金融危機における民間債務の重要性を解説した本です。
著者によると金融危機の原因は民間債務の急激な増加と持続不能な水準です。
民間債務の増加は通常は経済成長を助けますが、過度な貸出ブームが起きると質の悪い債務が増加してやがてこれが金融危機につながるそうです。金融危機の後は過剰債務を解消するために長期にわたる経済成長率の低下が起きます。
民間債務以外の政府債務、経常赤字、財政赤字、為替レートといった指標は危機の予測に役立たないそうです。
このような債務の増加が危機を引き起こすという話は他の場所でも見かけるのですが、この本の特徴は危機を予測する明確な条件を設定しているところです。
著者によると、主要国においては以下の2つの条件を満たしたときに危機が起こる可能性が極めて高くなるそうです。
① 民間債務/GDP比が5年で18%以上の上昇
② 民間債務/GDP比の水準が150%以上
この条件も含めた主要22か国(世界のGDPの81%)に対する検証の結果は以下のように書かれています。
① これまでに起きた危機において民間債務/GDP比が5年で18%以上増加しているか?
22か国で起きた危機のうち民間債務のデータがあるのは22個。このうち19個は5年で18%以上の債務の伸びがあった。
債務の増加が見られなかったのは2008年のドイツとスイス、1993年のインド(これは比較的小さい経済)。
② 1. 民間債務/GDP比が5年で18%以上の上昇、2. 民間債務/GDP比の水準が150%以上、の条件を満たした国で危機またはGDPのマイナス成長が起きたか?
2000年以前でこの条件を満たしたのは6回。そのうち、ノルウェー、スウェーデン、日本、韓国で危機が起き、スイス、カナダではGDPのマイナス成長が起きた。だましはない。
2000年以後でこの条件を満たしたのは11回。そのうち9回は危機かGDPのマイナス成長が起きた。どちらも起きなかったのはオーストラリアと韓国でいずれも2000年代後半。2001年のノルウェイを除いてすべて2007-08年関連になる。
③ 1. 民間債務/GDP比が5年で18%以上の上昇、2. 民間債務/GDP比の水準が100-150%、の条件を満たした国で危機またはGDPのマイナス成長が起きたか?
民間債務の水準を100-150%にすると予測力が落ちる。それでも13回のうち10回は危機かGDPのマイナス成長が起きた。外れは3回。
危機の数が22回と比較的少なく、しかもそのうち10回が2007~2008年に偏っているのが気になりましたが、民間債務の急増が金融危機をもたらすというのは直観的に納得できますし、ある程度の基準が設定されているのは分かりやすいと思いました。
なお、この本は2014年の発行ですがその時点で中国の民間債務の急増が指摘されています。中国の民間債務については長らく問題視されていますがこれまで危機は起きていません。これがどういう結果になるか気になるところです。