチウムはロンドンに上場しており、現在の時価総額は265Mポンド(307Mドル)となっている。今月中にオーストラリアにも上場する。

ピードモント・リチムウの持つ株式の約10%と EWOYAAプロジェクトの半分は、市場価値ベースでは300Mドル以上の価値がありそう。

 

ピードモント・リチウムの現在の時価総額は1,125Mドルとなっている。

サヨナ・マイニング関連だけで時価総額くらいの価値はありそうなので、サム・オブ・ザ・パーツで見ると割安だと思う。

2023年1QにNALが稼働することで、実際に利益やキャッシュフローが発生するのもカタリストとして働きそう。

 

サヨナ・マイニングの時価総額は、同時期(2022年~2023年初め)にスポジュメン精鉱の生産を開始するシグマ・リチウムやコア・リチウムとそれほど変わらない。

このうちコア・リチウムは、安心感のあるオーストラリアの鉱山というプラス要因はあるが、現状で資源量がかなり小さいので他の2社と同レベルの時価総額というのは違和感がある。

サヨナ・マイニングは、NALの持分が75%なのと、不利な条件でオフテイク契約を結んでいるのがマイナス点となる。ただ、水酸化リチウムプラントの建設を視野に入れていることや、北ケベックでも鉱山を開発しているので、他の2社と単純に比較しにくい気もする。

3社の時価総額はピルバラ・ミネラルズの1/4程度となっている。

スポジュメン精鉱の生産量ではそこまでの差はついていないが、資源量、バランスシート、これまでの実績などを考慮するとそれくらいの評価となるようだ。

 

ピードモント・リチウムの今後の株価は、やはりスポジュメン鉱石の価格高騰がいつまで続くかによるだろう。

前回のリチウムブームでもスポジュメン鉱石の過剰供給によって需給が崩れたように、鉱石の生産は下流のリチウム化合物の生産に比べて容易とされる。今後何年も高値が続くとは考えないほうがいいと思う。

ただ、足元の環境が非常に良いだけに、短期的にでもスポジュメン鉱石の高値が維持されるならピードモント・リチウムの株価にも期待できるかもしれない。

 

AKE.AX オールケム・リミテッド 2022年6月期4Q決算

オロコブレとギャラクシー・リソーシズの合併によって誕生した会社。リチウム準大手。オーストラリア上場。

アルゼンチンの Olaroz から炭酸リチウムを、オーストラリアの Mt Cattlin からスポジュメン精鉱を生産している。

開発中の資産は、アルゼンチンの Sal de Vida、カナダの James Bay。

 

2022年6月期はリチウム価格の高騰を背景に黒字化を果たした。

売上高も前年の86Mドルから770Mドルまで大幅に増加している。

 

PLを見ると、粗利益605Mドルで粗利益率79%、税前利益430Mドル、株主に属する純利益305Mドル、希薄化EPS0.51ドルとなっている。

上半期(2021年7-12月)の売上高が192Mドル、純利益が16Mドルだったので、2022年の半年間で売上高577Mドル、純利益289Mドルを稼いだことになる。

 

営業キャッシュフローは475Mドル。

投資キャッシュフローは-72Mドル(合併により取得した現金が+209Mドルあった)。

現金同等物は663Mドルで、前年の258Mドルから大きく増加した。

有利子負債は311Mドルで、手元キャッシュを大きく下回る水準になった。

 

次に各プロジェクトの稼働・開発状況を見ていく。

 

・Mt Cattlin(持分100%)

2022年6月期の売上高は452Mドル、EBITDAIXは336Mドル、純利益197Mドルだった(2021年8月25日~2022年6月30日の期間)。

グループ全体に占める比率は、売上高が59%、EBITDAIXが65%で Olaroz を大きく上回る。

 

四半期のスポジュメン精鉱の生産量と販売価格の推移は下のグラフの通り。

販売価格は4-6月期に5,000ドル近くまで急騰している。2021年1Qと比べると15倍近い値上がりとなる。

一方で4-6月期の生産量は大幅に減少した。生産コストも1-3月期の349ドル/トンから803ドルまで一気に上がっている。

 

2023年6月期のガイダンスは、生産量140-150Kt(前年同期193Kt)、生産コスト~900ドル/トンと非常に悪い数字が出てきた。

採掘場の移行中に地質上の問題が出たとの話だ。経営陣はこの問題を今期中に解決し、24年6月期には180Ktの生産量に戻せると考えているようだ。

一方で、生産量の減少という問題を最小限にするために、2023年1Hに130Ktの低品位(1.1~1.3%)のスポジュメン精鉱を既存顧客に販売するとのこと。この製品は既存の備蓄品と工場からの製品の組み合わせでこれまでは販売していなかった。

販売価格は500~600ドル。この価格であれば収益性があるそうだ。

 

Mt Cattlin の鉱山寿命を延ばすための拡張採掘プログラムも進んでいる。資源量は前年から2割ほど増加して13.3Mt@1.2%となった。

ただ、Mt Cattlin はもともと資源量が少ない鉱山であるし、今回のようなトラブルがあると先行きは大丈夫なのかなと疑ってしまう。

足元ではスポジュメン鉱石の価格が急騰しているだけに、今期の生産量が落ちるのはかなり残念な話だと思う。

 

・Olaroz(持分66.5%)

2022年6月期の売上高は293Mドル、EBITDAIXは220Mドル、純利益96Mドルとなった。

年間生産量は12,863トン。2017年からほぼ横ばいで推移している。このうちバッテリーグレードの比率は54%となっている。

生産コストは4,282ドル/トン。こちらも多少の変動はあるが4,000ドル前後で横ばいが続いている。

 

四半期の生産量と販売価格の推移は下のグラフの通り。

生産量はほぼ横ばいで推移している。

一方で4-6月期の販売価格は41,033ドルまで急騰した。底値の3,623ドルから10倍以上に上昇している。

 

ステージ2の拡張プロジェクトは建設の91%が完了した。最初の生産は2022年12月を予定している。

ステージ2では年産25Ktのテクニカルグレードの炭酸リチウムを生産する。

この炭酸リチウムの一部は、現在立ち上げ中の楢葉のプラント(持分75%)に供給されて、バッテリーグレードの水酸化リチウムが生産される。楢葉のキャパシティは年産10Ktで、最初の生産物は2022年12月になる予定。

 

Olaroz は資源量のアップデートもされている。精測・概則・予測資源量は6.4Mtから16.2Mtに大幅に増加した。

Olaroz に隣接する Cauchari(買収したアドバンスド・リチウムの資産)を含めると22.5Mtという膨大な資源量となる。

 

・Sal de Vida(持分100%)

アルゼンチンの塩湖プロジェクト。隣ではライベントが炭酸リチウムを生産している。6.8Mt@752mlと十分な資源量。

今年の1月に年産15Ktの炭酸リチウムを生産するステージ1の建設が始まった。2023年の下半期に稼働する予定。

 

・James Bay(持分100%)

カナダの鉱山。資源量は40.3Mt@1.3%。現時点では中規模だが、探査によってさらなる資源量の拡大も見込めるそうだ。

2021年12月にフィージビリティスタディが発表されている。

スポジュメン精鉱の年間生産量は321Kt、販売価格が約1,000ドル/トンで、税引前のNPVが1.42Bドルとなる。鉱山寿命は19年。CAPEX286Mドル。OPEX333ドル/トン。

建設開始は2023年1Q、試運転が2024年上半期という計画。前回よりも建設開始が半年遅くなっている。

 

 

