SQM ソシエダード・キミカ・イ・ミネラ・デ・チリ 2021年4Q決算

チリの化学メーカー。

チリ北部のアタカマ砂漠から採れるチリ硝石を使って硝酸ナトリウムやヨウ素を、アタカマ塩湖から炭酸リチウムや塩化カリウムを生産している。

硝酸ナトリウムと塩化カリウムから硝酸カリウムも生産しており、硝酸カリウムは肥料セグメントの主力製品となっている。

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セグメントはリチウム、特殊肥料、ヨウ素、カリウム、工業化学品(工業用の硝酸カリウムなど)の5つ。

会社によると2020年の世界シェアはリチウムが19%、特殊肥料(硝酸カリウム)が48%、ヨウ素が28%、工業化学品が73%とのこと。カリウムは1%以下。

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4Qは前年比で大幅な増収増益だった。3Q比で見ても急激に売上高と利益を伸ばした。

売上高 10.8億ドル(前年比+111%)

粗利益 5.4億ドル(前年比+310%)

税前利益 4.6億ドル(前年比+441%)

調整EBITDA 5.6億ドル(前年比+283%)

EPS 1.1ドル

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セグメント売上高の前年比は、特殊肥料+50%、ヨウ素+53%、リチウム+231%、カリウム+215%、工業化学品-29%。

3Q比で見てもリチウムやカリウムの売上高は2倍以上になっている。

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この会社はセグメントの純利益(Unallocated amountsの前の数字で粗利益に近い金額)の開示が遅く、いまのところ3Qまでの数字しか取得できない。多少のズレが出るが4Qの数字に粗利益を使ったのが下のグラフになる。

リチウムの伸びがものすごいが、肥料とカリウムも大幅増益となっている。

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各セグメントの4Qの販売価格と数量の前年比は下の表のとおり。

販売価格はすべてのセグメントで上がっており、特にリチウムとカリウムの値上がりが大きい。

販売数量も工業化学品を除いて増加している。

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次にセグメント別に見ていく。

特殊肥料セグメントの4Qの販売量は前年比+8%、販売価格は前年比+39%だった。販売価格はQonQでも783ドル/MTから940ドル/MTに大きく値上がりしている。

値上がりは主に硝酸カリウムの価格上昇による。材料のカリウムの値上がりが止まらず、過去10年以上で最も高い水準に達しているとのこと。

2022年の販売数量は前年並みだが、販売価格は前年より高くなるそうだ。

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年ベースの特殊肥料セグメントの販売数量と販売価格が下のグラフになる。

販売数量は緩やかに増加を続けている。販売価格は2012年をピークに値下がりが続いていたが、今年は大きく反発した。

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年ベースの業績が下のグラフ(2021年のセグメント利益には粗利益を使っている)。

長らく横ばいの業績が続いていたが、2021年は数量と値上がりにより過去13年で最高の業績になった。

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カリウムセグメントの販売価格は3Qから急上昇している。4Qは前年比で2.5倍になった。2022年も前年比で大きな値上がりを見込むそうだ。

販売数量は2020年の下半期から増加しており、2021年は前年比で+23%となっている。

ただ、足元で販売数量は増えているものの、アタカマでの生産をリチウムに最適化していることや、環境保護の観点から塩水の抽出を減らしていくため、カリウムの販売量は今後も減少していくとのこと。

 

カリウムセグメントの年ベースの販売数量と販売価格が下のグラフとなる。2018年から販売数量が大きく減っているのがわかる。

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販売数量の減少と販売価格の低迷によって業績は右肩下がりとなっていた。

2021年は価格上昇によって久々に大きな売上高と利益を計上した。

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ヨウ素セグメントの4Qの販売量は前年比+35%、販売価格は+13%だった。

ヨウ素の需要で最も大きいのがはレントゲンの造影剤となっている。新型コロナで需要が落ち込んだが、2021年はパンデミック前を上回るまで回復したそうだ。

販売価格は横ばいが続いていたが、4Qは3Q比で+11%の上昇となった。短期的に供給が増える見込みがないため、2022年も価格上昇が続くと会社は予想している。

生産能力は来年に1,000トン、2024年に2.500トン拡大させる計画。

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ヨウ素セグメントの年ベースの販売数量と販売価格が下のグラフになる。

数量、価格ともに大きく変動しているが、長期では横ばい傾向となっている。

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業績はおおむね販売価格に連動しているように見える。2022年も価格上昇を見込んでいるので、業績の拡大が続きそう。

