ALB アルベマール 2021年3Q決算

リチウム、臭素、触媒を生産する会社。

リチウムでは最大手の一角。チリのアタカマ湖、オーストラリアのグリーンブッシュ鉱山(持分49%)、同じくオーストラリアのウォジナ鉱山(持分60%)を持つ。アタカマとグリーンブッシュはかん水と鉱石でベストの資産とされる。

臭素は難燃剤が主な用途。他にもエレクトロニクス、自動車、建設、アプライアンスなど幅広い産業に使用されるGDP比例のビジネス。アルベマールはこの業界のマーケットリーダー。コスト競争力のある死海(ジョイントベンチャー)とアーカンソー州(アメリカ)で事業を行っている。

触媒はガソリンなどの精製やディーゼルや石油原料の汚染物質を取り除くのに使われる。この部門は新型コロナによる移動制限が逆風になっている。

 

3Qの売上高は前年比2桁の増収だった。一方で営業利益は減益、調整EBITDAはほぼ横ばいにとどまる。ただ、売却したFCSを除くと調整EBITDAは+14%の増加とのこと。

なお営業外に654.7Mドルの一時費用(Huntsman arbitration dicision)を計上しているため税前利益と純利益は赤字になっている。

売上高 830Mドル(前年比+11%)

営業利益 131Mドル(前年比-9%)

調整EBITDA 217Mドル(前年比+1%)

調整希薄化EPS 1.05ドル

 

四半期の売上高と調整EBITDAをグラフにした。新型コロナで落ち込んだ後の回復は鈍い。

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次にセグメントごとの業績。

リチウムセグメントは前年比で売上高+35%の増収、調整EBITDA+28%の増益だった。売上高への貢献は数量が+30%、価格が+5%となっている。

数量の伸びは主にトーリングによる(トーリングはアルベマールが原材料を提供してサードパーティーにリチウム化合物を生産させる形態だと思う)。

価格は2019年4Qから前年比マイナスが続いていたが、今四半期でようやくプラスに転換した。

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2021年の調整EBITDAは前年比で+10%台の半ばから後半となる予想。2Qから連続で上方修正している。

今年の販売量は前年比で+10%台半ばの増加、平均販売価格は前年比横からやや上昇とのこと。価格の見通しは前回よりも上振れている。さらに2022年の販売価格は15%~20%の上昇を見込む。

なお、リチウムの市場価格は昨年後半を底に大きく上昇しているが、アルベマールは長期・固定価格契約が多いためこれまでのところ業績への影響はほとんど出ていない。

 

リチウムの拡張計画は以下の通り。

・La NegraⅢ&Ⅳ は建設完了。現在は試運転・品質確認のプロセス。商業生産は来年の上半期からで2024年までに炭酸リチウムを年間40Kt生産する。2022年末のランレートは30Kt。

・Kemerton(持ち分60%)はステージ1が予定通り今年末に完了。2022年下半期に売上を計上する。ステージ2は遅れが出ており建設完了が2022年下半期になる。売上の計上は2023年。

・Qinzhou にコンバージョンプラントを持つ Guangxi Tianyuan New Energy Materials の買収。キャパシティは25Kt。50Ktへの拡張も見込める。売上の計上は2022年の上半期。

・中国で2つの水酸化リチウムプラントを建設する。キャパシティはそれぞれ50Kt。

・休鉱中のウォジナの再稼働が決定。2022年3Qに生産が開始される予定。ウォジナのキャパシティはスポジュメン精鉱750Ktだが今回は250Ktを稼働させる。鉱石のみを販売する計画はなくあくまでも製品化して販売していくそうだ。

 

臭素セグメントは前年比で売上高+17%増収、調整EBITDA+8%の増益だった。

臭素の需要は強く価格の上昇が寄与したが、数量は横ばいにとどまる。在庫不足や塩素不足で生産を増やせない。

今年のEBITDAは前年比10%台下の予想。前回よりも上方修正された。

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触媒セグメントは前年比で売上高-2%の減収、調整EBITDA-13%の減益。

今年の調整EBITDAは-20~25%の減益になる見通し。こちらも前回から上方修正された。

このセグメントは新型コロナによる移動制限で大きな悪影響を受けている。以前の販売数量に戻るのは2022年後半~2023年になるそうだ。

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2021年の通期ガイダンスは売上高3.3Bドル-3.4Bドル、調整EBITDA830-860Mドル、調整希薄化EPS3.85-4.15ドル。調整EBITDAと調整希薄化EPSが再び上方修正された。

 

足元のEVブームに乗ってアルベマールの株価は大きく上昇している。現在の株価は272ドルで時価総額は31.8Bドルとなっている。今期PERは65~70倍と非常に高い。

割高なバリュエーションを正当化できるかは今後の成長次第となる。

9月に行われたインベスターデイの資料によると、会社は2026年に売上高6-7Bドル、調整EBITDA2-3Bドルを目標にしている。

この資料にはEPSが書かれていないが、今年の調整EBITDAと調整希薄化EPSから計算すると10ドル~15ドル前後になる。5年後の2026年にPER18~27倍という数字なので、やはり割高感があると思う。

 

ただし、資料には前提となるリチウムの販売数量や販売価格は書かれていないため、両者がどれくらいの水準なら目標を達成できるのかよくわからない。

数量に関しては、会社の発表しているタイムテーブルを見る限り、La NegraⅢ&Ⅳ、KemertonⅠ&Ⅱ、QinzhouⅠまでの200Ktのフル稼働は見込んでいるはず。ただ、QinzhouⅠを除いた中国の125Ktや Kemerton Ⅲ&Ⅳ の40Ktをどこまでが織り込んでいるのかは不明。

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ちなみに過去の業績を見るとリチウムセグメントの純利益のピークは2018年の428Mドルだった。当時のネームプレートキャパシティは65Kt。

Wave3の中国と Kemerton Ⅲ&Ⅳ がフル稼働した場合、2018年の5倍以上となる365Kt(Kemertonの少数株主持分を差し引くとは333Kt)までキャパシティが拡大する。

リチウムセグメントの純利益を5倍して、その他のセグメントも過去の業績を参考にすると2.3Bドルくらいの純利益となる。臭素や触媒も成長するならもう少し上積みされる。

6~7年後のリチウムキャパシティ365Ktフル稼働時にPER20倍と仮定すると年率8%くらいの上昇率になりそう。

個人的には現在の株価はあまり魅力的な水準には思えないが、リチウム価格の高騰が続くなどの追い風があるのなら割高とはいえないのかもしれないと感じた。

 

アルベマールはリチウム銘柄の中では業績が非常に安定しているし、保有する資産も一級品で、成長戦略もしっかりしている。製品のバランスもいい。この業界ではダントツの優良株だと思う。