リチウム大手3社については下の記事を書きましたので、今回はリチウム開発の新興企業について見てみます。
開発中のプロジェクトと開発会社の時価総額
アルベマールのプレゼンテーション資料に現在開発が進んでいるリチウムプロジェクトの一覧表がありました。
PFS(Preliminary Feasibility Study : 予備的な実行可能性調査)より上の段階のプロジェクトが掲載されています。
※2017年3月の資料ですが、それでも名前が変わったもの(Kings Valley→Nevada Project)や売却による移動(Orocobre Salinas Grandes→LSC Lithium)があります。
同様の表はリチウムアメリカのプレゼンテーション資料にもありました。
これらの資料に掲載されている企業のうち、上場している会社の資産、時価総額、表に記載されている予想生産量、それの持分換算量を一覧にしました。
※アルベマール、SQM、FCMのビッグ3は2016年に稼働している資産と実績の生産量を記入してます。FCMについては生産量がわかりませんでした。
※会社の権益が100%でない資産については権益の割合を(%)と書いています。
※時価総額は Google Finance の数字をドル換算したものです。
会社名 | 資産 | 時価総額 | 生産量 | 持分換算 |
Albemarle |
Atacama, |
15,480 | 89.0 | 69.0 |
SQM | Atacama | 15,100 | 50.4 | 50.4 |
FMC | Hombre Muerto | 12,740 | ||
Mineral Resources | Mt Marion(43.1%) | 2,705 | 30.0 | 12.9 |
Galaxy Resources | Mt Cattlin, Sal de Vida |
1,145 | 40.0 | 40.0 |
Pilbara Minerals | Pilgangoora | 1,019 | 48.0 | 48.0 |
Orocobre | Olarozフェーズ1&2(66.5%) | 831 | 40.0 | 26.6 |
Lithium Americas | Cauchari(50%), Nevada |
591 | 76.0 | 51.0 |
Nemaska Lithium | Whabouchi | 440 | 27.0 | 27.0 |
Altura Mining | Pilgangoora | 367 | 32.0 | 32.0 |
Kidman Resources | Mt Holland(50%) | 365 | 37.8 | 18.9 |
Critical Elements | Rose | 196 | 27.0 | 27.0 |
Neometals | Mt Marion(13.8%) | 151 | 30.0 | 4.1 |
Bacanora Minerals | Sonora | 138 | 35.0 | 24.5 |
Lithium X Energy | Salar de Los Angels | 131 | 15.0 | 15.0 |
Neo Lithium | 3Q | 126 | 35.0 | 35.0 |
生産を開始している会社
Mineral Resources & Neo Metals(ASX:MIN、ASX:NMT)
ミネラルリソースズ(43.1%)、中国のガンファン(43.1%)、ネオメタルズ(13.8%)の3社でマウント・マリオンを開発しています。2017年2月に生産を開始しました。
ミネラルリソースズはリチウム生産前から売上のある会社ですし、ネオメタルズは権益が小さく川下に力を入れている様子なので、リチウムの開発会社としてはいまひとつ魅力に欠けると思います。
Orocobre(ASX:ORE)
アルゼンチンのオラロス湖で2015年に生産を開始しました。年間の生産キャパシティは17.5ktLCEで、今後はフェーズ2により40ktLCEまで拡大する計画があります。オロコブレの持分は66.5%です。
この会社についてはこちらに記事を書きました。
Galaxy Resources(ASX:GXY)
マウント・キャトリンで生産を開始しています。上の表によると生産キャパシティは15~16ktLCEとなっています。
