ALB アルベマール 2020年4Q決算

リチウム、臭素、触媒などを生産する化学メーカー。

リチウムは最大手の一角。チリのアタカマ湖とオーストラリアのグリーンブッシュ鉱山(持分49%)からリチウム化合物を生産している。アタカマ湖とグリーンブッシュ鉱山は資源量とグレードの点でかん水と鉱石でベストの資産とされる。その他にもオーストラリアのウォジナ鉱山を持つ(持分60%、休鉱中)。

臭素は難燃剤が主な用途。他にもエレクトロニクス、自動車、建設、アプライアンスなど幅広い産業に使用される。GDP比例のビジネス。

触媒はガソリンなどの精製やディーゼルや石油原料の汚染物質を取り除くのに使われる。足元では輸送燃料の消費が落ち込んでいるのが逆風になっている。

 

4Qの業績は減収減益だった。

売上高 879Mドル(前年比-11%)

営業利益 125Mドル(前年比-10%)

調整EBITDA 221Mドル(前年比-25%)

EPS 0.79ドル

 

セグメント別の売上高を見ると、前年比でリチウムが-13%(数量+7%、価格-20%)、臭素が+8%、触媒が-31%となっている。

リチウムは数量が増えたものの価格が大きく下落した。数量の増加は顧客が2020年の契約を順守したため。価格の下落は2019年末に合意した譲歩のため。

今年は数量がやや増えるものの価格はやや下がるという見通し。数量の増加は北アメリカの施設の再稼働など。価格は炭酸リチウムとテクニカルグレードの下落が大きいそうだ。会社は昨年の価格譲歩が一年限りと言っていたが、今年も元の契約価格に戻るわけではなさそう。カンファレンスコールでもあいまいな回答。ある程度は市場価格に連動する部分が出てくるみたい。

なお、昨年の4Qに中国のスポット価格は底を打ち上昇が始まっている。しかし、アルベマールは中国でのスポット価格ベースでの販売がないので影響を受けないとのこと。ただ、価格交渉でのプレッシャーは少なくなっていると言っている。現状でアルベマールの契約価格はスポット価格を上回っているそうだ。

臭素は経済のリバウンドを背景に増収となった。今年も緩やかな回復が続くという想定。

触媒は新型コロナの影響で厳しい。今年も横ばいの見通し。

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セグメント調整EBITDAは、前年比でリチウムが-13%、臭素が+10%、触媒が-71%となった。

リチウムは3四半期連続で回復が続く。臭素は3セグメントの中で最も落ち込みが少なく利益水準もコロナ前を回復した。触媒は厳しい状況が続いている。

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年間の売上高と調整EBITDA・営業利益の推移をグラフにした。

2020年は売上高-12%の減収、営業利益-24%の減益、調整EBITDA-21%の減益だった。営業利益率は過去4年ほど20%前後だったが(2018年はビジネス売却の影響で営業利益が大きくなっている)2020年は16%まで低下している。

長期で見るとアルベマールの成長率は高いとは言えないが、リーマンショックの最中でも利益を出しているのは見事だと思う。

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2014年からの主要3セグメント調整EBITDAの推移(セグメントの組み換えを調整するために2014~2016年の触媒は PCS と Refining solution を合計している)。

リチウムは2016~2018年のブームで大幅に業績を伸ばしたが、その後の価格下落により業績が悪化している。

2020年を除くと触媒は微減といった感じ。一方で臭素は安定した成長を見せている。

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2021年のガイダンスは、売上高3.2~3.3Bドル(20年は3.1Bドル)、調整EBITDA810~860Mドル(20年818Mドル)、調整EPS3.25~3.65ドル。

昨年と比べると小幅な増収増益だが、ESPの中央値は2020年より低下する。今年の2月に1.5Bドルの増資を行ったため希薄化が起きている。

 

リチウム市場についてだが、会社は2025年までのリチウム需要の見通しを上方修正した。新しい見通しでは現在の300Kt(LCE)が2025年に1,140Ktに増加する(EVの普及率19%、平均バッテリーサイズ40kWh→55kWhに増加という想定)。年率換算で31%、EV向けのバッテリーグレードに限ると47%の成長率になる。

リチウム化合物の内訳は、現在の炭酸リチウム7 : 水酸化リチウム3が2025年に4:6になると予想している。

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市場見通しの上方修正と同時に会社の拡張計画もアップデートされている。

アルベマールは2015年から2020年にかけてネームプレートキャパシティを3倍の85Ktまで拡大させた。今年の後半には La Negra III&IV と Kemerton I&II が完成することで175Ktになる予定。加えて Wave 3&4 で450~500Ktまで拡大させるという目標を出した。

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かなりアグレッシブな計画だが、当面は La Negra の拡張と Kemerton が問題になりそう。

La Negra はチリ(アタカマ)の拡張。低コストの炭酸リチウムが40Ktプラスされる。2021年の半ばに完成して6か月の試運転と品質検査プロセスを経て本格稼働する。

Kemerton はオーストラリアに建設中の50Ktの水酸化リチウムプラント。アルベマールの持ち分は60%。スポジュメン精鉱はグリーンブッシュから供給される。2021年の終わりに完成し6か月の試運転と品質検査プロセスを経て本格稼働する。

両者の業績への寄与が始まるのは2022年になりそう。初年度はキャパシティの50%程度の稼働と考えるのが妥当とのこと。

 

リチウム価格の底打ちを背景にアルベマールの株価は底から3倍以上に値上がりしたが、1月初めをピークにジリジリ下げていた。今回の決算を受けてさらに-10%ほど下げた。決算の数字は問題なかったが期待が高すぎたのだと思う。

アルベマールのリチウム販売は長期・固定価格がメインなので業績のブレが比較的小さい。リチウム価格が下落してもそれなりの利益が出ていた代わりに、価格の上昇が起きてもすぐに大幅増益に転じるわけではない。

La Negra の拡張と Kemerton が本格的に業績寄与する2023~2024年に向けて数量と価格の両方から業績を上げていくイメージになると思う。

 

PERは今期予想が39~43倍、実績が40倍となる。

業績が落ち込む前の2019年の調整・希薄化EPSで計算すると23倍。La Negra と Kemerton によりキャパシティが2倍近く増えることから2019年のリチウムセグメントの利益を2倍にすると純利益は64%の増加になる。かなりざっくりした計算だが、2023~2024年にEPS10ドル程度というのがひとつの目安になるのかなと思う。現在の株価に対して14倍程度となる。

 

アルベマールのリスクとして考えられるのはキャパシティの増加がうまくいかないことだろう。かん水からのリチウム増産は計画が遅れるのが日常茶飯事だし、オーストラリアの水酸化リチウムプラントは新規設備なので想定通りのコストで順調に稼働するかは未知数。

他にはリチウムのコモディティ化もリスク要因だと思う。リチウム資源は数多くあるが、現状でリチウム化合物を大手メーカーに供給できる会社は数が少ない。顧客の求める種類・品質のリチウム化合物を安定して供給できる信頼性が求められるため。このためリチウム化合物の生産会社はコモディティ銘柄ではなく特殊化学の銘柄として評価されている(PERが高い)。

しかし、昨年末にはテスラが中国 Yahua と水酸化リチウムの供給契約を結んでいる。中国のコンバーターが大手メーカーにリチウム化合物を供給できるようになるとアルベマールなどのリチウム大手のバリュエーションは低下するかもしれない。