アメリカ株のCAPEレシオの高さは長らく指摘されています。
最近の急落でやや下がっていますが、現在のS&P500のCAPEレシオ29倍という数字はITバブルや大恐慌前に次ぐ高さです。
しかしながら、個別株を見ていると一部のIT系を除いてそこまでの割高感を感じません。
そこで今回はダウ30銘柄のPERとCAPEレシオを比べることで両者にどれくらい乖離があるのかを見てみます。
なお、業績データはモーニングスターから取得しました。
下はダウ30銘柄の営業利益ベースのPER(時価総額/営業利益)とCAPEレシオ(時価総額/10年間の営業利益の平均)を比べたグラフです。
営業利益を使ったのは、純利益だと業績堅調でもPERが100倍を超える異常値となってしまう銘柄がいくつかあるからです。
ただし、金融セクターの銘柄は営業利益のデータがなかったため純利益を使います。
PERは過去12か月間のトレーリングPERです。CAPEレシオはオリジナルと違いインフレ調整をしていません。
営業利益ベースのPERはベライゾンの8倍からナイキの27倍となっています。CAPEレシオだと30倍を超える銘柄がいくつか出てきます。
30銘柄の単純平均はPER15.8倍、CAPEレシオ19.4倍です。
30銘柄の時価総額と営業利益の合計で計算するとPERは14.7倍、CAPEレシオは17倍です。ここから税率21%で税金を差し引くとPER18.6倍、CAPEレシオ21.6倍で差は3ポイントになります。
S&P500のCAPEレシオとPERの差は10ポイント近くありますが、この方法でダウ30銘柄を計算するとそこまでの差は出ないようです。
次にCAPEレシオとPERの乖離率を一覧にしてみます。グラフの左に行くほどCAPEレシオがPERよりも高い銘柄(景気循環をならすと割高な銘柄になると考えられる)となります。
まず右端のCAPEレシオがPERより低い銘柄を見ると、エクソンモービル、シェブロン、IBMが上位にいます。これらの銘柄は直近の業績が落ち込んでいるのが原因で、利益が平均回帰すれば割安感が出てくるはずです。
一方でCAPEレシオがPERより高いのは21銘柄で、そのうち+20%以上の乖離があるのは16銘柄です(ただしトップのダウデュポンは合併による大幅増益があるため除いた方がよさそうです)。
これらの大きく乖離した銘柄を個別に見ていくと景気循環株と思われる銘柄は案外少ないです。ボーイング、インテル、キャタピラーあたりでしょうか。
一方で、ユナイテッドヘルス、ビザ、ホームデポ、アップル、マイクロソフト、ウォルグリーン、ディズニー、ベライゾン、ナイキ、シスコ、メルクあたりは安定成長株と思われます。これら11銘柄の成長率(年率で売上高+8%・営業利益+9%)は全銘柄(売上高+3%・営業利益+3%)よりかなり高いので、PERがCAPEレシオよりある程度高くなるのも自然だと思います。
感想
CAPEレシオというのは取り扱いが難しい指標だと改めて感じました。
・純利益だと異常値が多いので比較にならない。
・会計方針の変更(割高なCAPEレシオをめぐる議論にメモしましたが、無形資産の償却が必要なくなったことがCAPEレシオを4ポイント押し上げているとの話があります)や法人税率の変更があるので長期の比較は適切ではないかもしれない。
・1株あたり利益が成長していればPERはCPAEレシオよりも高くなるのが自然。
・自社株買いは1株あたり利益の成長をもたらすので、配当で還元するよりもPERとCAPEレシオの差を広げるはず。
今回の方法で見るとダウ30銘柄のPERとCAPEレシオの差は3ポイント程度でした。これくらいであれば上の影響を考えるとそれほど気に必要はないのかなと思いました。
ダウ30銘柄のバリュエーションの水準ですが、割安感は感じないもののバブルというほどの割高感も感じず、やや割高くらいの水準なのかなと思います。