BLK.AX ブラックロックマイニング

ブラックロックマイニングはオーストラリア上場のグラファイト探査・開発会社。

グラファイトはリチウムイオン電池の負極材に使われる鉱物で、EVの普及によって需要が急増すると予想されている。

下の記事が詳しいが、グラファイト銘柄は主にオーストラリアやカナダに上場している。

Graphite Miners News For The Month Of December 2021

この中でもブラックロックマイニングはかなり有望に思えたので取り上げてみる。あくまでも投機的な銘柄として有望という話だが。

 

なお、グラファイト銘柄の評価はリチウム以上に難しいと感じた。

下の2つのレポートにはグラファイトの特徴やプロジェクト評価について解説されているので、詳しく知りたい方は読むのをおすすめする。

Investor’s Guide to Graphite

Blue Ocean Equity Black Rock Mining

 

このレポートと各社のプレゼン資料、その他ウェブで拾い読みした記事をもとにグラファイトとブラックロックマイニングについて簡単にまとめる。

ちなみに内容については素人が書いているため誤りがあるかもしれないとあらかじめ断っておく。

 

〇 グラファイト

グラファイトは炭素でできている鉱物。高い耐熱性・潤滑性・熱電気伝導性・耐酸性アルカリ性といった特徴を持つ。

使用用途は電炉向けの電極が最も大きい。その他、耐火材、バッテリー材料、加炭材、潤滑剤など様々な用途に使われている。

リチウムイオン電池向けの需要はまだ全体の一部にすぎないが、EVの普及によって大きく増えると予想されている。

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Black Rock Miningのプレゼン資料より引用。このグラフでは電極は耐火材に含まれているようだ。)

 

〇 グラファイトの種類

グラファイトには天然と人造があり、天然グラファイトにはアモルファス(土状黒鉛)、フレーク(鱗片状黒鉛)、ベイン(塊状黒鉛)といった種類がある。

これらはそれぞれに特徴があるため用途によって使い分けられる。

人造グラファイトは製造コストが高い。純度や結晶均一性が高く、品質管理も容易なことから電極などの用途に使用される。

アモルファスグラファイトは純度が低く結晶性も劣るため値段が安い。潤滑剤などの用途に使われる。

ベイングラファイトは純度も結晶の完成度も高いが、産出量が非常に少ない。現在はスリランカでしか採掘されていない。

フレークグラファイトは代表的な天然グラファイトで、耐火材の用途が最も大きい。リチウムイオンバッテリーにも使われる。

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Investor’s Guide to Graphit

 

リチウムイオン電池には、従来は人造グラファイトが使われていたが、技術の進歩により天然グラファイトの使用率が上がっている。今後も天然グラファイトのシェアが拡大すると考えられている。

ただし、下のグラフを見ても分かるように、将来的に天然グラファイトがシェアを独占するという話ではなさそう。多くのメーカーは天然グラファイトと人造グラファイトをブレンドして、自社の必要とする性能を実現しているそうだ。

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Nouveau Monde Graphite ブレゼン資料

 

なお、リチウムイオン電池の負極材は将来的にシリコンやリチウム金属に置き換わると言われているが、現時点でこれらの素材は安定性やコストの問題を解決できていない。

いまのところグラファイトにシリコンを混ぜる方法が試されており、シリコンの割合は最大で10%程度とのことだ。

新技術の商用化には時間ががかかることから、しばらくはグラファイトが使われ続けると考えるのが現実的みたい。

 

〇 フレークグラファイト

フレークグラファイトは、グレード(炭素含有量)やフレークサイズで分類される。

フレークサイズはファイン、スモール、ミディアム、ラージ、ジャンボ、スーパージャンボのように区分けされる。名前やメッシュサイズは資料によって違ったりするので統一した基準ではなさそう。各社のプレゼン資料ではメッシュサイズが使われていることも多い。

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Investor’s Guide to Graphit

 

価格はグレードが高くフレークサイズが大きいほど高くなる(下のグラフで左はサイズ、右はグレードによる価格の違い)。

ただし、リチウムイオン電池向けの用途では、値段の高いグラファイトが良いというわけでもない。グレードは他の鉱物に比べるとそれほど重要ではないという話だし、フレークサイズはスモールやミディアムあたりが適しているようだ。

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Investor’s Guide to Graphit

 