オールケムの株価は2020年に底を打ち、現在は13.91豪ドルと前回2018年のピークをはるかに超える水準まで上昇している。ボラティリティが大きいが、ここ1年で見ても値上がりしている。

現在の時価総額は8.87B豪ドル(≒6.1Bドル)。

2022年の1-6月に300Mドル近い純利益を稼いでいるので、足元の勢いが続けばPER10倍前後の水準になりそう。

炭酸リチウムやスポジュメン精鉱の販売価格が値上がりすることで業績のさらなる改善も期待できる。

オールケムの販売価格は、炭酸リチウムが1Q27,236ドル、2Q41,033ドル、スポジュメン精鉱が1Q2,178ドル、2Q4,992ドルだった。市場価格と比べると価格の上昇余地が残っている。リチウムの高値がいつまで続くのかという問題はあるが。

ただ、利益の6割を稼ぐ Mt Cattlin にトラブルが発生していること、Olaroz もステージ2の立ち上げ期に当たることから、今期の業績についてはやや不透明感がある気がする。

 

中長期で見るとオールケムの生産量は大幅増加が見込まれている。

2025年に Mt Cattlin が生産停止しても、Sal de Vida や James Bay の稼働により2026年の生産キャパシティは現在の3倍に増える計画。

 

SQM ソシエダード・キミカ・イ・ミネラ・デ・チリ 2022年2Q決算

チリの化学メーカー。

チリ北部のアタカマ砂漠から採れるチリ硝石を使って硝酸ナトリウムやヨウ素を、アタカマ塩湖から炭酸リチウムや塩化カリウムを生産している。

硝酸ナトリウムと塩化カリウムから硝酸カリウムも生産しており、硝酸カリウムは肥料セグメントの主力製品となっている。

 

セグメントはリチウム、特殊肥料、ヨウ素、カリウム、工業化学品(工業用の硝酸カリウムなど)の5つ。

会社によると2020年の世界シェアはリチウムが19%、特殊肥料(硝酸カリウム)が51%、ヨウ素が31%、カリウムは1%以下となっている。

 

2Qの業績は、前年比では大幅な増収増益だが、1Q比で見ると売上高こそ伸びたものの利益はそれほど伸びていない。

売上高 2,598Mドル(前年比+342%)

粗利益 1,297Mドル(前年比+598%)

純利益 859ドル(前年比+857%)

調整EBITDA 1,325Mドル(前年比+531%)

EPS 3.01ドル

 

四半期の業績の推移は下のグラフの通り。

2Qの利益の伸びが緩やかなのが分かる。

 

セグメント売上高の前年比は、特殊肥料+52%、ヨウ素+41%、リチウム+1,033%、カリウム+209%、工業化学品+243%。

軒並み大幅増収となったが、とりわけリチウムの伸びがものすごい。リチウムは1Q比でも+28%の増収となっている。

 

セグメント純利益の四半期の推移は下のグラフの通り。

なお、この会社はセグメント純利益(Unallocated amountsの前の数字で粗利益に近い金額)の開示が遅く、いまのところ1Qまでの数字しか取得できない。多少のズレが出るが2Qの数字に粗利益を使ったのが下のグラフになる。

前年比では、特殊肥料+153%、ヨウ素+92%、リチウム+1,536%、カリウム+683%、工業化学品+166%。

特殊肥料やヨウ素も好調だが、リチウムとカリウムの伸びがものすごい。

ただし、リチウムは1Q比では+8%といまいちの数字になる。

カリウムは1Q比でも+47%の増益で、利益の金額もヨウ素に並ぶほど大きくなっている。

 

続いてセグメント別に見ていく。

特殊肥料セグメントは長らく横ばいで推移していたが、前年4Qからレンジを上抜けした。2Qも1Q比で2桁の増収増益となった。

業績好調の原因は販売価格が上昇したため。販売価格は1Q比でも+10%の上昇となった。

一方で販売数量は前年比で減少している。歴史的な高値のために需要が減少しており、2022年の販売数量は前年比で約-10%の減少となるそうだ。

 

カリウムセグメントは、1Q比で売上高+60%の増収、粗利益+47%の増益となった。

販売価格は1Q比でも+28%上昇した。前年上半期と比べると3倍以上の値上がりとなる。

販売数量は前年比で減少している。今年の販売は750Ktの予想。前年の893Ktから大きく減少する見込み。

 

ヨウ素セグメントは1Q比で2桁の増収増益。X線などの需要は堅調で、供給がタイトな状況が続いているそうだ。

販売価格は1Q比で+9%の上昇となった。前年の35ドル/kgから足元55ドルまで急騰している。

販売数量は前年比でわずかな増加を見込むそうだ。

 

リチウムセグメントの業績はものすごい伸びとなっている。ただし、2Qは売上高に比べると利益の伸びが低い。

 

売上高の伸びは販売価格の上昇のため。販売数量は1Q比で-10%減少した。

2Qの販売価格は54,000ドル/トンで、1Qの38,000ドルから大幅に上昇した。2020年4Qの底値5,300ドルと比較すると、わずか1年半で10倍以上に急騰している。

なお、足元の中国の炭酸リチウムのスポット価格は、トン当たり40万元台後半(6万ドル後半~7万ドル程度)となっている。販売価格とスポット価格の差はかなり縮まった。

2022年の販売数量は14.5万トンを予想する。前回の14万トンからやや上ブレとなる。

 

SQMの販売契約は、70%がベンチマーク連動の変動価格、15%が再交渉中、15%が固定価格もしくは天井とフロアのある変動価格契約とのこと。

前回は、20%が固定価格またはフロアと天井のある変動価格、50%がベンチマークに連動する変動価格、30%が未定との話だった。

もともとSQMはアルベマールやライベントに比べて変動価格の割合が大きかったが、ここにきてさらに変動価格の割合を増やしている。

 

決算の数字は良かったものの、翌日に株価は急落した。

リチウムの販売価格が大幅に上がったにもかかわらず、利益がそれほど増えなかったのが失望されたのかなと思う。

ただ、この点についてはロイヤルティの影響なのではないかという記事が Seeking Alpha に書かれていた。

記事によると、Corfo へのロイヤルティはチリを出荷する時点で計上されるのに対して、売上高は現地で引き渡された時点に計上されるとのこと。2Qは販売量が34Ktだったのに対して、輸出は53Ktもあった。両者のギャップが会計上の影響を与えたとの話。

SQM: Royalty Overpayments May Have Distorted Q2 EBITDA

実際に電話会議でも販売数量と輸出数量の違いについて言及がされている(ただし、業績への影響についての解説はない)。

 

現在の株価は104ドル。2QのEPSが3ドルなので、単純に年換算するとPERは10倍を切る水準となる。

リチウムの販売数量は、今年14.5万トン、来年が18万トン+αで、2023年には生産キャパシティが年産21万トンに増え、2024年にはMt Holland(年産5万トン)が稼働する。

今後何年かは堅調な販売数量の伸びが期待できるので、現在の販売価格が続くという前提であればかなり割安になると思う。

ただ、足元の極端に高騰したリチウム価格が何年も続くと予想するのはあまりに楽観的だろう。問題は高値がどれくらい続くか、下落幅がどれくらいになるかというところだが、いろいろな要素があるだけにこれを予想するのはちょっと不可能だと思う。

とりあえず、今年いっぱいは新規の供給が少なくリチウム価格の高値が維持されそう、先に見たロイヤルティの過剰支払いが正しければ3Qにかなりの好決算が期待できる、他社と比べてバリュエーションが低い、といった理由からまだ利確には少し早いかなという気はしている。

