米国株の投資ファクターのリターンは、Kenneth French 教授のHP にて公開されている。
今回はこのデータを使ってファクター投資の有効性を見てみる。
ファクターリターン
まずは全体像を見るためにサイズ、バリュー、収益性、投資、モメンタムの5ファクターの累積リターンをグラフにした。
期間はデータの揃っている1964年~2016年。いずれもロング・ショートの超過リターン。
グラフを見るとモメンタム(WML)のリターンが際立っている。同時に2009年の暴落も目を引く。株価底打ちからのリバーサル局面でモメンタムファクターのショートサイドに莫大な損失が出てしまうためこのようなことが起こる。
※SMB(サイズ)、HML(バリュー)、RMW(収益性)、CMA(投資)、WML(モメンタム)
モメンタムを除いた4ファクターのリターンが下のグラフとなる。
すべてのファクターが右上がりのプラスリターンだが、個別に見ていくとそれぞれ長期にわたり低迷している時期がある。
サイズファクターは1984年~1998年まで、バリューファクターは2006年~2015年まで右下がりの損失。収益性ファクターは1964年~1983年まで、投資ファクターは2003年~2015年まで横ばいで推移している。
10グループ別のファクターリターン
ロング・ショートはおおまかな傾向を見るのには良いのだが、現実世界ではほとんどの投資家がロングオンリーのため必ずしも参考になるわけではない。
そこで各ファクターの10分位数グループ別の成績をグラフにしてみる。
ポートフォリオは時価総額ウェイトと均等ウェイトの2種類、期間は1927年~2016年、1964年~2016年、2003年~2016年の3種類。
1964年を起点にしているのは収益性と投資ファクターのデータがこの年から始まっているため。
2003年を起点にしているのは直近のリターンを知りたかったため。2000年が起点だとITバブル崩壊の影響が強すぎる気がしたので2003年にした。
サイズファクター
左の1が最小の時価総額グループ、右の10が最大の時価総額グループ。
1927年と1964年を起点とした期間では時価総額ウェイトも均等ウェイトもゆるやかなサイズ効果が見られる。しかし、2003年~2016年の期間になるとサイズ効果はほぼなくなっている。
バリューファクター
左の1が最もPBRの高い割高なグループ、右の10が最もPBRの低い割安なグループ。
1927~2016年と1964~2016年の期間は比較的安定したバリュー効果が見られる。
2003年~2016年の期間は時価総額ウェイトではバリュー効果がなくなっているが、均等ウェイトでは最も割安と割高のグループにバリュー効果が見られるかなといった感じ。
バリュー・ファクターにはPBRのほかにPERや配当利回りのデータも掲載されているのでそれもグラフにしてみる。
PERのデータは1952年から始まっている。
1952年~2016年の期間はきれいな右上がりのグラフで割安株ほどリターンが高くなっている。
一方で2003年~2016年の期間では、時価総額ウェイトは最も割安なグループのリターンが高くなっているものの、それ以外は平坦で明確な傾向がない。均等ウェイトも平坦なグラフで割安株効果が見られない。
配当利回りは1928年からのデータ。
配当利回りとリターンにはどの期間を見ても直線的な関係は見られない。
配当利回りが最低のグループのリターンが悪い傾向があること、配当利回りがほどほどに高いグループのリターンがやや高めな傾向があることくらいだろうか。ただ、それも明確な傾向ではない。
モメンタム・ファクター
左の1が最もモメンタムが弱いグループのリターン、右に行くほどモメンタムが強いグループとなる。
1927年~2016年と1964年~2016年の期間は、時価総額ウェイトも均等ウェイトも非常にきれいな右上がりのグラフになっている。数あるアノマリーの中で最も安定して機能しているとされるだけある。
しかし、2003年~2016年の期間になると極端な敗者(1のグループ)が弱いのは同じだが、高モメンタムグループのリターンは大きく落ちてしまっている。
収益性ファクター
収益性ファクターのデータは1964年からとなる。
左の1が最も収益性の低いグループ、右の10が最も収益性の高いグループ。
時価総額ウェイトのグラフを見ると収益性が最も低いグループのリターンは明らかに悪い。ただ、それ以外はあまり明確な傾向がなさそう。
均等ウェイトでも最も収益性の低いグループのリターンが低いのは同じだが、1964年~2016年の期間では収益性効果はほぼ見られない。2003年~2016年の期間では収益性が低いグループのリターンが悪い感じ。
投資ファクター
投資が少ないほどリターンが高いというアノマリー。収益性ファクターと同じく1964年からのデータとなる。
左の1が最も投資の少ないグループ、右の10が最も投資の多いグループ。
1964年~2016年の期間ではおおむね左上がりの直線となっており、投資ファクターの効果が見られる。
2003年~2016年の期間では、均等ウェイトでは投資ファクターの効果があるものの、時価総額ウェイトでは凸凹のグラフとなっており微妙な感じになっている。
感想
1927年や1964年を起点とした長期で見れば5つの主要ファクターはどれも平均以上のリターンを出している。
しかしながら2003年を起点とした期間では、特にサイズ、バリュー、モメンタムの主要3ファクターのリターンが大きく落ちてしまっている。
もともとファクターリターンは10年単位で低迷することもあるのでこれだけを見て効果がなくなったと安易に言うことはできない。とはいえアノマリー発表後に超過リターンはかなり落ちるという報告もあるので、ここ最近のファクター効果が弱くなっている可能性はあるのかなと思う。
ファクター投資をするのであれば、複数ファクターに分散するなど何らかの工夫をしたほうがいいと思う。