銅、金、ニッケルの開発や製錬、電子材料等の生産を行っている会社。
2021年度の統合報告書によると、銅権益生産量(2020年度の25万トン)は世界18位、ニッケルメタルの生産量は世界5位とのこと。
材料事業ではニッケル系のリチウムイオン電池の正極材(NCA、NMC、水酸化Ni)も生産している。ニッケルやコバルトといった原材料から正極材までを生産するEV関連銘柄となる。
年次ベースのセグメント損益(税引前利益)の推移は下のグラフの通り。
主要セグメントは、資源、精練、材料の3つだが、材料セグメントの重要性は低い。
資源セグメントでは銅と金を開発している。精練よりも利益が大きい年が多いが、ブレも大きく2015年~2016年は赤字を出している。今期はシエラゴルダの売却益が740億円計上される見込み。
精練セグメントはニッケルと銅がメイン。資源に比べるとブレが小さく毎年利益を出している。
住金はEV関連株ではあるものの、資源セグメントの重要性が高いため、基本的には銅の好不調が業績を左右している会社だと思う。
〇資源セグメント
銅の主力鉱山は、モレンシー、セロベルデ、カンデラリア。
モレンシーとセロベルデの生産量は世界でもトップ5に入る。どちらもフリーポート・マクモランがパートナーで、住友金属鉱山はモレンシーの25%、セロベルデの16.8%の権益を持つ。
フリーポート・マクモランの2021年の決算書によると、モレンシーの営業利益は14億ドル、セロベルテの営業利益は18億ドルとなっている。
2020年の営業利益はモレンシー6億ドル、セロベルテ5.5億ドルだった。
2つの鉱山の埋蔵量と年間生産量も掲載されている。
両者を単純に比較すると、モレンシーは10年以上、セロベルタは20年以上も生産できる。モレンシーはやや短いが、資源量が埋蔵量の2倍近くあるので当面の間は問題なさそう。
ただし、どちらも品位は低下傾向とのこと。
モレンシー、セロベルデに次いで生産量の大きかったシエラゴルダは今期中の売却が決定した。この鉱山は今期黒字化したものの、長らく損失を出し続けていた。
シエラゴルダ売却の一方で、テックリソーシズがチリで開発しているケブラダブランカの権益25%を取得している。こちらは2022年後半に生産開始の予定で、年間生産量24万トン、マインライフ28年となっている。埋蔵量は620万トンと巨大で、さらなるアップサイドも期待しているそうだ。
銅(権益分)の生産計画は下のグラフの通り。
シエラゴルダ売却のため中期的に生産量はそれほど増えないが、ケブラダブランカが期待通りの利益を出せば損益面では改善しそう。
金は菱刈鉱山が年6万トン生産している。この記事によると、菱刈鉱山の品位は非常に高く、鉱山寿命も約30年あるそうだ。
新規の鉱山は、IAMGOLDの開発するカナダのコテ(住金の権益は28%)が2023年に生産開始する予定。年間生産量は約10トンでマインライフ18年。
資源セグメントの今期利益は2,020億円という予想。
内訳は、シエラゴルダの売却益が740億、持分法投資利益が420億円(うちセロベルデ250億円、カンデラリア100億円、シエラゴルダ80億円)、本体連結のモレンシーは、フリーポートマクモランの2021年の営業利益14億ドルから計算すると400億円くらいになるのかなと思う。残りの400~500億円は分からない。金の利益も開示されていない。
〇精練セグメント
精練セグメントはニッケルと銅がメインのようだが、両者の割合やそれ以外の金属の比率は不明。この会社は金属別の業績も鉱山別の各種数字も出しておらず、重要情報の開示が少ないと思う。
銅は電気銅を年間45万トン生産している。世界の供給量2,500万トンの約1.6%とのこと。
ニッケルは、主に特殊鋼に用いられる電気ニッケル、電池材料の元となる硫酸ニッケル、ステンレス鋼の製造に使われるフェロニッケルを生産している。
年間生産量は、硫酸ニッケル8万トン未満、電気ニッケル5~6万トン、フェロニッケル1.3万トン程度。
過去数年の生産量を見ると、電気ニッケルとフェロニッケルは横ばいだが、硫酸ニッケルは増加している。
ニッケルのサプライチェーンは下の図の通り。
原材料はインドネシアの出資鉱山・製錬所から調達したニッケルマットと、フィリピンのコーラルベイ・タガニートHPAL(High Pressure Acid Leach、高圧硫酸浸出)で作ったニッケル・コバルト混合硫化物(MS)。
コーラルベイとタガニートのHPALは年間5万トン前後のMSを生産している。
住金の特徴は、HPALによって電池材料にも使われるクラス1ニッケルを生産しているところだろう。
クラス1ニッケルの多くは硫化鉱から生産されるが、世界的にも大規模な硫化鉱の新規鉱山はほとんどない。低品位・大規模の硫化鉱資源は存在するが、採算を取るのに高いニッケル価格が必要になるため開発が進んでいない。
HPALは豊富に存在する酸化鉱からクラス1ニッケルを生産する方法。コーラルベイ・タガニートを含めていくつかのプロジェクトが稼働しているが、技術的な難易度が高く失敗したプロジェクトも多い(HPAL:Upping The Pressure)。
さらにHPALには環境問題もある。製造に伴って大量の尾鉱が発生するため、この処理が問題となる。
クラス1ニッケルはEVの普及に伴って需要が大きく伸びることが予想されている。この需要を満たすためにインドネシアで多数のHPALプロジェクトが計画されているが、難度の高さや環境問題からどれくらい実現するかは不明。
なお、住金もインドネシアのポラマで第3のHPALプロジェクトを計画している。年間生産量4万トン。現在はDFSを継続中だが、新型コロナウイルスの影響により遅れが生じている。
〇 材料セグメント
電池材料がセグメント売上高の半分を占めている。
会社の生産するニッケル系の正極材はパナソニック-テスラなどに供給されている。ニッケル系の正極材ではトップクラスのシェアとなるそうだ。
最近では、採算性のある電池材料のリサイクル技術を発表したり、住友大阪セメントからリン酸鉄リチウム事業を買収したりとEV関連のニュースを出している。
業績好調かつロシアのウクライナ侵攻によるニッケル価格の高騰(ロシアはクラス1ニッケルの供給量の2割を占めるそうだ)もあり株価は大きく値上がりしている。
現在の時価総額は1兆9,159億円。
予想PERは7.3倍だが、シエラゴルダの売却益を除くと10倍程度になりそう。
今後の業績は資源価格次第だが、今年の後半にケブラダブランカ、来年にコテ金山が稼働するので、資源価格が変わらないという前提なら割高ではないと思う。