5021 コスモエネルギーホールディングス

石油元売の大手3社の一角です。上流の石油開発に強みを持つほか、石油化学も手掛けています。

低PERでスクリーニングするといつも出てくるので少し調べてみました。

 

 セグメント別の売上高と利益

主要3部門(その他は除きます)のセグメント売上高と利益を見てみます。

売上高は石油事業が大部分を占めています。

2017年からは石油化学事業の売上高も増えていますが、これは関連会社だった丸善石油化学を子会社化したためです。

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セグメント利益は石油開発事業の比率が大きいです。このセグメントは安定的に利益を出しています。

一方で売上の大部分を占めている石油事業は赤字の年が多く、利益面の貢献はいまひとつです。

ただし、ここ2年に限ると石油事業と石油化学事業の利益が増加しており、石油開発事業の利益は減少しています。

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石油事業

石油の精製・販売等です。 

このセグメントは在庫影響を除くセグメント利益も発表しています。在庫影響前後のセグメント利益と円換算した原油価格を比較したのが下のグラフです。

在庫変動を除いた利益はブレ幅が小さくなりますが、それでも頻繁に赤字が出ているのは変わりません。

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石油元売各社の過去の業績を見るとそこまで儲かる業界ではないようです。

やや古いですが石油精製・元売産業の収益環境と目指すべき姿というみずほ銀行のレポートによると、2001年~2015年までの石油元売大手5社の営業利益は横ばいで推移しており、かつ大きな赤字を出している年が3年あります。また、利益のボラティリティは欧米アジアに比べても高いそうです。

利益が増えない理由としては、競争の激しさ、備蓄義務による在庫負担、エネルギーコストの上昇などの要因が指摘されています。

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これらのマイナス要因に加えてこの業界は継続的な需要の減少という逆風にも見舞われています。

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今日の石油産業2017

 

このような状況に対して元売り各社は合併による規模拡大と設備の適正化をはかっています。かつては多数存在した元売り各社ですが、現在はJXTG、出光昭和シェル、コスモエネルギーの3社に集約されています。

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東洋経済 出光・昭和シェル統合、国内「2強」体制の意味

 

統合した各社が設備削減を進めることで稼働率は2011年を底に上昇を続けています。

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今日の石油産業2017

 

コスモエネルギーの設備稼働率も一時の低稼働率から立ち直っており、2018年は久しぶりに大きな利益を出しました。

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しかし、石油需要の減少は継続的であるため、設備削減などの手を打ち続けないかぎり稼働率は年々下がってしまう運命にあります。

対応策としては2017年2月に株式の2割を取得したキグナス石油へ燃料油の供給(2020年をめど)が挙げられています。キグナス石油のSS数は459箇所、燃料油販売量は416万トンで、コスモエネルギーの2018年の燃料販売量の16.5%に相当します。

 

コスモエネルギーは大手3社の一角とはいえJXTGや出光昭和シェルに比べると小規模です。また、他社に比べて頻繁に赤字を出しており業績面でも見劣りします。

 

石油化学事業

2016年3月に丸善石油化学を子会社化(持分43.9%→52.7%)したことで重要性が増しました。

丸善石油化学は国内でも有数の規模を誇るナフサクラッカーを有している会社とのことです。連結前の3年の業績は下表のとおりです。

決算期 平成25年3月期 平成26年3月期 平成27年3月期
連結純資産 91,673百万円 98,592百万円 103,228百万円
連結総資産 210,847百万円 236,789百万円 215,417百万円
1株当たり連結純資産 11,585円 13,010円 11,836円
連結売上高 421,636百万円 568,422百万円 549,484百万円
連結営業損益 マイナス 55百万円 8,921百万円 2,743百万円
連結経常利益 1,278百万円 11,023百万円 6,287百万円
親会社株主に帰属する
当期純利益
977百万円 7,058百万円 4,151百万円

丸善石油化学株式会社の株式の取得(子会社化)に関するお知らせ

 

19年3Q時点のグループの年間生産能力は、エチレン129万トン、パラキシレン118万トン、ベンゼン94万トン、ミックスキシレン62万トンとのことです。

 