フレークグラファイトは以下の手順で負極材の材料に加工される。

採掘された鉱物をグラファイトの純度95%超まで濃縮する。

微粉化、球形化、精製により球状黒鉛(Spherical graphite、PSG、HPSG)を製造する。

・球形化の歩留まりは45~50%程度と低い。

・精製で使われる有毒物質であるフッ化水素酸が問題となる。中国は他国に比べて規制が緩いため、グラファイト加工のほとんどが中国で行われている。

・酸処理の代わりに熱精製もあるが電力を大量に消費する。

球体黒鉛をピッチやアスファルトのような物質でコーティングして焼き付ける。

 

上のような手順を経るごとにグラファイトの価格も上がる。ブラックロックマイニングのプレゼン資料では、初期の純度93~97%のフレークグラファイト650~1,500ドル/トンがコーティング後に7,000~12,000ドル/トンまで値上がりしている。

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〇 天然グラファイトの需要

Investor’s Guide to Graphite に掲載されているグラフによると、2019年に73万トンだったグラファイト(天然+合成)の需要は、2021年に100万トン、2030年に360万トンまで増加する。

このグラフの前提条件は、2030年に電気自動車が販売の30%を占める、1台あたり60kgのグラファイトを使用するというもの。

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天然グラファイトのEV向け需要の増加率はさらに大きい。2030年には現在のフレークグラファイト需要の11倍に当たる310万トンに達するそうだ。

なお、310万トンは上のグラフのバッテリー需要の220万トンよりも大きい。これは天然グラファイトのシェアが50%だとしても、精製と球体化への歩留まりが低いこと(50%と計算している)、EVに向かないサイズ(生産量の30%を占める直径130ミクロン以下のサイズ)があるため。

 

同様の分析は Nouveau Monde Graphite ブレゼン資料 にもあり、こちらには数字の内訳も掲載されている。

バッテリー向けのフレークグラファイトに注目すると、2020年に22.5万トンだった需要が、2025年に121万トン、2030年に307.9万トンまで大幅に増加している。

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〇 天然グラファイトの供給

中国は世界の天然グラファイトの約7割、電池材料の100%の生産量を占めているが、埋蔵量はそこまで大きくない。

また、中国はアモルファスグラファイトの生産が多い一方で、大粒のフレークグラファイトの埋蔵量は限られているとのこと。中国は2019年にフレークグラファイトの純輸入国となったそうだ。

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Investor’s Guide to Graphit

 

中国以外では2017年にシラリソーシズがモザンビークで生産を開始した。

ただ、計画の見通しが甘かったためか、当初目標の年間30万トンに満たない操業が続いている。市場低迷により2020年3月から約1年間は操業を停止していた。

ちなみにシラリソーシズのバラマのキャパシティは年間35万トンと非常に大きい。2020年のフレークグラファイトの需要は77万トンに過ぎない。

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Q3 2021 QUARTERLY CASHFLOW REPORT AND PRESENTATION

 

〇 フレークグラファイトの価格

Northern Graphite のHPに過去のグラファイト価格についての簡単な解説がある。

How is graphite priced?

・1980年代後半には+80 mesh のラージフレークグラファイトの価格は1,300ドル/トンを超えていた。

・1990年代には中国の過剰生産によって600~750ドルに暴落する。

・価格の回復は2005年以降となる。コモディティスーパーサイクルの波に乗って2012年には約3,000ドル/トンにまで上昇した。

・その後は中国の景気減速や世界市場の低成長によって暴落。そこから横ばい~下落で推移している。

・シラリソーシズのバラマが生産開始することで供給過剰はさらにひどくなった

 

天然グラファイトの価格情報は少ない。先物などの市場がなく、買い手と売り手の直接交渉によって価格が決められるため。

Benchmark Mineral Intelligence や Fastmarkets などは定期調査によって有料で価格情報を発信している。

無料で価格チャートが見れるサイトは見つけられなかったが、EcoGraf プレゼン資料 に直近の価格推移のグラフが掲載されていた。それを見る限り2020年を底にグラファイト価格は値上がり傾向にあるようだ。

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〇 プロジェクトの評価

グラファイトプロジェクトの評価は複雑で難しい。

資源量やグレードやフレークサイズを見ればいいというわけではなさそう。

Investor’s Guide to Graphite にはいろいろな評価基準が書かれているが、外部の個人投資家が判断するのはほぼ不可能に思える(除去するのが難しい不純物が含まれているかどうかなど)。