 

ALB アルベマール 2022年2Q決算

リチウム、臭素、触媒を生産する会社。

リチウムでは最大手の一角。チリのアタカマ塩湖、オーストラリアのグリーンブッシュ鉱山(持分49%)、同じくオーストラリアのウォジナ鉱山(持分60%)のかん水や鉱石からリチウム化合物を生産している。アタカマとグリーンブッシュはかん水と鉱石でベストの資産とされる。

臭素は難燃剤が主な用途。他にもエレクトロニクス、自動車、建設、アプライアンスなど幅広い産業に使用されるGDP比例のビジネス。アルベマールはこの業界のマーケットリーダーとのこと。コスト競争力のある死海とアーカンソー州で事業を行っている。

触媒はガソリンなどの精製やディーゼルや石油原料の汚染物質を取り除くのに使われる。この部門は新型コロナによる移動制限に加えて、原材料価格の高騰が逆風になっている。

 

2Qの業績は、前年比で売上高+91%の増収、調整EBITDA+214%の増益となった。

ファインケミストリーサービスの売却益がなくなったため、営業利益は減益となっている。

売上高 1,479Mドル(前年比+91%)

営業利益 434Mドル(前年比-20%)

調整EBITDA 610Mドル(前年比+214%)

調整希薄化EPS 3.46ドル。

 

四半期の売上高と調整EBITDAの推移が下のグラフになる。

新型コロナで落ち込んだ後は前年4Qまで回復が鈍かったが、今年に入って1Q、2Qと連続して大幅な増収増益となった。

 

四半期のセグメント売上高の推移が下のグラフになる。

前年比では、リチウム+178%、臭素+35%、触媒+42%。

リチウムは1Q比でも6割超の伸びとなった。臭素や触媒も前年比で大幅な増収。

 

四半期のセグメント調整EBITDAの推移が下のグラフ。

前年比では、リチウム+352%、臭素+46%、触媒-54%。

リチウムは1Q比でも+60%の大幅増益。臭素も好調が続く。

 

リチウムの好調と臭素のさらなる改善が見込まれることから、通期のガイダンスも上方修正された。今年3回目の上方修正となる。

修正後のガイダンスは、売上高7.1~7.5Bドル(前年比+115~125%)、調整EBITDA3.2~3.5Bドル(前年比+270~300%)、調整希薄化EPS19.25~22.25ドル。

 

続いてセグメント別の業績を見ていく。

リチウムセグメントは前年比で売上高+178%、調整EBITDA+353%と大幅な増収増益だった。

売上高の増加の内訳は、販売価格が+160%、販売量が+18%の寄与となっている。

 

2022年の調整EBITDAは、前年比+500~550%の増益というガイダンス。1Qの+200~225%から再び大きく上方修正された。

修正の理由は販売価格の上昇。2Qにレガシーの固定価格契約の見直しに成功したことで、2022年の平均販売価格は前年比+225~250%の増加を見込む。

販売量は前回から変更なし。新規設備の稼働とトーリング販売の増加により前年比+20~30%の増加となる。

リチウムの市場価格が現在のレベルにとどまる、変動価格契約のさらなる増加、トーリング販売の増加などがあれば、今回のガイダンスはさらに上振れるかもしれないとのこと。

 

販売契約については下の資料のとおり。

2022年のバッテリグレードの売上高は85%に上がる見込みで、このうち15%が短期スポット契約、65%が(大部分に)天井と底が設定された市場連動型の変動価格契約、20%が固定価格契約(ただし、通常6ヶ月または12ヶ月ごとに価格が調整されるそうだ)となる。

前回は、スポット契約20%、変動価格契約50%、固定価格契約30%だったので、固定価格契約の割合が10%減っている。2Qに成功した契約の変更はこの部分になりそう。

 

今後の販売数量については下の資料のとおり。2022年から2025年にかけて年間約20%の数量増加を見込んでいる。トーリング販売の増加や新たな変換施設の追加による上振れもありうるとのこと。

今期の販売量の増加要因は、La NegraⅠ&Ⅱ、KemertonⅠ、QinZhou、追加のトーリング販売。

このうち最も期待できるのは、ウォジナ鉱山の再稼働によるトーリング販売(もしくはスポジュメン精鉱の販売)かと思う。

ウォジナ鉱山はトレイン1が5月から、トレイン2が7月からスポジュメン精鉱の出荷を開始している。キャパシティはそれぞれ年産250Ktで合計500Kt(水酸化リチウム70Kt程度に相当)になる。本格的な貢献は2023年からとのことだが、再稼働が順調に進めば業績の上振れが期待できそう。

 

生産キャパシティは、年初の85Ktから年末の200Ktまで倍増する見込み。

・La NegraⅢとⅣ(年産40Kt)は2Qから売上高を計上するという話だった。今回は特に言及なし。

・KemertonⅠ(年産20Kt)は最初の製品を生産した。KemertonⅡ(年産20Kt)の完成は今年末になる。

・Qinzhou の変換プラント(年産25Kt)の買収は今年下半期に完了する予定。

 

キャパシティ500Ktへ向けた拡張計画も進行中。

・Meishan の水酸化リチウムプラント(年産50Kt)の建設が進行中。2024年の完成予定。

・Zhangjiagang はエンジニアリングの段階。

・ネバダ州のシルバーピークでの炭酸リチウムの生産量を倍増させる。

・キングスマウンテンではプレフィージビリティスタディを開始。今回は新たにリサイクル原料を含めた複数の資源を取り扱う「メガ」変換施設の建設を発表した。ただし、まだ許認可が必要な段階とのこと。

・マグノリアの臭素工場では、かん水を活用してリチウムを抽出するDLE技術の評価を行っている。

・グリーンブッシュ鉱山の拡張も進めている。現在はケミカル・グレード・プラント2(CGP2)を増強中。新たにCGP3の建設着工。

 

臭素セグメントの業績は、前年比で売上高+35%(うち価格+31%、数量+4%の寄与)、調整EBITDA+46%の増益だった。リチウムほどではないが好調な業績となっている。

臭素の需要は堅調で、今後も供給不足が続くと考えているそうだ。

2022年のEBITDAは前年比+25~30の増益になる見込み。前回のガイダンスの+15~20%から再び上方修正された。

 

触媒セグメントは、前年比で売上高+42%の減収、調整EBITDA-54%の減益だった。

販売価格・販売数量ともに上昇したものの、天然ガスや原材料費の高騰により打ち消されてしまった。石油・ガス市場の混乱が逆風になっている。

2022 年の調整EBITDAは前年比-25~-65%となる見込み。1Qの横ばい~-65%からさらに下方修正された。


今年前半の株価は低迷していたが、ここ1か月ほどは好調で右肩上がりに推移している。現在の株価は284ドル、時価総額は33Bドル。

上方修正された調整希薄化EPSを使うと今期のPERは13~15倍くらいになる。

1Qの数字が販売契約の見直し前だったことを考えると、足元の実力で見たPERはもう少し低くなりそう(調整EBITDAは、1Q431Mドル、2Q610Mドル、下半期は2Bドル以上の予想)。

加えて来期は販売数量の大幅増加が期待できる(決算資料から見積もると+40%程度)。

リチウム価格の高値が続けば来期のPERは相当低くなると思う。もっとも、循環株としての評価なら、PERの低さはあまり意味がないが。

 