旗艦プロジェクトのサル・デ・ビダはDFSが終わっており、資金調達やオフテイク契約の段階です。生産開始は、アルベマールの表では2020年に、このレポートでは2019年中頃とのことです。
マウント・キャトリンとサル・デ・ビダを合わせると年間生産量は40ktLCEと大きいです。
ギャラクシーについての記事はこちらです。
オロコブレやギャラクシーの時価総額は持分換算の年間生産量の30倍前後となっています(生産量を売上とすればPSRの近似値です)。
企業価値は資源量や生産コストにもよるのでこれだけを見てもしょうがないのですが、ひとつの参考値にはなるかなと思います。
生産開始が近い会社
Pilbara Minerals(ASX:PLS)
東オーストラリアのピルガンゴーラ・プロジェクトを持ちます。
DFSは済んでおり、中国のガンファン・リチウムと10年、ゼネラル・リチウムと6年にわたる長期のオフテイク契約を交わしています。ステージ1生産量のほぼ100%の売却先を確保しました。
生産開始は2018年2Qの予定です。
ピルガンゴーラは世界で最も大きな鉱山のひとつで、埋蔵量は2.5mtLCE、(Inferredを含めた)資源量は4.8mtLCEあります。
年間生産量は会社資料によると44ktLCE、アルベマールの表では48ktLCEと大規模です。
スポジュメン鉱石の価格537ドル/t(最近のギャラクシー・リソースズの契約は905ドル/t)の前提で最初の5年の平均EBITDAは136mAUDになるそうです。
鉱山寿命は40年です。
生産までのリスクは少なく、規模の大きい会社です。
Altura Mining(ASX:AJM)
ピルバラと同じくピルガンゴーラを開発している会社です。
こちらもDFSは済んでおり、中国の Lionergy とオフテイク契約を交わしています。5年にわたり100kt~150ktのスポジュメンを買い取る契約です。
生産開始は2018年1Qとピルバラより少し早いです。
アルトラ・マイニングの埋蔵量と資源量はピルバラの1/5ほどと少なく、DFSでの鉱山寿命は13年となっています。ただし、アップデートにより埋蔵量は50%増加したそうで、HPの鉱山寿命は20年になっています。
年間生産量はアルベマールの表では13ktLCE、リチウムアメリカの表では32ktLCEと書かれていますが後者が妥当かなと思います。会社が発表している6%Li2Oのスポジュメン220ktの生産量は、単純計算すると32ktLCEです。
EBITDAはスポジュメン価格539ドルで91.7mAUDになるとのことです。
Nemaska Lithium(TSE:NMX)
カナダ東部に位置する Whabouchi 鉱山を開発している会社です。
DFSは終わっており、ジョンソン・マッセイ・バッテリー・マテリアルズやFMCと複数年のオフテイク契約も結んでいます。生産量の約50%の売却先を確保したとのことです。
生産開始は2018年中頃の予定です。
年間生産量は、水酸化リチウム27,500トン、炭酸リチウム3,245トンです。アルベマールの表では27ktLCEとなっています。
Whabouchi の埋蔵量は約1mtLCEで、鉱山寿命は26年以上です。
コストは、炭酸リチウムが2,753ドル/t、水酸化リチウムが2,154ドル/tでいずれも最低クラスです。特許を持つ工法によりスポジュメン鉱石から純度の高い水酸化リチウムや炭酸リチウムを生産できるそうです。
時価総額/持分換算生産量は、ピルバラが21倍、ネマスカが16倍、アルトラが11.5倍です。資産規模が小さいからかアルトラの評価がやや低いです。
FSは出ているが生産開始がやや先になる会社
Lithium Americas(TSE:LAC)
リチウムトライアングルに位置する非常に規模の大きいカウチャリ湖をSQMと共同開発しています。
DFS済みで資金調達とオフテイク契約も済ませておりリスクは低いのですが、生産開始が2019年とまだ少し先です。
もうひとつのネバダ・プロジェクトはクレイ(粘土鉱物)からの生産です。PFSの結果待ちという初期段階のプロジェクトですが、プレゼンテーションによると資源量は Measured & Indicated が3.3mtLCE、Inferred が 3.1mtLCEと大きな数字になっています。
リチウムアメリカについての記事はこちらに書きました。
Critical Elements(CVE:CRE)
