チリの化学メーカー。
チリ北部のアタカマ砂漠から採れるチリ硝石を使って硝酸ナトリウムやヨウ素を、アタカマ塩湖から炭酸リチウムや塩化カリウムを生産している。
硝酸ナトリウムと塩化カリウムから硝酸カリウムも生産しており、硝酸カリウムは肥料セグメントの主力製品となっている。
セグメントはリチウム、特殊肥料(Speciality Plant Nutrition)、ヨウ素、カリウム、工業化学品の5つ。
特殊肥料セグメントは、硝酸カリウムと硝酸ナトリウム・カリウム(硝酸カリウムと硝酸ナトリウムの混合物)の販売量が全体の半分以上を占めている。次いでスペシャリティブレンド、その他の特殊肥料、硝酸ナトリウムとなっている。
主力製品の硝酸カリウムは、塩化カリウムや硫酸カリウムと並ぶ三大カリ肥料のひとつで、完全な水溶性、塩素を含まない、窒素を硝酸態で供給(作物の栄養吸収が早い)、土壌の酸性度上昇を避けることができる、などの特徴があるそうだ。値段が高いため、高価値作物の生産者がターゲットになる。SQMの世界シェアは51%とのこと。
カリウムセグメントでは、塩化カリウムと硫酸カリウムを生産している。
塩化カリウムはカリウム系の中でも最もよく使われる汎用肥料で、さまざまな作物に使用されている。硫酸カリウムは塩化カリウムを原料に作られる。塩化カリウムよりも値段が高く特殊肥料と見なされるそうだ。
このセグメントの割合は以前は大きかったが、近年は規模が縮小している。カリウムはリチウムとともにアタカマのかん水から生産されるが、生産をリチウムに最適化していること、硝酸カリウムの原材料として使われること、環境保護のためかん水の使用量を減らしていることから販売量が減少している。
ヨウ素の最も大きな用途はX線造影剤で、需要の約24%を占めている。次いで医薬品の13%、液晶およびLEDスクリーンの13%、ヨードの8%、動物栄養剤の8%、フッ化物誘導体の7%と続く。2020年には新型コロナの影響でヨウ素の需要が落ち込んだが、2021年はパンデミック前を上回るまで回復した。SQMの世界シェアは31%。
リチウムセグメントでは、アタカマ塩湖のかん水を原材料として、チリのプラントで炭酸リチウムと水酸化リチウムを生産している。
炭酸リチウムはLFP(リン酸鉄リチウム電池)バッテリーやニッケル比率の低いNMC(ニッケル-マンガン-コバルト)バッテリーに使われる。LFPバッテリーは、エネルギー密度こそ低いものの低価格で安全性に優れている。
水酸化リチウムはニッケル比率の高い三元系バッテリーに使われる。三元系バッテリーは、エネルギー密度が高いことから今後の主流になると考えられていたが、技術向上によりLFPバッテリーの航続距離が伸びたことから、現在の中国ではLFPが優勢になっている。テスラのモデル3・YスタンダードレンジもLFPバッテリーを採用している。
2021年末のSQMのキャパシティは、炭酸リチウムが年産12万トン、水酸化リチウムが年産3万トン。これを2023年に炭酸リチウム21万トン、水酸化リチウム4万トンに拡張する計画となっている。
チリ以外では、SQMが50%出資するオーストラリアのMt Holland(鉱石プロジェクト)の投資が決定した。クイナナに水酸化リチウムプラントも建設され、原材料からリチウム化合物まで生産する垂直統合プロジェクトになる。こちらは2024年後半に製品出荷の予定。
工業化学品セグメントでは、工業用の硝酸ナトリウム、硝酸カリウム、塩化カリウムを生産している。これらは、ガラス、セラミックス、火薬、金属リサイクル、断熱材など、幅広い分野で使用されているそうだ。
また、集光型太陽熱発電所の蓄熱用として硝酸ナトリウムと硝酸カリウムの混合物を含むソーラーソルトが使われており、こちらの成長も期待されている。
ただし、このセグメントが全体の利益に占める比率は2%程度しかなく重要性は低い。
1Qの業績は、大幅に伸びた前年4Qのさらに2倍という圧倒的な数字だった。
売上高 20.2億ドル(前年比+282%)
粗利益 11.7億ドル(前年比+752%)
純利益 8.0億ドル(前年比+1,071%)
調整EBITDA 11.9億ドル(前年比+619%)
EPS 2.79ドル
四半期の業績の推移は下のグラフの通り。前年4Qからの伸びがものすごいことになっている。
セグメント売上高の前年比は、特殊肥料+42%、ヨウ素+59%、リチウム+970%、カリウム+89%、工業化学品-26%。
特殊肥料、ヨウ素も好調だが、リチウムの伸びが大きすぎてかすんでしまう。カリウムは4Q比では減収となった。
セグメント純利益の四半期の推移は下のグラフの通り。