石油化学事業の業績は、原料であるナフサと製品であるエチレンやアロマの価格差に影響を受けるようです。

決算説明会資料にはエチレン-ナフサとアロマ-ナフサのスプレッドが掲載されています。

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グラフを見るとエチレン-ナフサのスプレッドは2018年に入るまで継続的に拡大しており、これがここ2~3年の石油化学事業の好調につながっているようです。

 

石油開発事業

アラブ首長国連邦やカタールで石油開発を行っています。

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原油の日産は4万バレル前後で推移していましたが、2017年11月にヘイル油田が稼働したことで今期3Qまでの日産は5万3千バレルまで増えています。前年比+39%増です。

中期経営計画説明会によると、ヘイル油田の増産により石油生産量は2016年の1.5倍程度になるだろうとの話です。

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原油価格と業績

円建ての原油価格と経常利益・セグメント利益を比較するとこんな感じです。

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石油開発事業は当然ながら原油価格とかなり連動しています。

一方で石油事業と石油化学事業は原油価格とあまり関係なく動いているように見えます。

石油事業の振れ幅が大きいため、結果として経常利益も原油価格との連動はそこまで強くないです。

 

19年3Q決算

売上高+15%の増収、経常利益-8%の減益、在庫影響を除く経常利益+11%の増益でした。

経常利益を-37%、在庫影響を除く経常利益を-17%下方修正しています。

 

セグメント別の利益を見ると、石油開発事業が大幅増益になった一方で、石油事業と石油化学事業が大幅減益です。

石油事業は「国内の需給改善による適正マージンを確保するも、製油所定修や一部装置不具合及び、将来定修費用引当影響などにより、減益」とのことです。トッパー稼働率は92.5%から81.8%に落ちています。

石油化学事業は、「市況下落及び、工場の定修影響による販売量減少などが影響」とのことです。エチレン-ナフサのスプレッドが大きく縮小したことが影響してそうです。

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中期経営計画

2022年に経常利益1,200億円以上、当期純利益500億円以上を目標に掲げています。

セグメント別の利益は下のグラフのとおりです。2018年に比べると石油事業(精製・販売)は変わらず、石油化学事業は利益半減、石油開発事業が3倍以上の増益という計画です。

市場が縮小している石油事業、好況が続いていた石油化学事業は成長が望めないということでしょうか。石油開発事業頼みになっています。

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なお、株式市場からみた石油業界というみずほ銀行のレポートに元売各社の中期経営計画が一覧となっているのですが、これを見ても他社に比べてコスモエネルギーの石油開発事業の比率が非常に大きいことが分かります。

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バランスシート

現預金754億円

棚卸資産3,020億円

投資有価証券1,234億円

短期有利子負債3,074億円

長期有利子負債4,685億円

 

有利子負債がかなり大きいのですが、同業の出光やJXも現金に対する有利子負債は大きいです。現預金と棚卸資産を合わせると短期有利子負債はカバーできるという感じです。

中期経営計画の営業利益に対する有利子負債は6.5倍で、JXTGや出光興産の5.5倍前後に比べると高いです。

 

バリュエーション

現在の株価は2,301円、時価総額は1,950億円です。今期予想の純利益410億円で計算するPERは4.8倍になります。

ただし、昨年11月に600億円の転換社債を発行しており、潜在的な希薄化分が18.50%あるそうです。

中期経営計画の経常利益1,200億円、純利益500億円で計算するとPERは4倍を切るくらい、希薄化を含めると5倍を切るくらいでしょうか。

 

感想

ヘイル油田の稼動で原油生産量が大幅にアップしたのは確実なプラス材料です。この会社は同業他社に比べても石油開発事業の割合が大きいので、原油価格の動向に業績が左右されそうです。

もうひとつの主力である石油事業は元売業界の統合による競争緩和というプラス材料がありますが、構造的な需要減少というマイナス材料もあります。今期3Qは再び大幅減益になっていますし、この事業がどれくらい安定して利益を出せるのかまだ分かりにくいかなと思いました。

もし石油事業が2018年の利益水準をキープでき、原油価格が上がってくるということであればかなり割安感があると思います。