リチウムの過剰供給懸念について

こちらに新しい記事を書きました

 

SQMとCorfoのライセンス契約延長のニュースが出て以降にリチウム株が激しく売られています。

2月の後半にやや反発したものの、その後にモルガンスタンレーがリチウム価格は2025年までに45%と下がるとのレポートを出したことからリチウム株は再び大きく売られました。

このリチウムの供給過剰問題についてはたびたび指摘されているのですが、実際のところ需給はどうなっているのかが知りたかったので上場各社(中国系を除く)の生産計画を表にしてみました。

なお、最初に断っておくと数字はかなり不完全な部分が多いです。詳細は長くなるので一番下に書いておきます。

(000トンLCE)  2017年 2018年 2019年 2021年
Albermale 89 99 110 165
Greenbushs 40 40 50 80
SQM 48 55 70 100
FMC 20 20 20 40
Orocobre 12 14 17.5 17.5
Galaxy 22 28 28 28
Mt Marion 20 50 50 50
Tawana   20 23 14
Altura   16 34 34
Pilibara   12 48 48
Cauchari-Olaroz       25
供給合計 251 354 451 602
         
需要70kt増加(ALB予想) 220 290 360 500
供給-需要 31 64 91 102
需要50kt増加(SQM予想) 220 270 320 420
供給-需要 31 84 131 182

 

まずは2017年の時点で供給が需要を超えてしまっています。販売量(SQM)、生産量(ギャラクシー他)、生産キャパシティー(アルベマール)といったバラバラの数字を使っているのが原因かもしれません。しかし、昨年リチウム価格は値上がりしており、足元は供給不足のはずです。

2018年はマウントマリオンが通期で寄与すること、タワナ、アルトラ、ピルバラの生産開始によって供給超過量が増えます。SQMは上半期に価格が上がり下半期に安定もしくはやや下落する見通しを述べていますが、新規の会社が生産することで需給がバランスしてくるということだと思います。

2019年はSQMが本格的に増産に入るとともにアルトラとピルバラが通期で生産することで供給超過量がさらに増えそうです。

2021年になると新規の会社の生産や既存施設の拡張があると思うので表の数字は当てになりません。ただ、それらを含めずとも需要増加が年間50,000トンだと供給超過は大きな数字になりそうです。

 

こうして全体の数字を眺めているとモルガンスタンレー他の言うように供給過剰懸念はもっともに思えます。

ただ、先に述べたようにこの話は去年も一昨年もあってリチウム株は一時売られたものの、実際には需要サイドが予想よりも大きく伸びた一方で供給サイドが思ったように生産を増やせなかったことからリチウム価格は上昇しています。

 

個人的な印象としては、今後はアルトラやピルバラなどの鉱石系の会社がどれだけ短期間で生産拡大できるのかが注目点かなと思います。

アルベマールやSQMのカンファレンスコールではこれまでのリチウムプロジェクトの実績が悪いということが述べられていて、確かにオロコブレは生産を増加させるのに苦労していますし、他のリチウムプロジェクトもアナウンスより遅れることが多いようですが、一方でマウントキャトリン(ギャラクシー)やマウントマリオンは順調に生産を増やしているように見えます。

これらの鉱石系の会社は鉱石を採掘したのち中国に運んでリチウムを取り出すモデルが多く、そのためどれだけ生産が増えるかは中国のプラントのキャパシティも絡んでくるためわかりにくいです。

今年生産を開始するタワナ、アルトラ、ピルバラはいずれも鉱石のプロジェクトです。これらの会社がマウントキャトリンやマウントマリオンに続いて短期間で生産を拡大できるようであれば供給過剰が現実する可能性が高まるのではないかと思います。

 

表の数字について

・数字はすべて炭酸リチウム換算(LCE)です。

・アルベマールの2017年と2021年は生産キャパシティです。2021年の数字はキャパシティが165,000トンになるということで生産量はそれよりも少なくなると会社も言っています(拡張してすぐにフル生産にはならない)。2018年はガイダンスの+10,000トン、2019年は不明なので+10,000トンにしました。

・グリーンブッシュはTienqiの持ち分50%です。2017年と2021年はアルベマールが発表している生産キャパシティの数字で、2018年と2019年は不明なので適当に数字を入れています。

・SQMの2017年は実績値で2018年はガイダンスの数字、2019年と2021年はキャパシティ拡張後の数字です。時間的なラグはあるので実現しそうな数字だと思います。

・FMCは現在の20,000トンを今後数年で40,000トンに倍増させるという発表があったのでそれを使います。

・オロコブレの2017年は実績値で2018年はガイダンスの数字です。2019年からはキャパシティの17,500トンを使います。

・ギャラクシーの2017年は実績値で、2018年以後は17年4Qを約4倍した200,000トンのスポジュメン生産が続くと仮定します。HPではフルキャパシティで137,000トンとなっていますが、現状の生産は大幅にそれを上回っています。

・なおスポジュメンからLCEの換算は、スポジュメン生産量×Li2O含有量%×LCE換算2.473としています。ピルバラのDFSに314,000トン@6%=44,000トンLCEという記載があり、上の式で単純計算した46.500トンLCEと違いが出るので細かい部分は正確でないかもしれません。

・マウントマリオンは6%と4%のスポジュメンを生産しており計算が面倒ですが、2017年は170,000トンの生産実績からざっくり計算しました。2018年は450,000トンの生産量が目標とのことですが4Q実績からすると達成できそうです。このスポジュメンをLCE換算すると56,000トンくらいになりましたが、ネオメタルズのプレゼン資料に50,000トンがキャパシティとあるのでそちらの数字を使います。

・タワナはプレゼン資料に掲載されている生産量を目視で見てLCE換算しました。

・アルトラとピルバラの2019年以降の数字はHPに書いてあるスポジュメン生産量をLCE換算しています。2018年のアルトラは1Q生産開始の予定なので×1/2、ピルバラは下半期生産開始なので×1/4としました。

・Cauchari-Olaroz はSQMとリチウムアメリカのジョイントベンチャーで生産開始は2019年の予定です。2021年はキャパシティの25,000トンを使います。

・中国本土の生産は資料がありませんし、ネマスカなどの新興会社やオロコブレ他の拡張計画も不透明なので計算に含めません。

・2017年の需要はアルベマールのプレゼン資料のグラフから目視で220,000トンとします。それ以後の需要はアルベマール予想の年間70,000トンの増加、SQM予想の年間50,000トンの増加の2ケース考えます。