ALB アルベマール 2021年4Q決算

リチウム、臭素、触媒を生産する会社。

リチウムでは最大手の一角。チリのアタカマ塩湖、オーストラリアのグリーンブッシュ鉱山(持分49%)、同じくオーストラリアのウォジナ鉱山(持分60%)を持つ。アタカマとグリーンブッシュはかん水と鉱石でベストの資産とされる。

臭素は難燃剤が主な用途。他にもエレクトロニクス、自動車、建設、アプライアンスなど幅広い産業に使用されるGDP比例のビジネス。アルベマールはこの業界のマーケットリーダーとのこと。コスト競争力のある死海とアーカンソー州で事業を行っている。

触媒はガソリンなどの精製やディーゼルや石油原料の汚染物質を取り除くのに使われる。この部門は新型コロナによる移動制限が逆風になっている。

 

4Qの業績は前年比で売上高+2%の増収、調整EBITDA+3%の増益となった。営業利益は一時費用(Loss  on sale of business)により赤字。

売却したファインケミストリーサービスを除くと、売上高は+11%の増収、調整EBITDAは+12%の増益とのこと。

売上高 894Mドル(前年比+2%)

営業利益 -31Mドル(前年比-125%)

調整EBITDA 228Mドル(前年比+3%)

調整希薄化EPS 1.01ドル。

 

四半期の売上高と調整EBITDAの推移が下のグラフになる。新型コロナで落ち込んだ後の回復は鈍い。

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通期の業績は、売却したファインケミストリーサービスを除くと、売上高+11%の増収、調整EBITDA+13%の増益だった。調整希薄化EPSは4.04ドル。

年ベースの売上高、調整EBITDA、営業利益の推移が下のグラフになる。

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各セグメントの調整EBITDAの推移が下のグラフ。

リチウムは第一次ブームの2017年~2018年に大きく伸びた後、2019年と2020年に減益となった。ただし、長期・固定価格の販売戦略をとっていたため、同業他社に比べると落ち込みが非常に小さい。2021年は販売数量の増加と価格上昇により盛り返した。

臭素は高い成長率ではないが右肩上がりに伸びている。触媒は新型コロナの影響で業績が大きく落ち込んでいる。

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なお、現在のところ臭素や触媒はリチウムと並ぶ柱になっているが、将来的にはリチウムセグメントが利益の大部分を占めることになる。

インベスターデイのプレゼン資料によると、2026年の全体の調整EBITDA2.2~2.6Bドルに対して、リチウムは1.7~1.9Bドルという目標になっている。

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2022年のガイダンスは、売上高+30~40%、調整EBITDA+35~55%、調整希薄化EPS5.65~6.65ドル。

インフレと税金の影響から1QのEBITDAが最も高くなるそうだ。

 

続いてセグメントの業績を見てみる。

リチウムの4Qは、前年比で売上高+13%の増収、調整EBITDA+13%の増益だった。売上高の内訳は、価格が+18%、数量が-5%の貢献。

足元で中国のスポット価格が暴騰しているが、アルベマールは長期・固定価格の販売戦略をとっていたため、2021年の業績への影響は小さかった。販売価格が前年比プラスに転じたのも2021年の3Qと遅い。

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2021年の通期の業績は、前年比で売上高+19%の増収、調整EBITDA+22%の増益だった。連続して上方修正されたガイダンスも上回って着地した。

 

2022年の調整EBITDAは、前年比+65~85%の増加というガイダンス。

年間生産量は+20~30%の増加、平均販売価格は+40~45%の上昇を見込む。3Qでは販売価格の上昇率は+15~20%と言っていたので大きく上方修正された。

バッテリーグレードの販売契約は、50%がグローバル価格に変動要素を組み込んだ上限・下限付きの契約、10%が中国のスポット価格に連動、残りが固定価格の契約との話。以前より変動部分を増やしている。

 

2021年のベースロード生産量は88Kt。炭酸リチウムと水酸化リチウムが半々。生産拠点は、Silver Peak、Kings Mountain、Xinyu、Chengdu、La Negra I & II。

原材料のほとんどはアタカマとグリーンブッシュからで、チリの La Negra で炭酸リチウムを生産、グリーンブッシュから採掘した鉱石を中国のプラントに運び水酸化リチウムを生産している。