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リチウムセグメントの4Qの販売量は前年比+21%、販売価格が+174%だった。

販売量も増えているが、4Qは価格の値上がりが目立つ。昨年の契約が切れたことで3Qの8,400ドルから4Qの14,600ドル/トンまで急上昇している。2022年の上半期の販売価格も4Qと比べてかなり高くなるそうだ。

販売契約は、20%が固定価格またはフロアと天井のある変動価格、50%がベンチマークに連動する変動価格、30%が未定とのこと。

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やや長期のリチウムの販売数量と販売価格の推移が下のグラフになる。

SQMはリチウム市場が低迷していた時期にも投資の手を緩めなかったことで、2020年下半期には競合他社に先駆けて生産量を増加させている。

販売価格は短期の契約が多いため変動が大きいが、現在のような価格上昇期には業績が大幅に伸びる構造になっている。

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リチウムセグメントの年ベースの販売数量と販売価格が下のグラフになる。

2021年の販売数量は10.1万トンで、前年の6.5万トンから大幅に増加した。ここ2年で生産能力を大幅に拡大したのがわかる。

販売価格は上半期が低かったためまだピークのはるか下だが、今年は大幅な上昇が期待できる。

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生産能力の拡大は続いており、2022年の上半期には炭酸リチウム18万トン、水酸化リチウム3万トンになる予定。さらに炭酸リチウムと水酸化リチウムの生産能力をそれぞれ21万トン、4万トンに引き上げるアナウンスがあった。

2022年の販売数量は14万トンというガイダンスがされている。2023年は少なくとも18万トンに加えて、拡張による追加生産もあり19万トン~20万トンも期待できるとのこと。

オーストラリアの Mt Holland も最終投資決定がされた。水酸化リチウムプラントは Kwinana に建設される。2024年後半に製品出荷という計画。

 

リチウムセグメントの年ベースの業績が下のグラフ。

売上高は過去最高を更新しているが、利益は前回のピーク程度にとどまっている。しかし、今年の販売量は2018年の約3倍に増えており、スポット価格は以前のピークをはるかに超えているため、今後の業績は大幅に伸びると思う。

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バランスシートを見ると、現預金15億ドルに対して、短期有利子負債が0.5億ドル、長期有利子負債が26億ドルとなっている。

4Q単独で3.2億ドルの純利益を出していることから財務的にはまったく問題なさそう。

 

設備投資は今年9億ドルを見込んでいる。

前回までのガイダンスでは2021年から2024年にかけて総額20億ドルの設備投資(リチウムが11億ドル、硝酸塩とヨウ素の拡張が4.4億ドル、残りがメンテナンス投資)を行うと計画だったが、さらに2.5億ドルの追加投資が発表された(炭酸リチウム21万トン・水酸化リチウム4万トンへの拡張)。

 

決算は素晴らしい内容で、かつ今後の見通しも良かったため、株価は11.6%上げた。現在の時価総額は210億ドルで、アルベマールの218億ドルとほぼ同水準となっている。

YahooFinanceの予想EPS3.74ドルを使うと2022年の予想PERは20倍となる。他のリチウム銘柄と違って常識的な数字。

ただ、4Q単体のEPSは1.1ドルもあるので、実際には大幅に上振れると思う。

リチウムセグメントは、2018年の販売量4.5万トン・販売価格16,300ドル/トン・純利益4.2億ドルを基準にすると、販売価格がどこまで上がるかによるものの純利益20億ドルを超えてもおかしくない気がする。

その他のセグメントの過去の平均は4億ドル程度だが、特殊肥料、ヨウ素、カリウムの好況から好調時の6億ドルくらいは出そうに思える。

ここから全社費用3.5億ドル(2020年)を引いて計算するとPERは10倍前後になる。業績モメンタムとバリュエーションの点で他社よりもかなり魅力的だと思う。

 

ただし、SQMにはカントリーリスクという問題がある。

チリで勝利した左派の大統領は、国営のリチウム会社設立や銅のロイヤルティ引き上げを訴えている。

SQMのリース契約は2030年まで残っており、何年か前に改訂したロイヤルティ契約も炭酸リチウムの販売価格が10,000ドル以上で40%まで上がるという内容になっている。

アルベマールの言うように既存の契約に影響がないというのが楽観的なケースだが、国有化はないまでも何らかの税金引き上げはあるかもしれない。

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