今後の株価はやはりリチウム価格次第かなと思う。

リチウム価格の予想は難しいが、仮に下がるとしたら前回と同じで、生産が容易なスポジュメン精鉱の大幅増産+中国コンバーターの過剰生産という組み合わせになるのかなと思う。

今回のカンファレンスコールでは、中国コンバーターの整備稼働率は6~7割程度ではないかという話があった(アルベマールは中国で委託製造もしていることからある程度推測できるようだ)。

一方のスポジュメン精鉱は、今年の下半期に新規&拡張プロジェクトにより生産キャパシティが大幅に拡張される。

両者が結びつくことで供給が大幅に増える可能性もあるのかなと思う。

ただし、スポジュメン精鉱の増加の多くは垂直統合の会社からなので価格を壊すような増産はしない気がするし(グリーンブッシュ、ウォジナ、マウントマリオン)、中国のコンバーターがバッテリーグレードのリチウム化合物を量産できるのかという問題もあるので、実際にどうなるかは予想しにくい。

 

LTHM ライベント 2022年2Q決算

リチウム準大手。

アルゼンチンのオンブレ・ムエルト塩湖から炭酸リチウムを生産し、アメリカや中国で水酸化リチウムに加工している。

生産コストは低く、会社によると炭酸リチウムでは下位1/4、水酸化リチウムでは下位1/2に入るそうだ。

戦略的にバッテリー向けの水酸化リチウムに注力しており、2021年の売上高の49%が水酸化リチウムになっている。炭酸リチウム&塩化リチウムは17%。

用途別では電池向けが売上高の57%を占めている。

 

2Qの業績は、前年比で売上高+114%の増収、営業利益5.4Mドル→84.7Mドルの大幅増収、調整EBITDA+494%の増益だった。

売上高 218.7Mドル(前年比+114%)

営業利益 84.7Mドル(前年比+1,469%)

純利益 60Mドル(前年比+823)

調整EBITDA 95Mドル(前年比+494%)

調整希薄化後EPS 0.37ドル

 

四半期の売上高、営業利益、調整EBITDAの推移が下のグラフになる。

業績は2020年3Qを底に回復が続いている。1Qに営業利益と調整EBITDAが過去最高を更新したが、2Qはそれを8割前後も上回る大幅な増益となった。

好調な業績は販売価格の上昇が原因。未契約だった水酸化リチウム(全体の1/4)と炭酸リチウムの値上がりが反映されたそうだ。また、ブチリチウムとリチウムメタルの販売価格も年間ベースからより短期にシフトしたとのこと。

ただ、ライベントは主力製品である水酸化リチウムの3/4を複数年・固定価格で販売しているので、2Qがこれほど伸びたのはやや意外だった。

販売数量はわずかに減少。これはCOVIDによる中国での物流混乱などが原因で需要の減少ではないそうだ。

 

リチウム市場の供給不足が少なくとも2023年前半まで続くという見通しから、通期のガイダンスが再び上方修正された。

新たなガイダンスは、売上高800~860Mドル(中央値で前年比+97%)、調整EBITDA325~375Mドル(中央値で前年比+404%)。

 

今後の拡張計画には変更なし。

・ベッセマーシティの水酸化リチウム年産5Ktの拡張は、2022年3Qに完了し、4Qに商業生産に入る。業績に貢献するのは2023年の初めからとなる(原料となる炭酸リチウムの拡張が必要)。

・アルゼンチンにおける炭酸リチウムの拡張は、最初の年産10Ktが2022年末に完成し、2023年の1Qに商業生産を開始する。次の年産10Ktは2023年末までに完成する予定。 

・2023年末までに中国で年産15Ktの水酸化リチウム生産設備を追加する。

・ライベントが50%出資するネマスカは3Qに最終投資決定を行う予定。ネマスカは水酸化リチウム年産34Ktの垂直統合プロジェクト。生産開始は2025年の後半という計画。

 

2022年の設備投資は300~320Mドルで変更なし。2Qまでに132Mドルを支出した。

ライベントは2022~2024年にかけてネマスカを除き1Bドルを投資する計画を発表している。この投資資金は事業からのキャッシュフローで賄う予定。

2022年の営業キャッシュフローの予想は280~340Mドルに引き上げられている。今後も生産量の増加によってさらにキャッシュフローが改善されるそうだ。

 

今四半期のビッグニュースとしてゼネラルモーターズとの長期契約の締結がある。ライベントは2025年から6年間にわたり水酸化リチウムを供給する。

特筆すべきは、2022年に前払いとして198Mドルが支払われること。ライベントは財務的な余裕がないので、投資資金が事前に得られるというのはかなり助かると思う。

なお、販売価格については市場ベースの変動要素が含まれるが、両社の収益を守るためのメカニズムも導入されるそうだ。

 

決算は好調だったが、翌日の株価は大きく下げた。好決算が織り込み済み+決算前日に株価が上げていたこともありそう。

現在の株価は24.66ドル、時価総額は4.4Bドルとなっている。過去1年程度で見ると横ばいのレンジが続いている。

PERは、2Qの調整希薄化EPS0.37ドルを単純に年換算すると16.6倍となる。同業の10倍前後と比べると高い。

ただ、ライベントの生産キャパシティは来年2倍、3年後に3.5倍(ネマスカを入れると5倍超)になるので、数量の伸びは他社よりも大きくなると思う。

リチウム価格の高値が続けば、前年末に複数年・固定価格で契約した水酸化リチウム3/4の値上がりも期待できそう。

この会社は過去に期待を裏切ることが多かったので個人的にはあまり評価していないが、先行きの業績には期待できるのかなと思う。

他の新興企業の時価総額を見ると、ピルバラ6.2Bドル、オールケム5.4Bドル、リチウムアメリカズ3.7Bドルとなっている。長い生産実績があり、大幅な拡張計画も発表しているのを考えると、ライベントの評価は低いのではないかという気がする。

 

09696.HK ティエンチー・リチウム

中国のリチウム会社。アルベマール、SQM、ガンフォンと並ぶ業界大手4社の一角。

会社資料によると、2021年のリチウム化合物の生産量は世界4位、市場シェアは7%。

電池用の炭酸リチウムに限ると世界2位で市場シェアは13.5%。電池用の水酸化リチウムでも世界10位に入るそうだ。

 

会社の保有する上流資源はオーストラリアのグリーンブッシュ鉱山で、ティエンチーは権益の26.01%を持つ(ティエンチーはIGOとのJVであるTLEAの51%を持ち、TLEAはアルベマールとのJVであるWindfieldの51%を持つ)。会社の生産するリチウム化合物の原料はすべてこの鉱山から供給されている。

グリーンブッシュ鉱山の2021年末の埋蔵量は168.3Mt@2.04%、リチウム含有量8.5Mt LCEとのこと。稼働している鉱山の中では最大かつ最高グレードとなる。

生産量も世界最大で、2021年の鉱山生産量の約38%を占めるそうだ。生産コストも最低クラスで、2021年のトータル営業キャッシュコスト(All-In Sustaining Costs)は271ドル/トンとなっている。

 

鉱山のキャパシティ(鉱石の処理能力)と稼働率は下の資料の通り。

現在、テクニカルグレードプラント(TGP)、ケミカルグレードプラント1(CGP1)、ケミカルグレードプラント2(CGP2)が稼働している。2019年に稼働したCGP2は2022年4Qにフル生産に達する見込み。

新たな拡張としてケミカルグレードプラント3(CGP3)が2025年に完成予定。スポジュメン精鉱の生産キャパシティは年520Kt。既存設備と合わせて年間の生産能力は2.1Mtに拡大される。

