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今年の2月に新規上場した訪問看護サービスの会社。

訪問看護とは、看護師などが病気や障害を持った人の自宅等を訪問し、医師の指示に基づいた看護を行うサービス。

訪問看護の現状とこれから2021年版という資料によると、利用者の疾患は脳血管疾患が15.4%で最も多く、次いで筋肉骨格系が9.0%、認知症(アルツハイマー病含む)が8.6%、悪性新生物が8.3%と続いている。

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提供するサービスは、病状観察、療養指導、リハビリなどが上位になっている。

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訪問看護の利用者は、医療保険や介護保険を使用できる。

リカバリーインターナショナルの場合、サービス種別の割合は介護保険が約6割、医療保険が約4割となっている。

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高齢化の進捗、医療費抑制のための病床削減、住み慣れた場所に住み続けたり自宅で死を迎えたいといったニーズを背景にして市場規模は拡大している。

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市場の拡大とともに事業所数も過去10年で約2倍になっている。しかし、訪問看護の経営は厳しく、年間新設数の半数は廃業に追い込まれるそうだ。

経営上の大きな問題として人材と利用者の確保が挙げられている。

まず看護師は慢性的な人手不足の状況にある。さらに看護師の約8割は病院やクリニックで働いており、訪問看護を働く先と考えている看護師は少数派とのことだ。

また、看護師は売り手市場であるため、就業環境が悪ければすぐに他のところへ転職してしまう。看護師の退職は特に小規模な事業者で問題になる。

利用者は病院やケアマネジャーからの紹介が大半を占める。よって利用者を獲得するには、ケアマネージャーや病院への訪問営業が基本になるそうだ。頻繁に訪問することで認知度を上げ、信頼関係を築く必要がある。

訪問看護ステーション経営の話は下のような記事に書かれている。

訪問看護で高収益を生む「サテライト」の手法:日経メディカル

年間700カ所が休廃業となる訪問看護業界で、拠点を拡大し続けている2つの理由 - Hello News

 

訪問看護業界の大手には、エヌフィールド213拠点(精神疾患に特化)、セントケア96拠点、エムスリー傘下のソフィア67拠点、ニチイ学館64拠点などがいるようだ。大手でもそれほど事業所が多くないように見える。

現状で事業所の過半を占めるのは小規模事業者となっている。しかし、以下のような理由で規模の拡大が重要になるようだ。

・1拠点あたり看護師の最低人数(常勤換算2.5人)がある。

・看護師が辞めたときにカバーできる体制が必要。

・事務作業などの固定費の負担。

・在宅での看取りや重度化に対応できるステーションがより求められる。

・24時間365日体制の可否。

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日本の訪問看護のしくみという資料によると、平均的な収益構造は下の図のようになっている。

1訪問看護ステーション当たりの従事者は7人程度(うち看護職員が5人程度)で、利用者数は約70人、1利用者当たり月に6~8回程度の訪問看護、1 回の訪問看護に係る費用が7,500~11,000円とのことだ。

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リカバリーインターナショナルの場合は業界の平均より多い人員数を基本としており、1拠点につき看護師6名、理学療法士などのリハビリ職5名の11名体制となっている。

会社資料によると、1人当たりの訪問件数は月96回で4年前の82回から右肩上がりに伸びている。上のモデルだと1人当たりの訪問件数は月71回になるので平均を大きく超えているようだ。

その他の特徴としては、東京都西部へのドミナント出店、IT化の推進、未経験者の早期育成プログラム、専門部署を置かない営業などを挙げている。

ITの活用では、利用者情報や事務作業のクラウド化により1名の利用者を複数の看護師で対応できる体制を構築したり(通常は1人1名とのこと)、事務作業の本社一括管理を行なっている。

営業に関しては、看護師が自らケアマネージャーや医療機関とコミュニケーションをとるそうだ。この点は看護師の負担が大きそうであまり利点に聞こえないが。

 

会社の収益構造は下のグラフの通り。

訪問介護と比べると1件当たりの売上高が大きく粗利益が多い。コストに関しては人件費が過半を占めている。営業利益率は13%と介護事業者と比べて高い。

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事業モデルが軌道に乗ったことから、2021年には積極的な出店に転じている。前期4拠点、今期も4拠点、来期は7拠点の新規開設を計画している。

なお、このレポートによると、新規拠点の黒字化には8~10か月かかるそうだが、ドミナントであれば1~2か月で黒字化するとのこと。

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2021年12月期の実績は、売上高+47%の増収、経常利益+619%の増益だった。経常利益率は13.2%に大きく改善した。

今期の予想は、売上高+35%、経常利益+30%の予想。

再来期も売上高+40%、営業利益+57%と高成長を計画している。

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バランスシートは、現預金2億円、売上債権2.2億円。固定資産は0.2億円と小さい。事務所と人材を揃えれば開業できるため。

短期借入0.26億円、長期借入0.4億円。総負債2.4億円。バランスシートは健全。

 

今期の予想PERは16.4倍。成長率と比較すると割安に見える。

市場も成長しており、小規模の競合に比べると競争優位もありそう。

ただ、会社が拡大路線に転じてから1年しか経っておらず、想定通りに規模を拡大できるかまだ不明だと思う。

あとは実績の経常利益率が13%と高いので、利益率の改善はあまり期待できなさそう。