チリの化学メーカー。
チリ北部のアタカマ砂漠から採れるチリ硝石を使って硝酸ナトリウムやヨウ素を、アタカマ湖からリチウムやカリウムを生産している。
硝酸ナトリウムと塩化カリウムから硝酸カリウムも生産している。硝酸カリウムは特殊肥料セグメントの主力製品。
セグメントはリチウム、特殊肥料、ヨウ素、カリウム、工業化学品(集光型太陽熱発電向けの硝酸塩)の5つ。
2019年の世界シェアはリチウムが15%、特殊肥料が51%、ヨウ素が25%、工業化学品が41%と高い。カリウムは1%以下。
4Qは前年比で売上高+9%の増収、調整EBITDA-7%の減益、純利益±0だった。
セグメント売上高は、特殊肥料が前年比+4%、ヨウ素が-23%、リチウムが+37%、工業化学品が+41%、カリウムが+6%となっている。
落ち込みの大きいヨウ素は新型コロナの影響で市場の需要が減少したため。ヨウ素の最大の用途はレントゲン造影剤で2割以上を占めている。需要の落ち込みは新型コロナの影響が薄れるとともに回復するとのこと。
リチウムの増収は生産キャパシティの拡張によって販売数量が増加したため。4Qの販売数量は25.8Ktと大幅に伸びて2020年の通期では64.6Ktとなった。
足元では月産7Ktを達成しており2021年の生産と販売は80Ktを超えそうとのこと。
数量増加の一方で平均販売価格は低迷している。2021年の販売価格は上昇するものの大幅な値上げは見込んでいないそうだ。
なお、この記事によると中国内のバッテリーグレード炭酸リチウムのスポット価格は今年に入って+68%上昇している。SQMは主力製品が炭酸リチウム、中国での販売が多い(2Qでは1/3を占めると言っていた)、短期契約が大きいということから恩恵を受ける銘柄となる。
セグメント利益(管理費・利払い費用・税金前の利益)の推移。
前年比では特殊肥料が+5%、ヨウ素が+12%、リチウムが-18%、工業化学品が-24%、カリウムが-14%となった。
ヨウ素は売上高が減ったものの高水準の利益を維持している。リチウムは前年比では減益だが、四半期比では大幅増益となった。
通期の決算が出たので年間ベースの業績推移も見てみる。
長期で見るとSQMの売上高は伸びておらず純利益もやや低迷している。
赤字の年がなく、リーマンショックでも十分な黒字を確保しているのはプラス点に思える。
続いてセグメントごとに見てみる。
特殊肥料の業績は多少の波はあるがおおむね横ばいで安定している。利益率(SQMのセグメント純利益は管理費・利払い費用・税金前の利益)は20~30%。
販売数量はやるやかに増加しているものの、平均販売価格がゆるやかに低下している。
ヨウ素の業績はぶれが大きい。
セグメント利益率は最高で63%、2020年も50%とかなりの高収益事業となっている。
販売価格は変動が大きく業績がぶれる原因になっている。販売数量もやや波がある。
リチウムは2016年~2018年のブーム時に大幅に業績を伸ばした。しかし、その後の価格下落で2019年と2020年は大幅な減収減益となった。
利益率は2017年の71%をピークに2020年は22%まで落ちている。
販売数量は長らく40Kt前後で推移していたが、70Ktへの拡張が完了したことで2020年は大幅増加となった。
会社は炭酸リチウムの生産キャパシティを2021年末に120Kt、2023年末に180Ktまで拡張するとアナウンスしている。
さらにオーストラリアの Mt Holland への投資も最終決定された。年間50Ktのバッテリーグレードの水酸化リチウムを生産する計画。2024年下半期に生産開始の目標。
平均販売価格は2018年の16.3ドル/トンをピークに2020年は5.9ドルまで落ち込んでいる。
カリウムの業績は右肩下がり。
アタカマ湖での生産をリチウムに最適化したことでカリウムの生産量が減っているそうだ。
また、環境保護の点から塩水の抽出を減らしていくという話もしており(それでもリチウムは生産量を増やせると言っている)この事業の成長は見込めなさそう。
販売数量はピークから半減している。
工業化学品は集光型太陽光発電のエネルギー貯蔵に利用するソーラーソルト(硝酸ナトリウムと硝酸カリウムの混合物)を作っている。
集光型太陽光発電システムについては日経新聞の記事が分かりやすかった。
面白そうな事業ではあるが、業績へのインパクトはリチウム、特殊肥料、ヨウ素の主要3事業に比べると低い。
各セグメント売上高を積み上げたのが下のグラフとなる。
2011年~2012年ごろは特殊肥料、ヨウ素、カリウムが好調だったことが分かる。
その後はヨウ素とカリウムが落ち込むものの2016年~2018年にかけてリチウムが伸びることで再び増収基調となった。
2019年と2020年はヨウ素がやや戻したがリチウムの大幅な落ち込みをカバーしきれず減収になっている。
セグメント利益の積み上げグラフ。
2012年と2020年を比べるとヨウ素とカリウムの落ち込みが大きい。リチウムは好調時の2016年~2018年にセグメント利益の半分以上を占めていた。
特殊肥料とヨウ素はゆるやかな数量の増加もあるが劇的な成長は見込めなさそう。カリウムはじり貧。というわけで今後の業績はリチウム次第ということになりそう。
SQMの実力だが、過去の業績を見るかぎり特殊肥料とヨウ素は合わせて300Mドル程度の利益は出せそうに見える。カリウムと工業化学品は100Mドル未満といったレベル。
リチウムは2016年の平均販売価格10.4ドル/トン(適度な価格)の業績が参考になるのかなと思う。現在はキャパシティが約1.5倍に増加したので同条件であれば500Mドル程度が見込める計算となる。
以上のすべてを足すと850~900Mドル程度、その他の費用(管理費・利払い費用・税金など)が毎年300Mドル前後あるので純利益は550~600Mドルくらいが実力ということになりそう。現在の時価総額で計算するとPERは24倍となる。
SQMのバリュエーションはアルベマールよりも魅力があるように思う。リチウム価格が低迷する時期に投資を緩めなかったことで業績に上積みがある一方で、株価は他のリチウム銘柄ほど上げていない。
短期契約主体のためリチウム価格の上昇により業績が一気に改善しそうなのも見栄えが良い。
さらに足元ではSQMの主力製品である炭酸リチウムに追い風が吹いている。
つい最近までEVの電池はエネルギー密度の高いニッケルメインの正極材が主力になっていくと見られていた。ニッケルメインの正極材には水酸化リチウムが使われる。しかし、中国で小型EVが売れていることやテスラがリン酸鉄リチウムイオンバッテリーをより多く使うのではという報道からの炭酸リチウムが見直されている。
水酸化リチウムではかん水と鉱石の生産コスト差が少ないとされるが、炭酸リチウムではかん水の方が生産コストは低い。
SQMの不安点としては販売価格の低さがある。SQMの平均販売価格は欧米向けや日韓向けはおろか中国国内のバッテリー向け炭酸リチウムのスポット価格も下回っている。実際にどれくらいの品質の製品を生産できているのかよく分からない(アルベマール、ライベント、オロコブレはカンファレンスコールや決算資料で言及がある)。