さらに2025年からはCGP4の建設も計画されている。

 

グリーンブッシュ鉱山以外では、中国の Yajiang Cuola Mine を開発している。この鉱山はアジア最大のリチウム鉱区に属しているそうだ。

資源量は632Kt LCE(グレード1.3%)で、ティエンチーの持分は100%。

2022年後半にフィージビリティスタディを完了させ、2025年の生産開始を目指している。

 

下流のリチウム化合物の精製プラントは3か所。

Shehongでは炭酸リチウム、水酸化リチウム、リチウムメタルを、Zhangjiagangはで炭酸リチウムを、Tongliangではリチウムメタルを生産している。

キャパシティと稼働率は下の会社資料の通り。2021年末の時点では、3か所合計で約45Ktのリチウム化合物の生産能力を持っている。

なお、ティエンチーの生産コストは炭酸リチウム・水酸化リチウムともに市場平均を下回っている。

炭酸リチウムの生産コストは、Shehongが5,481ドル/トン、Zhangjiagangが4,889ドル/トンに対して、世界平均は5,830ドル/トン。炭酸リチウムの生産において不利な鉱石を使い低コストを達成しているのは立派だと思う。

水酸化リチウムの生産コストは、Shehongが5,617ドル/トンに対して世界平均は8,269ドル/トン。2021年に操業を開始した Kwinana は9,910ドル/トンとやや高い。

 

下流設備の拡張計画は下の表のとおり。

オーストラリアのKwinanaが水酸化リチウム48Kt(フェーズ1&2、ティエンチーの持分は51%)、Anjuが炭酸リチウム20Kt、Tongliangが2Ktの追加。

Kwinanaのフェーズ1はすでに建設完了しており、現在は試運転の段階にある。2016年に建設がアナウンスされてから中断を含めてようやく生産を開始することになる。年間キャパシティは24Kt。

Kwinanaフェーズ2とAnjuは2019年にプロジェクトが中断していたが、2022年に建設が再開した。Kwinanaフェーズ2は2024年の完成、Anjuは2023年の完成を目指している。

これらの工場がすべて稼働すると、リチウム化合物の年間生産能力は110Ktを超える。

 

その他に関連会社への投資として、SQMの22.78%、チベットZhabuya塩湖プロジェクトへの20%を保有している。

SQMへの投資金額は4.07Bドル。現在のSQMの時価総額は24Bドルとなっている。

 

続いて業績を見てみる。

過去3年の損益計算書は下の表のとおり。

2021年は売上高が倍増し、営業利益は10倍になっている。

 

売上高に占めるリチウム化合物とスポジュメン精鉱の比率は2:1程度。

リチウム化合物の内訳を見ると、炭酸リチウムの売上高が78%と大半を占めている。

なお、電池用のリチウム化合物は、2021年のリチウム化合物の売上高の84.3%とのこと。

 

販売数量と平均販売価格の推移は下の表のとおり。

販売数量を見ると、リチウム化合物の伸びは低いが、スポジュメン精鉱は2021年に大きく増加している。

平均販売価格は2021年に前年比2倍以上に値上がりした。ただ、それでも足元の中国スポット価格と比べると大幅に低い。

 

2022年1Qの業績は、売上高が前年比6倍近くになり、営業利益も136M人民元→4,780M人民元に急増している。

1Qのリチウム化合物の平均販売価格は326,525人民元/トン(48,364ドル)で前年同期の59,280人民元から大幅に値上がりしている。

スポジュメン精鉱は11,576人民元/トン(1,714ドル)で、前年同期の3,451人民元から大幅な値上がり。販売数量も168,841トンで前年同期の97,160トンから増加した。

 

2Qの決算はまだ発表されていないが、先日プロフィットアラートが出ている。

上半期の純利益 9,600M~11,600M人民元(前年85M人民元)

一時的な損益を差し引いた純利益 8,460M~10,380M人民元(前年19M人民元)

EPS 6.5~7.85RMB

 

バランスシートを見ると、現預金(拘束預金を含む)が2,484M人民元、短期有利子負債が6,676M人民元、長期有利子負債が11,843M人民元となっている。

ティエンチーの有利子負債は大きく、2020年にはグリーンブッシュ鉱山の部分売却まで迫られたものの、リチウム価格の急騰に伴って利益が急増したため(今期上半期の純利益が9,600M~11,600M人民元)、有利子負債はそれほど問題ではなくなっている。

 

株価は現在78.3香港ドル、時価総額は213B香港ドルとなっている(A株116.85人民元×1477M株+H株78.3香港ドル×164M株)。

上半期の業績を単純に2倍して計算すると今期PERは10倍を下回りそうガンフォンやSQMと同レベルの数字となる。

PER10倍は低く見えるが、これが割高か割安かは今後のリチウム価格によるだろう。足元のスポット価格が続けば文句なしに割安だし、現在の販売価格を維持できる水準(4~5万ドル程度)でも数量の伸びを考えれば割安だと思う。

リチウム価格が大きく下げた場合でも数量の伸びである程度はカバーできそうだが、価格下落の環境下では株価の方は厳しくなるかなと思う。

ゴールドマンサックスのレポートのように極端な水準まで価格が下げれば、当然ながら株価は割高になる。

 

他社との比較だと、時価総額はガンフォンと同レベルで、アルベマールやSQMよりやや高い水準にある。

単純に生産量を比較するとティエンチーは他の3社の半分程度なので、SQMの株式の2割を持っているとはいえティエンチーに割高感を感じる。

Kwinanaフェーズ1とAnjuの稼働でティエンチーの生産量は倍増するが、他社も積極的にキャパシティを拡大しているのでそれほど差は埋まらないはず。

 

BRK-B バークシャー・ハサウェイ 2022年1Q決算

バークシャー・ハサウェイの2021年通期の決算と2022年1Qの決算を確認する。

 

この会社の業績はセグメント純利益を見るのが分かりやすい。

セグメントは、保険引受、保険投資利益(配当金など)、鉄道、公共・エネルギー、製造・サービス・小売り、投資・デリバティブ損益、その他に分かれている。

変動の大きい投資・デリバティブ損益を除いて計算すると、最大のセグメントが製造・サービス・小売で全体の41%を占めている。次いで鉄道の22%、保険投資利益の18%、公益・エネルギーの13%、保険引受の3%という順になっている。


投資・デリバティブ損益と2017年の特別利益(Tax Cuts and Jobs Act of 2017)を除く純利益の推移が下のグラフになる。

2015年から2021年の6年間で投資・デリバティブ損益を除く純利益は+58%増加している。年率換算で+8%の成長率となる。

なお、2020年が凹んでいるのは減損損失のため。減損の含まれるその他セグメントを除くと、2019年比では-6%の減益だった。

 

主要5セグメントの純利益の推移は下のグラフの通り。

2015年~2021年の期間で最も伸びているのは製造・サービス・小売りで+83%、次いで公共・エネルギーの+64%、鉄道+41%、保険投資利益+29%となっている。

ディフェンシブセクターの鉄道と公共・エネルギーが(投資・デリバティブ収益を除く)純利益の35%を占めていること、保険投資利益が安定していること、製造・サービス・小売りは2020年のコロナ禍でも-11%の減益にとどまったことから、事業の安定性は高いと思う。

 

2021年の投資・デリバティブ収益を除いた純利益は275億ドル。現在の時価総額は6,133億ドル。事業からの利益だけで考えると実績PERは22.3倍となる。

なお、2022年1Qの業績は、投資・デリバティブ損益を除く税前利益が前年比-2%の減益となっている。

 

