中国経済の先行きについて

低迷が続く中国経済について個人的な考えを書いてみる。

まず現在の景気低迷だがおおむね以下の要因の組み合わせで起きているのかなと思っている。

・構造的な成長率の低下

・循環的な景気減速

・アメリカとの貿易戦争

・民間債務のデレバレッジ

 

・構造的な成長率の低下

経済規模が大きくなるにつれて成長率が落ちるのは自然なので、中国の経済成長率が過去最低を記録したといった話はそれ自体は問題ではないと思う。

下のグラフは中所得国の罠というレポートの中にあった1人当たりGDPと成長率のグラフ。どの国も豊かになるにつれて経済成長率は低下している。中国の実質成長率6%というのは高くはないが低すぎるということもないと思う。

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鉱工業生産や小売売上高も今年1-9月の前年比成長率はそれぞれ5.6%、8.2%と近年で最低の数字を記録した。ただ、こちらも長期で見れば右下がりの延長線上にある。

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・循環的な景気減速

鉱工業生産指数や小売売上高は2018年初め~中頃から低下しているものの少し長期で見ると急落というほどでもない。

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景気低迷が分かりやすいのは製造業PMIの方で2018年の中頃から悪化している。

ただ、悪化の程度はリーマンショックに比べるとはるかに軽く、2014年後半から2016年初めにかけての低迷と似たレベルにとどまっている。

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 比較的信頼できるという発電量も落ちてはいるが前回の下落に比べると軽い。9月には大幅に改善している。

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主要統計で最も落ち込みが明確なのは自動車販売台数。こちらは2018年9月から2桁のマイナスとなっていた。しかし2019年7月には1桁のマイナスに戻っている。

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自動車販売が低迷している理由はいくつかのレポートで解説されていた。たとえば中国で低迷が続く自動車販売にはこんな要因が書かれている。

・小型車減税廃止の影響(2017年末に終了。前回の減税同様であれば2019年中は低迷が続く)。

・減税期間中に購入を積極化させた中低所得層の所得の伸びの低下。住宅ローン負担の増加。

・自動車普及率上昇テンポの鈍化。今後は2桁の伸びはとても見込めない。

・ガソリン車の敬遠とNEV規制。

 

自動車販売を含めて各種の経済指標は確かに悪化している。ただ、単に循環的な景気低迷であれば時間が経てば回復に向かうと思う。

戦後の日米の景気後退は平均すると1年に満たない期間だった。それを参考にすると中国の景気低迷も今年後半から来年には底入れが期待できることになる。

 

・アメリカとの貿易戦争

輸出の前年比を見ると昨年後半から0%付近まで落ちているものの落ち込みのレベルは2015~2016年の方が大きい。他の指標と同じく輸出も決定的に悪化しているわけではなさそう。

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ただし、貿易戦争の影響自体は大きいようだ。

中国経済の現状評価と見通しというみずほのレポートには制裁第1~3弾と制裁第4弾の品目の対米輸出額が載っており、制裁第1~3弾の対米輸出が約3割減少したということが書かれている。

さらに第4弾が発動した場合はGDPを0.6%押し下げるという試算も載っている。ただしインフラ投資の下支えなどで大幅な景気下振れは回避されるだろうとのこと。

 

貿易戦争の影響については以前も色々レポートを見たが、数字的な押し下げ幅はそこまで大きいわけではない。

サプライチェーンの見直しなど長期的な悪影響はあるかもしれないが、 短期的に中国経済を大幅な景気後退に導くほどのインパクトはなさそうに思える。

 

・過剰債務のデレバレッジ

民間債務の急増については以前にも記事にした。

中国の民間債務は急増しておりその水準も高い。また、民間債務の削減が起きると景気後退も深刻になるというレポートもある。

現在の数字をチェックすると、2017年1Qから民間債務/GDP比率はやや低下していたが2019年1Qに増加に転じている。

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Total Credit to Private Non-Financial Sector, Adjusted for Breaks, for China


民間企業部門の債務/GDP比も19年1Qに増加に転じている。

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Total Credit to Non-Financial Corporations, Adjusted for Breaks, for China

 

民間債務についてはGDP比で何パーセントを越えたら問題になるといった明確な定義はなく、あくまでも短期間に急増した場合は深刻な景気後退が続くことが多いという経験則だと思う。

この問題がどれだけ経済的に影響を与えるかを予想するのはなかなか難しいと思う。

 

以上見てきたことから個人的な見方を書くと、現在の中国経済の低迷はまず構造的な成長率の低下があったところに民間債務のデレバレッジが加わったのが発端であり、これに循環的な景気減速が重なり、さらに貿易戦争が追い打ちをかけたというところではないかと思っている。

しかし、民間債務のデレバレッジはひとまずストップしているし、対米貿易戦争単体では大幅な景気後退を引き起こすほどの力はなさそうだし、経験則からすると循環的な景気低迷は近いうちに終わりそうということで、貿易戦争の更なる悪化などがなければ中国経済の底打ちも近いのではないかと思う。

実際のところ指標によっては回復の兆しがあるものもあるし、OECDの景気先行指標や上海総合指数はすでにひとまず底打ちしている。