拡張計画は以下の通り。

・La NegraⅢ&Ⅳ (年間40Kt)は現在は試運転・品質確認のプロセス。2Qに最初の売上を計上する。3Qのアナウンスによると2022年末のランレートは30Ktとのこと。

・Kemerton(年間50Kt、持ち分60%)はトレイン1が昨年の11月に完了した。現在はトレイン2の建設に注力している。トレイン1は2022年の下半期に最初の売上を計上する。トレイン2の建設完了は2022年下半期で、最初の売上は2023年となる。

・Qinzhou の買収は今年の上半期に完了する予定。キャパシティは25Ktで50Ktへの拡張も見込める。プラントは現在稼働中で、スポジュメン精鉱のトーリングを始めている。売上高は下半期から計上される見込み。

・中国(MeishanとZhangjiagang)で2つの水酸化リチウムプラントを建設する。キャパシティはそれぞれ50Kt。2022年に建設開始して、2024年末までの完成を目指す。

・ウォジナの再稼働は順調に進んでおり、2022年2Qに生産が開始される予定。全体のキャパシティはスポジュメン精鉱750Ktだが今回は250Ktを稼働させる。鉱石のみを販売する計画はなく、あくまでも製品化して販売していくと3Qに言っていた。

 

リチウム市場の見通しについては、従来の予測を上方修正した。新たな予想では2025年に1.5Mtを見込む。前提となるEVの販売台数は2,270万台でシェア22%。2021年は630万台で8.3%とのこと。

 

チリの新政権に対するコメントも少しあった。リチウムの既存事業やロイヤルティが全面的に変わるとは考えていないとのこと。

アルベマールやSQMはロイヤルティやリース契約を改定して日が浅い。アルベマールのリース契約は2043年まで残っている。楽観的に見れば影響は限定的にも思えるが、新政権次第でリスクは残りそう。

 

臭素セグメント。

4Qは前年比で売上高+10%増収、調整EBITDA-1%の減益だった。通期では売上高+17%の増収、調整EBITDA+11%の増益。

2022年も経済の回復と堅調な難燃剤需要を背景に、前年比+5%~10%の増加を見込む。

四半期の売上高と調整EBITDAの推移が下のグラフ。非常に安定した事業だと分かる。

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触媒セグメントの4Qは前年比で売上高+2%の増収、調整EBITDA+24%の増益だった。通期では売上高-5%の減収、調整EBITDA-18%の減益。ガイダンスをやや上振れて着地したが、業績自体は依然として低空飛行が続いている。

2022年は調整EBITDA+5~15%の増加を見込む。

触媒の販売数量がパンデミック前に戻るのは2022年後半~2023年になるそうだ。2022年も改善はあっても厳しい状況が続きそう。

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決算の数字はコンセンサスを上回ったが、ガイダンスに失望されたためか株価は急落した。現在は190.76ドルで、時価総額22.3Bドルとなっている。

株価の急落については、ちょっと投資家の期待が高すぎたのかなと思う。

アルベマールは基本的に安定路線の会社で、リチウム価格が暴落したときも業績悪化が限定的だった。反対に上昇局面になった時に業績がそれほど伸びないのは仕方ないと思う。

まあ、過去の業績を見ると、ピークの2018年はキャパシティ65Ktで調整EBITDA530Mドルだったので、今期の生産量110Kt程度(2021年のベースロード生産量88×1.2~1.3倍)で調整EBITDA791~887Mドルはやや少ない気がする。とはいえリチウム価格の高値が続けば、遅かれ早かれ業績に反映されるはず。

 

この会社のより本質的な問題はバリュエーションの高さだと思う。

株価はピークの280ドル超から大幅に下げているものの、今期の予想PERは29~34倍と依然として高い。PER30倍だと Wave2 がフル稼働しても、販売価格の大きな上昇がない限り割安感は出ないと思う。

Wave3が完成すればキャパシティは2018年の5倍になるのでさすがに割安になるだろうが、下の拡張スケジュールを見ても分かるように、Wave3がフル稼働するのは2027年くらいになる。時間の経過を考えると現在の株価は魅力的とは言えないと思う。

唯一、リチウム市場の好調が続き、アルベマールも過去の高値を大きく超えて販売できるのであれば割安感が出るかもしれない。

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バリュエーションを除けば、リチウム銘柄の中では業績が非常に安定しているし、保有する資産も一級品で、成長戦略もしっかりしており、製品のバランスもいい。この業界ではダントツの優良株だと思う。