続いてバークシャーのもうひとつの柱である投資事業だが、こちらは評価がやや難しい。

バフェット自身はルックスルー利益(バークシャーの持株比率に応じた投資先の内部留保を自社の利益と見なす方法)を推奨しているようだが、この数字は決算書に書かれていないし、個別に計算するのはかなり面倒だと思う。

 

株式・債券・現預金から負債を差し引いてネットの現金同等物を計算する方法もあるが、鉄道や公共・エネルギー事業の有形固定資産と有利子負債が大きいので金額が少なくなる。現金+有価証券-総負債で600億ドル程度にしかならない。

鉄道と公共・エネルギー事業を除くとネットの現金同等物(現金+有価証券-総負債)は約1,800億ドルで、それを時価総額から差し引いて投資・デリバティブ損益と保険事業を除く純利益と比べるとPERは20倍程度まで下がる。

ただ、鉄道や公共・エネルギーを除いて考えるというのもちょっと恣意的な感じがするし、そもそもバークシャーの保有株式については現金以上の価値を期待するのが当然なので、この方法もあまり適当とは思えない。

 

個人的にはバークシャーの投資事業は、保有株式の時価総額×配当を除く市場平均リターン+αくらいで考えている。

仮にアメリカ市場のキャピタルゲインを年6%とすると、2022年1Qのバークシャーの株式保有額3,905億ドルに対する期待リターンは234億ドル、税金(21%)を引いて185億ドルとなる。

3月末から現在までS&P500は-16%程度下げているので、現在の株式保有金額を3,272億ドルにすると、投資事業から期待する純利益は155億ドルとなる。事業からの純利益275億ドルと合計して430億ドル。PERは14倍弱になる。

ただ、この方法もその時点に持っている株式の金額に左右されるので、株式市場の値上がり値下がりや、バークシャーの株式比率によって期待利益が左右されてしまう。短期間で大きく変わることもあるので、あまり当てにならない方法かもしれない。

 

もうひとつバークシャーのキャッシュ比率についても見ておく。

バランスシートの保険&その他(鉄道・公益・エネルギーは含めない)の株式資産と株式以外の投資資産(現金・短期債・債券・その他の投資資産)の推移が下のグラフになる。

近年は株価の値上がりもあり株式資産が急拡大しているのが分かる。株式以外の資産も右肩上がりに増えていたが、2022年1Qは大きく減少した。

 

キャッシュポジションの大きさを見るために、株式以外の投資資産と総資産(保険&その他)、株主資本、フロートに対する比率もグラフにした。

総資産や株主資本に対する比率は減っているが、株価の値上がりで株式資産が膨らんだことも影響しているのかなと思う。

長期で見るとより安定しているのがフロートに対する比率で、2009年と2010年を除いて100~120%程度で推移していた。しかし、2022年1Qは84%まで急落している。

バークシャーは2022年1Qに大きく株式投資を増やしたことが報道されている。キャッシュ比率から考えるとここ十数年で最も株式に積極的になっているようだ。

 

株価は3月ピークの359ドルから直近の271ドルまで約25%下落している。バリュー株の復活で上げた分を完全に戻してしまった。

現在の株価は昨年4~10月と同じ水準にある。この時期にバークシャーは積極的に自社株買いをしていたので、この水準であればバフェットは割高とは考えていないようだ。

また、新型コロナ前と比べると株価は30~40%ほど切り上がっているが、投資・デリバティブ損益を除く純利益が2019年比で+15%伸びているのと、自社株買いによって株式数が7~8%減少しているため、バリュエーションはそれほど上がっていない。

そんなわけで、現在のバークシャーの株価は適正かそれ以下の水準だと考えていいのではないだろうか。

 

6890 フェローテックホールディングス 2022年3月期4Q決算

半導体関連の製品・サービスと電子部品の会社。

磁性流体、真空シール、石英製品、セラミックス、半導体洗浄、サーモモジュール、パワー半導体基板などを提供している。

 

4Q累計の業績は、前年比で売上高+47%の増収、経常利益+216%の増益。期首の予想を大幅に上振れて着地した。

今期の予想も売上高+35%の増収、営業利益+33%の増益と好調を持続する見込み(経常利益は為替差益を見込まないため+7%の増益)。

 

セグメント売上高の推移は以下のグラフの通り。

現在は半導体等装置関連事業、電子デバイス事業、その他の3セグメントだが、2019年までは太陽電池関連事業を行っていた。

2022年の半導体等装置関連事業は前年比+35%の増収。過去の業績を見ると波があるものの右肩上がりに伸びている。

電子デバイス事業は2014年~2015年頃から大きく伸びている。2022年は前年比+56%の増収だった。

 

セグメント利益の推移。

2022年の半導体等装置関連事業は前年比2.5倍と大きく伸びた。業績に波があるものの近年は大きな利益を出している。

電子デバイス事業は前年比+50%の増益。この事業は赤字がなく、安定して利益を出している。

太陽電池事業は2009~2011年ごろに大きな利益を出していたが、2013年以降は撤退するまで赤字が続いていた。

 

次に製品ごとの売上高を見てみる。

半導体等装置関連事業ではコア技術である磁性流体を使った真空シールで65%という高いシェアを持つ。真空シールは半導体製造装置、FPD、LED関連製造装置の基幹部品として使用されているそうだ。

2022年の真空シールの売上高は前年比+24%増加した。ただ、過去10年ほどを見るとそれほど大きく伸びてはいない。セグメントに占める比率は17%程度。

 

フェローテックは真空シールを販売している顧客に対して石英製品やセラミックスなどの半導体生産プロセスで使われる消耗品を拡販してきた。これらの製品(石英製品、シリコンパーツ、セラミックス、CVD-SiC)を半導体マテリアル製品として区分けしている。

2022年の半導体マテリアル製品の売上高は前年比+48%と大幅に伸びた。過去の業績を見てもこの製品は右肩上がりに増えている。

セグメント売上高に占める比率は63%。単体の製品でも石英製品やセラミックスの売上高は真空シールを上回っている。ただ、これらの製品では真空シールのような高シェアは持っていないそうだ。

 

真空シールと半導体マテリアル製品を除いた半導体等装置関連事業の内訳が以下のグラフとなる。

EBガン・LED蒸着装置はほぼ成長がなく横ばいで推移している。

ウェーハ加工は中国でのビジネスだが、株式売却により持分法適用会社となった。この事業は成長期待こそあったものの、赤字かつ多額の投資により財務悪化の原因になっていた。現在のフェローテックの持分は23.05%。中国での上場を目指している。

装置部品洗浄も中国でのビジネス。会社によるとウェーハ洗浄は中国で50~60%の市場シェアを持つそうだ。業績は順調に伸びており2022年は前年比+28%の増収だった。セグメント売上高に占める比率も12%まで上がっている。

石英坩堝は以前は太陽電池関連事業に含まれていた。売上高は減少が続いていたが2022年は久々に大きく回復した。

 

続いて電子デバイス事業。

このセグメントは磁性流体、パワー半導体基板、サーモモジュールで構成されている。なお、パワー半導体基板の数字が分かるのは2017年からでそれ以前はサーモモジュールに含まれていた。

磁性流体は祖業で高シェアを持つものの市場規模が小さいため売上高は少ない。

サーモモジュールは対象物を瞬時に暖めたり冷やしたりすることのできる製品。小型軽量かつ振動騒音がないことから幅広い分野で使われているそうだ。用途別で42%を占めているのが光通信で5G通信機器にも使われる。サーモモジュールはフェローテックのコア技術のひとつであり36%のシェアを持つ。