この会社はセグメント純利益(Unallocated amountsの前の数字で粗利益に近い金額)の開示が遅く、いまのところ前年4Qまでしか取得できない。多少のズレが出るが1Qの数字に粗利益を使ったのが下のグラフになる。
こちらもリチウムの伸びがものすごい。特殊肥料とヨウ素も好調で、前年4Q比でも増益となっている。
続いてセグメント別に見ていく。
特殊肥料セグメントの業績は長らく横ばいで推移していたが、前年4Qからレンジを上抜けしている。1Qは大きく伸びた4Qの業績をさらに上回った。
販売量と販売価格は下の資料(左のグラフ)の通り。
販売量は前年4Q比で-25%減少している。
2022年の販売量も2021年よりも少なくなるそうだ。前年並みという前回のガイダンスから下方修正された。
販売価格は前年同期比+89%で、四半期で見ても783ドル/トン→940ドル→1,310ドルと急騰している。
材料のカリウムの値上がりを背景に、販売価格はここ10年で最も高い水準に達している。
カリウムセグメントの1Qは、前年同期比では大幅な増収増益だったものの、前年4Q比では大幅な減収減益となった。
販売量と販売価格は下の資料の通り(右のグラフ)
前年4Q比で減収減益になったのは販売量が半減したため。2022年の通期でも75万トンと前年の89万トンから減少する見通し。
一方で販売価格は急騰した4Qからさらに値上がりしている。
カリウム価格はウクライナの戦争の影響を大きく受けている。ロシアとベラルーシは世界の供給量の3~4割超を占めるそうだ。
ヨウ素セグメントは、前年同期比でも前年4Q比でも大幅な増収増益となった。
販売量と販売価格を見ると、販売量は横ばいだが、販売価格が大きく上昇した。短期的に供給が増える見込みがないため需給はタイトで、2022年の販売価格は1Qよりもさらに上昇するそうだ。
販売量については前年並みだが、2023年の初めに1,000トン、2024年に2.500トン生産能力を拡大させる計画。
リチウムセグメントの業績はものすごいことになっている。
業績の大幅な伸びは、販売量の増加もあるが、販売価格の急騰が主な理由となっている。
1Qの販売価格は38,000ドル/トンで、前年4Qの14,600ドルから大幅な上昇となった。2020年4Qの底値5,300ドルと比較すると、わずか1年弱で7倍に急騰している。
足元では中国のロックダウンによりリチウム価格が多少下げているものの、炭酸リチウムの中国スポット価格はトン当たり40万元台後半(6万ドル後半~7万ドル程度)と依然として高値が続いている。SQMの2Qの販売価格も1Qより多少高くなるそうだ。
なお、SQMの販売契約は、20%が固定価格またはフロアと天井のある変動価格、50%がベンチマークに連動する変動価格、30%が未定とのこと。アルベマールやライベントに比べると変動価格の比率が高いため、価格上昇による恩恵が短期間で業績に反映される。
販売量は、中国のロックダウンの影響で2Qに減少するものの、下半期に回復にする見込み。2022年は14万トンという計画。
決算は素晴らしい内容だったが、決算前の株価が堅調だったことや、さすがにリチウム価格のピークが意識されることからか、株価はそれほど反応しなかった。
現在の時価総額は286億ドルで、アルベマールの285億ドルとほぼ同水準になっている。
1QのEPSを4倍して計算するとPERは9倍くらい。
今年14万トンの販売量が来年18万トン+α、2023年のキャパシティが年産21万トン、2024年にMt Holland(年産5万トン)稼働を考えると、数量面では堅調な伸びが期待できる。現在の販売価格が続くという前提であれば割安な株価だと思う。
ただし、個人的にはリチウム価格の高騰が何年も続くというのは少し楽観的なのではないかと思う。
前回のブーム&バストと同じく、今回も真っ先に生産が増えそうなのがスポジュメン精鉱だが、今年中に稼働するプロジェクトだけで以下のものがある。
・アルベマールのウォジナ再稼働。5月に年産25万トン+7月に年産25万トン。
・ガンフォンのマウントマリオンの拡張。4月に年産45万トン→60万トン、年末に90万トン。
・ピルバラの拡張。2022年の3Qに年産33万トン→56~58万トン。
・コアリチウム、シグマリチウムの新規稼働。年産40万トン程度。
以上を合計すると160万トンのキャパシティ追加となり、炭酸リチウム換算で約20万トンに相当する。
現在稼働しているグリーンブッシュ、マウントマリオン、ピルバラ、マウントキャトリンの合計が230万トンくらいなのでかなり大きい。
これらの増産によってリチウムの需給がどうなるかは分からないが、現在のように値段がいくら高くても買うという極端な状況は緩和されていくのではないだろうか。