貿易戦争への対応

ここ最近は貿易戦争が話題になっていますが、このイベントにどう対応すべきかを考えています。

とりあえず現在までにネットで見た情報と現時点での僕のスタンスを書いてみます。

 

関税の状況

・鉄鋼とアルミニウムへの関税が3月に発動。

・7月初めに中国への500億ドル規模の製品に対する25%の関税の一部が発動。

・中国の報復に対して2,000億ドル規模の製品への関税を検討中。

・さらなる報復に対しては3,000億ドル規模の追加関税を行うとの発言。

・輸入車への関税引き上げを検討。

現状では、トランプ大統領の発言はあくまでも交渉材料であり本格的な貿易戦争には突入しないという見方が多いようです。しかし、鉄鋼・アルミに対する関税や中国に対する最初の関税も実現しているので完全に口だけの脅しというわけでもなさそうです。今後は中国に対する追加の関税が実現するかが問題になると思います。

 

関税の規模

アメリカの中国からの輸入はJETROによると5,064億ドルです。500億ドル規模の関税は輸入の10%程度に、追加の2,000ドル規模の関税が加わると輸入の約半分に相当します。さらにトランプ大統領の発言すべてが実現すれば中国からの輸入のすべてが関税引き上げの対象となります。

なお、アメリカの輸入総額は2兆9,000億ドルなので、中国への関税が実行されたとしても依然として全体の一部ではあります。ただ、アメリカはその他の国とも激しくやりあっているためどこまで規模が拡大するのか不透明です。

 

実体経済への影響

関税の引き上げによる経済への影響ですが、とりあえず数字が書かれている記事を探してみるといくつかヒットしました。

 

米中貿易摩擦問題と日本株

対中制裁関税の米国経済への影響が表になっています。

500億ドル相当・関税率25%のGDP押し下げ効果がマイナス0.05%~0.1%、2,500億ドル相当・関税率13%のGDP押し下げ効果がマイナス0.19%~0.38%と試算されています。

 

Why a major trade war could mean a ‘full-blown recession’ - MarketWatch

バンク・オブ・アメリカ・メリル・リンチのアナリストによるモデルでは、世界のすべてのモノとサービスに10%の関税がかかったと仮定したとき、GDP成長率は最初の年に0.4%、次の年に0.6%下がるとの予想です。

 

第1節 自由貿易のメリット:通商白書2017年版(METI/経済産業省)

OECDの2016年11月の Economic Outlook によると「米国、欧州、中国が輸入品に対する関税等の貿易コストを10%引き上げた場合、世界のGDPを1.4%押し下げ、世界貿易を6%減少させるとの試算」だそうです。

 

Opinion | Thinking About a Trade War (Very Wonkish) - The New York Times

ポール・クルーグマンによると、世界的な全面的な貿易戦争が起こった場合、関税は30~60%上昇して、貿易は大幅に(おそらく70%も)減少するものの、それに比べると世界のGDPの減少は破滅的ではない(たぶん2~3%)そうです。経済学者らしく各種数字についての根拠が説明されています。

 

1930 年代の貿易戦争の教訓

大恐慌時代の関税引き上げの影響についての研究が紹介されています。

関税引き上げの景気への影響を推定するのは難しいとのことですが、Crucini and Kahn の研究では貿易戦争による米国の実質GDPの押し下げは最大2%という推定です。

 

いずれの試算を見ても貿易戦争がもたらす実体経済への悪影響は思ったほど大きくないかなという印象です。ただし複数の記事で指摘されていますが、試算にはサプライチェーンの破壊による悪影響やセンチメントの悪化などは考慮されていないため、実際にはこれよりも悪くなる可能性もあるそうです。

 

マイナス幅のインパクト

World Economic Outlook: Crisis and Recovery(Chapter3)によると、近年の先進国のリセッションにおけるピークからボトムへのGDPの下落幅はマイナス2%程度とのことです。

この数字から単純に考えると、局地的な関税引き上げであれば悪影響は吸収可能かもしれませんが、世界的な貿易戦争が起きた場合はリセッションに入ってしまう可能性も高いのかなと思います。

また、 日本の場合は潜在成長率が1%前後と低いので、わずかな押し下げ幅でも簡単にマイナス成長に転落してしまいます。

トランプ大統領は自動車への関税を上げると言っていますが、これが実現すると日本経済にとってはかなりのマイナスになるのではないでしょうか。こちらの記事によると「日本車を含む輸入自動車に対して一律25%の関税を課した場合、日本の国内総生産(GDP)は0.3―0.4%ポイント押し下げられる可能性がある」とのことです。

 

僕のスタンス

いまのところは貿易戦争がリセッションを引き起こすと仮定してポジションを減らすのは分が悪いかなと思っています。

まず関税の掛け合いがどこまでエスカレートするか不明ですし、 貿易戦争がリセッションを引き起こすかも分かりませんし、たとえリセッションが起きたとしても必ず株価が暴落するわけでもありません。

株価の大幅下落はまれな出来事であるという基本に反してマーケットタイミングを取れるほどの確信はないかなという感じです。

ただ、それなりにリスクのありそうなイベントなのに対して、株式市場がほとんど反応していないのは気になります。いつもはリスクイベントに敏感に反応する日本株や日本円がほとんど無風なのは違和感があります。

自分の見通しが外れたときの保険としては、オプションのプット買いや長期移動平均線を使ったマーケットタイミングを考えています。

株価は高値圏にありインプライド・ボラティリティも低いためプットオプションは買いやすいですし、長期移動平均線のマーケットタイミングは長期的にはダマシによってリターンが減るかもしれませんが安全策としては効果的だと思います。