この製品の売上高は2016年から横ばいが続いていたが、2022年は前年比+35%と久々に大きく伸びた。5G機器向けやPCR検査機など医療分野が伸びたそうだ。

パワー半導体は、産業用機械やEVのモーターなど大きな電力を扱う場所で使われることが多い。フェローテックはサーモモジュール製造技術を応用したDCB基盤を作ってきたとのこと。現在の生産能力はDCB基板が月産110万枚、AMB基板が月産10万枚。DCB基板160万枚、AMB基板45万枚への増産を計画している。

パワー半導体基板の2022年の売上高は前年比+143%と大きく伸びた。この製品は過去数年で見ても成長率が高い。

 

好調な決算と同時に中期経営計画が上方修正された。

従来は2024年3月期に売上高1,500億円・営業利益250億円という目標だったが、今回の修正により売上高2,300億円・営業利益400億円となった。

22年3月期~24年3月期の投資金額も旧計画の950億円から1,800億円に引き上げられた。資金はこれまでに行った増資とキャッシュフローによって賄う見込み。

 

中期経営計画のカテゴリー別の目標売上高を見ると、電子デバイスと半導体サービスの伸び率が高くなっている(半導体金属・装置の伸び率も高いが、これはその他に計上されていた金属加工が含まれるようになるため)。

電子デバイスの内訳は、サーモモジュールが+15.6%、パワー半導体基板が+241.7%とパワー半導体基板の伸び率が非常に高い。パワー半導体基板の2024年の売上高は石英製品やセラミックスを超えて最大になる見込み。

 

バランスシートを見ると2022年3月期の有利子負債は前年から減って395億円となった。

一方で現預金は200億円以上増加して525億円。

中国への積極投資で悪化した財務は、ウェーハ子会社の株式売却や増資によって大きく改善した。

 

株価は決算後に大きく上げたものの、その後は横ばいが続いている。2021年末のピークからは4割近く下げた位置にある。

今期PERは7.6倍。成長率に比べると評価が安い。

半導体銘柄ということで市況のピークが意識されているのと、中国リスクが高いことが原因かなと思う。

2Qの資料によると、売上高に占める中国子会社比率は44%、有形固定資産に占める中国比率は83%となっている。中国の半導体国産化の追い風を受けるポジションではあるがカントリーリスクが高い。

また、中国子会社を上場させる方針から、業績の伸びほど純利益が増えない可能性や、ガバナンス面での不安がある。

パワー半導体基板、シリコンパーツ、半導体洗浄という最も伸びる事業の中国子会社は、上場により5割前後の持分まで低下しそう。

SQM ソシエダード・キミカ・イ・ミネラ・デ・チリ 2022年1Q決算

チリの化学メーカー。

チリ北部のアタカマ砂漠から採れるチリ硝石を使って硝酸ナトリウムやヨウ素を、アタカマ塩湖から炭酸リチウムや塩化カリウムを生産している。

硝酸ナトリウムと塩化カリウムから硝酸カリウムも生産しており、硝酸カリウムは肥料セグメントの主力製品となっている。

 

セグメントはリチウム、特殊肥料(Speciality Plant Nutrition)、ヨウ素、カリウム、工業化学品の5つ。

 

特殊肥料セグメントは、硝酸カリウムと硝酸ナトリウム・カリウム(硝酸カリウムと硝酸ナトリウムの混合物)の販売量が全体の半分以上を占めている。次いでスペシャリティブレンド、その他の特殊肥料、硝酸ナトリウムとなっている。

主力製品の硝酸カリウムは、塩化カリウムや硫酸カリウムと並ぶ三大カリ肥料のひとつで、完全な水溶性、塩素を含まない、窒素を硝酸態で供給(作物の栄養吸収が早い)、土壌の酸性度上昇を避けることができる、などの特徴があるそうだ。値段が高いため、高価値作物の生産者がターゲットになる。SQMの世界シェアは51%とのこと。

 

カリウムセグメントでは、塩化カリウムと硫酸カリウムを生産している。

塩化カリウムはカリウム系の中でも最もよく使われる汎用肥料で、さまざまな作物に使用されている。硫酸カリウムは塩化カリウムを原料に作られる。塩化カリウムよりも値段が高く特殊肥料と見なされるそうだ。

このセグメントの割合は以前は大きかったが、近年は規模が縮小している。カリウムはリチウムとともにアタカマのかん水から生産されるが、生産をリチウムに最適化していること、硝酸カリウムの原材料として使われること、環境保護のためかん水の使用量を減らしていることから販売量が減少している。

 

ヨウ素の最も大きな用途はX線造影剤で、需要の約24%を占めている。次いで医薬品の13%、液晶およびLEDスクリーンの13%、ヨードの8%、動物栄養剤の8%、フッ化物誘導体の7%と続く。2020年には新型コロナの影響でヨウ素の需要が落ち込んだが、2021年はパンデミック前を上回るまで回復した。SQMの世界シェアは31%。

 

リチウムセグメントでは、アタカマ塩湖のかん水を原材料として、チリのプラントで炭酸リチウムと水酸化リチウムを生産している。

炭酸リチウムはLFP(リン酸鉄リチウム電池)バッテリーやニッケル比率の低いNMC(ニッケル-マンガン-コバルト)バッテリーに使われる。LFPバッテリーは、エネルギー密度こそ低いものの低価格で安全性に優れている。

水酸化リチウムはニッケル比率の高い三元系バッテリーに使われる。三元系バッテリーは、エネルギー密度が高いことから今後の主流になると考えられていたが、技術向上によりLFPバッテリーの航続距離が伸びたことから、現在の中国ではLFPが優勢になっている。テスラのモデル3・YスタンダードレンジもLFPバッテリーを採用している。

2021年末のSQMのキャパシティは、炭酸リチウムが年産12万トン、水酸化リチウムが年産3万トン。これを2023年に炭酸リチウム21万トン、水酸化リチウム4万トンに拡張する計画となっている。

チリ以外では、SQMが50%出資するオーストラリアのMt Holland(鉱石プロジェクト)の投資が決定した。クイナナに水酸化リチウムプラントも建設され、原材料からリチウム化合物まで生産する垂直統合プロジェクトになる。こちらは2024年後半に製品出荷の予定。

 

工業化学品セグメントでは、工業用の硝酸ナトリウム、硝酸カリウム、塩化カリウムを生産している。これらは、ガラス、セラミックス、火薬、金属リサイクル、断熱材など、幅広い分野で使用されているそうだ。

また、集光型太陽熱発電所の蓄熱用として硝酸ナトリウムと硝酸カリウムの混合物を含むソーラーソルトが使われており、こちらの成長も期待されている。

ただし、このセグメントが全体の利益に占める比率は2%程度しかなく重要性は低い。

 

1Qの業績は、大幅に伸びた前年4Qのさらに2倍という圧倒的な数字だった。

売上高 20.2億ドル(前年比+282%)

粗利益 11.7億ドル(前年比+752%)

純利益 8.0億ドル(前年比+1,071%)

調整EBITDA 11.9億ドル(前年比+619%)

EPS 2.79ドル

 

四半期の業績の推移は下のグラフの通り。前年4Qからの伸びがものすごいことになっている。

 

セグメント売上高の前年比は、特殊肥料+42%、ヨウ素+59%、リチウム+970%、カリウム+89%、工業化学品-26%。

特殊肥料、ヨウ素も好調だが、リチウムの伸びが大きすぎてかすんでしまう。カリウムは4Q比では減収となった。

 