 

現実的には下のような条件をチェックするのがよいのかなと感じた。

・ある程度の資源量があるか。

・有害物質の処理はどうか。

・パイロットプラントで実際にサンプル製品を作っているか。

・負極材やバッテリーメーカーとのオフテイク契約・・・オフテイク契約が結ばれることで製品が販売先の基準を満たしていることが証明される。非常に重要だと思う。

・ファインフレーク製品の販売先が決まっているか・・・平均販売価格を上げるにはすべての製品を販売する必要があるが、ファインフレーク製品は供給豊富かつ中国が市場を握っているため事前の販売先確保が重要。

・バスケット販売価格とオールインコスト(AISC)によるマージン・・・グラファイトはグレードやフレークサイズによって販売価格が違うため、単なるコストカーブは十分な情報ではない。下のグラフのように各社のフレークサイズの比率はかなり違う。

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SRG Mining のプレゼン資料

 

〇 Black Rock Mining

オーストラリア上場のグラファイト探査・開発会社。

タンザニアの Mahenge プロジェクトを持つ。Mahenge の資源量は2.12億トン@7.8%。会社によると世界で4番目に大きい資源量とのこと。

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2019年の改定DFSの結果は以下のとおり。

・税後NPV(10%)1.2Bドル。

・年間生産量はフェーズ1の8.3万トンから始まり、フル生産は35万トン。鉱山寿命26年。

・生産物のグレードは95-99%。うち59%が+80meshで41%が-80mesh。

・バスケット販売価格は1,301ドル。オールインコスト(AISC)494ドル。AISCマージン63.1%。

・フェーズ1のCAPEXは116Mドル。

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ブラックロックマイニングは球体化を行わず精鉱を販売する戦略を取る。従来型のシンプルな浮遊選鉱法によって高純度(95-99%)のグラファイト精鉱を生産できるそうだ。球体化を行わないため精製時に発生する有害物質の問題がない。

会社はすでに3回のパイロットプラントキャンペーンを通じて600トンの処理を行い、顧客にサンプルを提供している。これは世界のグラファイト開発プロジェクトの中でも最大規模とのこと。

 

この会社で特筆すべきは、POSCOから15%の直接出資を受けると同時に、拘束力のあるオフテイク契約の交渉が進んでいること。

POSCOはリチウム電池材料の開発に力を入れており、負極材の生産施設も持っている。

オフテイク契約の内容は、10Mドルのプリペイメントとフェーズ1のファイン製品(-100 mesh)の100%の販売。数量は年間3万トン程度になる見込み。

契約の最終的な締結は2022年早期を予想している。

 

POSCOの他には中国2社とラージフレーク製品の拘束力のあるオフテイク契約を交わしており、初期生産量のかなりの部分をカバーしている。

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直近の進捗状況を見ると、500トンのパイロットプラントのサンプル製品の生産を成功させたほか、タンザニア政府との16%のフリー・キャリー・インタレストの契約に合意している(政府が開発会社の16%を所有するということだと思う)。

今後はPOSCOとのオフテイク契約の完了が最優先課題になる。同時にPOSCO以外の新たなオフテイクパートナーも探すとのこと。

これが終わるとファイナンスを経て建設開始となる。

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ファイナンスは繰延資本(投資済み?)とポスコからのプリペイメントを除いた61Mドルを資本と負債で調達する計画。現在の時価総額が138Mドルあるのを考えると、希薄化はある程度の大きさで済むのではないかと思う。

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グラファイトはいまのところリチウムのように注目を浴びていない。関連各社の時価総額も低い。これはグラファイト市場が分かりにくいこと、価格の値上がりが目立たないこと、先行したシラリソーシズが長らく苦しんでいることなどが原因かと思う。

ただ、先日テスラ関連で、中国から輸入するグラファイトの関税免除の要求、シラリソーシズとのオフテイク契約という2つのニュースが出た。負極材料のオフテイク契約を結んだシラリソーシズの株価は急騰している。これを機にグラファイトにも注目が集まるかもしれない。

Tesla says it needs graphite from China for batteries, requests tariff waiver

Tesla (TSLA) secures graphite anode material for battery production in rare new offtake deal

グラファイト銘柄の評価は難しいものの、今後の需要増加は明らかな一方で注目度は低いことから、投機対象として悪くないのではないかと思う。