カナダのケベックに位置するローズ・プロジェクトを持ちます。鉱石の生産プロジェクトです。
FSの結果は今年の9月に出ています。パートナーはドイツのヘルムAGで、出資を25%まで引き上げるオプションとオフテイク契約を交わしています。
生産開始は2020年の予定です。
資源量ですが、HPには Indicated が642ktLCE、Inferred が227ktLCEと書かれています。やや小さめの数字です。
生産量はアルベマールの表では27ktLCEとなっています。
鉱山寿命は17年です。
時価総額/持分換算生産量は、リチウム・アメリカズが11.6倍、クリティカル・エレメンツが7.3倍です。
リチウム・アメリカズのネバダプロジェクトはまだ初期段階で当てにならないことを考えると、この会社の評価は高めかなと思います。
クリティカル・エレメンツはローズ・プロジェクトの鉱山寿命がやや短いのが難点でしょうか。
FSがまだ出ていない会社
Bacanora Minerals(CVE:BCN)
メキシコのソナロ・プロジェクトを持ちます。クレイからリチウムを生産するプロジェクトです。
PSFは終わっており、2016年に始まったFSの結果が2017年4Qに出る予定です。生産開始は2019年の計画です。
埋蔵量(Probable Reserve)は2mtLCE、資源量は Indicated が4.4m、Inferred が2.7mと大きく、生産量も35ktLCEという数字です。
会社資料では生産コストもオロコブレのオラロス・プロジェクトより低くなっています(だいたいどこも大体最低クラスを発表しますが)。
なお、この会社には阪和興業が10%出資しパートナーとなっています。19.9%まで出資比率を上げるオプション付きです。また、阪和興業が生産物の70~100%を買い付けるオフテイク契約も交わしています。
Bacanora Establishes Strategic Long-Term Partnership with Hanwa
どれも文句のない立派な数字ですが、問題はクレイからリチウムを生産している会社がまだ存在しないというところでしょう。
Kidman Resources(ASX:KDR)
東オーストラリアに位置するマウント・ホラントを開発しています。
会社資料によると資源量はピルバラのピルガンゴーラと同レベルの大きさです。年間生産量も37ktLCEという計画です。
FSの結果発表は2017年3Qの予定です。
なお最近のニュースですが、9月にSQMがマウント・ホラントの50%の権益を取得することを発表しました。キッドマンの株価はそこから2倍近くに値上がりしています。強力なパートナーを得たことでリスクが大幅に下がったということでしょう。
Lithium X Energy(CVE:LIX)
リチウムトライアングルに位置するサル・デ・ロサンゼルス・プロジェクトを持ちます。
会社資料によると、資源量は Measured と Inferred を合わせて2mtLCEと周囲の湖に比べるとやや小規模です。生産量も15tLCEと控えめです。ただ、会社によると北方向に拡大の余地ありとのことです。
PFSの結果は2017年4Qに発表される予定です。
リチウムXについての記事はこちらです。
Neo Lithium(CVE:NLC)
リチウムトライアングルに位置する3Qプロジェクトを持ちます。
会社資料によると、不純物の少ないグレードの高いプロジェクトかつ世界で8番目のサイズとのことです。とはいえ、資源量は Measured & Indicated が0.7mtLCE、Inferred が1.3mtLCEで、数字だけ見るとリチウムXのサル・デ・ロスアンゼルスと同規模です。
年間生産量は35ktLCEと大きいです。
PEA(Preliminary Economic Assessment)が2017年10月に、FSは2018年4Qに発表される予定です。
時価総額/持分換算生産量は、バカノラが5.6倍、キッドマンが19倍、リチウムXが8.7倍、ネオリチウムが3.6倍です。
SQMと提携したキッドマンはDFS前にもかかわらずアルトラ並みの時価総額になっています。
バカノラは資源量、生産量、進捗具合からするとかなり評価が低く見えますが、クレイからの生産というのが不安視されているのでしょう。
リチウムXとネオ・リチウムはPFSが出ていない初期段階なので評価もそれなりなのかなと思います。