セグメント純利益の四半期の推移は下のグラフの通り。

この会社はセグメント純利益(Unallocated amountsの前の数字で粗利益に近い金額)の開示が遅く、いまのところ前年4Qまでしか取得できない。多少のズレが出るが1Qの数字に粗利益を使ったのが下のグラフになる。

こちらもリチウムの伸びがものすごい。特殊肥料とヨウ素も好調で、前年4Q比でも増益となっている。

 

続いてセグメント別に見ていく。

特殊肥料セグメントの業績は長らく横ばいで推移していたが、前年4Qからレンジを上抜けしている。1Qは大きく伸びた4Qの業績をさらに上回った。

 

販売量と販売価格は下の資料(左のグラフ)の通り。

販売量は前年4Q比で-25%減少している。

2022年の販売量も2021年よりも少なくなるそうだ。前年並みという前回のガイダンスから下方修正された。

販売価格は前年同期比+89%で、四半期で見ても783ドル/トン→940ドル→1,310ドルと急騰している。

材料のカリウムの値上がりを背景に、販売価格はここ10年で最も高い水準に達している。

 

カリウムセグメントの1Qは、前年同期比では大幅な増収増益だったものの、前年4Q比では大幅な減収減益となった。

 

販売量と販売価格は下の資料の通り(右のグラフ)

前年4Q比で減収減益になったのは販売量が半減したため。2022年の通期でも75万トンと前年の89万トンから減少する見通し。

一方で販売価格は急騰した4Qからさらに値上がりしている。

カリウム価格はウクライナの戦争の影響を大きく受けている。ロシアとベラルーシは世界の供給量の3~4割超を占めるそうだ。

 

ヨウ素セグメントは、前年同期比でも前年4Q比でも大幅な増収増益となった。

 

販売量と販売価格を見ると、販売量は横ばいだが、販売価格が大きく上昇した。短期的に供給が増える見込みがないため需給はタイトで、2022年の販売価格は1Qよりもさらに上昇するそうだ。

販売量については前年並みだが、2023年の初めに1,000トン、2024年に2.500トン生産能力を拡大させる計画。

 

リチウムセグメントの業績はものすごいことになっている。

 

業績の大幅な伸びは、販売量の増加もあるが、販売価格の急騰が主な理由となっている。

1Qの販売価格は38,000ドル/トンで、前年4Qの14,600ドルから大幅な上昇となった。2020年4Qの底値5,300ドルと比較すると、わずか1年弱で7倍に急騰している。

足元では中国のロックダウンによりリチウム価格が多少下げているものの、炭酸リチウムの中国スポット価格はトン当たり40万元台後半(6万ドル後半~7万ドル程度)と依然として高値が続いている。SQMの2Qの販売価格も1Qより多少高くなるそうだ。

なお、SQMの販売契約は、20%が固定価格またはフロアと天井のある変動価格、50%がベンチマークに連動する変動価格、30%が未定とのこと。アルベマールやライベントに比べると変動価格の比率が高いため、価格上昇による恩恵が短期間で業績に反映される。

販売量は、中国のロックダウンの影響で2Qに減少するものの、下半期に回復にする見込み。2022年は14万トンという計画。

 

決算は素晴らしい内容だったが、決算前の株価が堅調だったことや、さすがにリチウム価格のピークが意識されることからか、株価はそれほど反応しなかった。

現在の時価総額は286億ドルで、アルベマールの285億ドルとほぼ同水準になっている。

1QのEPSを4倍して計算するとPERは9倍くらい。

今年14万トンの販売量が来年18万トン+α、2023年のキャパシティが年産21万トン、2024年にMt Holland(年産5万トン)稼働を考えると、数量面では堅調な伸びが期待できる。現在の販売価格が続くという前提であれば割安な株価だと思う。

 

ただし、個人的にはリチウム価格の高騰が何年も続くというのは少し楽観的なのではないかと思う。

前回のブーム&バストと同じく、今回も真っ先に生産が増えそうなのがスポジュメン精鉱だが、今年中に稼働するプロジェクトだけで以下のものがある。

・アルベマールのウォジナ再稼働。5月に年産25万トン+7月に年産25万トン。

・ガンフォンのマウントマリオンの拡張。4月に年産45万トン→60万トン、年末に90万トン。

・ピルバラの拡張。2022年の3Qに年産33万トン→56~58万トン。

・コアリチウム、シグマリチウムの新規稼働。年産40万トン程度。

以上を合計すると160万トンのキャパシティ追加となり、炭酸リチウム換算で約20万トンに相当する。

現在稼働しているグリーンブッシュ、マウントマリオン、ピルバラ、マウントキャトリンの合計が230万トンくらいなのでかなり大きい。

これらの増産によってリチウムの需給がどうなるかは分からないが、現在のように値段がいくら高くても買うという極端な状況は緩和されていくのではないだろうか。

 

3663 アートスパークホールディングス 2022年1Q決算

イラストマンガ制作ソフトのクリップスタジオと主に車載向けのUI開発ソリューションを提供している会社。

クリップスタジオはアマチュアからプロのクリエイターまで幅広く利用されているとのこと。

2022年3月末の累計出荷本数は1,886万本で、うち74.8%が海外向けとなっている。

 

1Qの売上高は、前年比で売上高が+3%の増収、経常利益が+10%の増益だった。

売上高 18.2億円(前年比+3%)

経常利益 4.6億円(前年比+10%)

純利益 2.8億円(前年比-47%)

 

セグメント別に見ると、クリエイターサポート事業は、売上高が+5%の増収、経常利益が+9%の増益だった。

売上高の成長率は新型コロナ後の前年比+40%前後から大幅に落ちている。2018年と2019年の+25%と比べても低い。ステイホームの特需終了やサブスクリプションへの移行が影響していると思われる。

 

サブスクリプションは順調に伸びており、契約数は前年末の47.8万から4月末の56.9万まで増加している。3か月ARRも順調に伸びており、4月は20億円を超えた。

とはいえ、今期のクリエイターサポート事業の売上高が63億円の予想なので、セグメント売上高に占めるサブスクリプションの割合はまだまだ低い。


なお、3月の月次からクリエイターサポート事業の売上高の内訳も開示されるようになった。

全体に占めるツール販売とサブスクリプションは8割程度を占めており、この事業はほぼペイントソフトの売上高と見ていいようだ。電子書籍の売上は低く、前年比で減少している。

 

UI/UX事業は、売上高-9%の減収、セグメント損失1.1億円だった。

カンデラ社ののれんを償却したことで一時期より赤字は減ってはいるが、依然として損失が続いている。今期は2.2億円の赤字予想。

 

1Qの業績は中間の会社予想に比べると良かった。2Qは売上高+4%、経常利益-34%で会社予想を達成できる。

 

決算翌日に株価は大きく上げたが、その後は乱高下している。

株価はピークの1,279円から599円まで下げたあと851円まで戻している。現在の時価総額は309億円。

今期の予想PERは22.7倍。赤字のUI/UXを除いてクリエイターサポートの営業利益×0.7で計算すると20倍弱になる(この会社は営業外の損益もセグメント間の調整も少ない)。

数字は高くもなく低くもないが、クリエイターサポートの売上高成長率が1桁に落ちているのでPEGで見ると割安感はない。

今後は特需終了やサブスクリプションへの移行を経て、クリエイターサポート事業が元の高成長に戻るかどうかが問題になりそう。