今年に入ってリチウム株が売られていますが、その原因となっているリチウムの供給過剰問題について見てみます。
需要
SQMによると2017年のリチウム需要は212Kt(炭酸リチウム換算)でした。
2018年は+20%ほどの増加と言っているので、需要は250~260Kt程度になりそうです。仮に2019年も+20%の増加が続けば300~310Ktです。
中期的な需要については2025年に750Kt~850Ktとの予想を出しています。前提となるEVのシェアは9~11%です。
供給
2017年の供給は各社の数字を拾うとこんな感じです。なお、下の数字はキャパシティと販売量が混じっているので正確ではないです。ざっくりした数字です。
SQM 48Kt
アルベマーレ 65Kt
ティエンチ(Greenbushes) 23Kt
Mt Marion 21Kt
FMC 18Kt
オロコブレ 12Kt
ギャラクシー・リソーシズ 19Kt
以上を合計すると206Ktです。2017年にリチウム価格は急騰しているので、このレベルであれば需要超過になるということでしょう。
次に2018年の増加分を見るとこんな感じです。
SQM 48Kt → 70Kt(4Qに実現できるとのこと)
Mt Marion 21Kt → 55Kt
FMC 18Kt → 21Kt
オロコブレ 12Kt → 14Kt
ギャラクシー・リソーシズ 19Kt → 23Kt
オーストラリア3社(タワナ、ピルバラ、アルチュラ) 0 → 85Kt(下半期に生産本格化)
以上を合計すると、新規に生産開始するオーストラリア3社を抜いて272Kt、含めて357Ktとなります。
SQMによると、2018年の上半期の価格は小幅上昇、下半期は小幅下落予想、現在の需給はバランスしているとの話です。SQMの増産とオーストラリア3社の生産が始まる下半期から供給が超過になる可能性があるということでしょう。
実際、2019年の需要は+20%の成長が続いても300~310Ktなので、これらの会社のフル生産が実現すれば2019年のキャパシティ増加分を含めなくても供給が需要を上回ってしまいます。
最後に2019年~2021年の供給増加要因も並べてみます。なお、数字はキャパシティの増加なのでその年にフル生産できるわけではありません。また、ティエンチ、ガンフェン、その他のジュニアは不明だったのでこの中に入れていません。
2019年 SQM+50Kt、アルベマール+20Kt、FMC+10Kt、ネマスカ+25Kt
2020年 アルベマール+40Kt、FMC+10Kt、リチウム・アメリカズ+25Kt
2021年 SQM+60Kt、アルベマール+40Kt、キッドマン+37Kt
+20%という成長が続いたとしても需要の増加分は2019年+50Kt、2020年+61Kt、2021年+73Ktです。各社の計画を見ていると供給過剰レポートが出てくるのもやむなしかなと思います。
反論
供給過剰説に対する反論としては、リチウム生産の実績がこれまで常に計画を下回ったというものがあります。
ただ、これまではリチウム価格が低かったうえ、かん水系がメインでした。現在はリチウム価格がかなり高く、鉱石系の割合が大きく、かつ中国の会社が参入しています。
特に先行して生産を開始した鉱石系の Mt Marion や Mt Cattlin は比較的順調に生産を拡大させており、同じオーストラリア鉱石系のタワナ、ピルバラ、アルチュラも順調に生産できるようであれば需給は厳しくなりそうです。
もうひとつ有力なのは、鉱石は生産できても炭酸リチウムや水酸化リチウムに変換する中国のプラントにボトルネックがあるという説です。真偽は僕にはわかりませんが説得力はあります。ただ、仮にこの説が正しければ川下の設備を持たず中国に鉱石を輸出するだけの会社(ギャラクシー、タワナ、ピルバラ、アルチュラ)は厳しくなるかもしれません。
あとはより長期で見れば需要に追いつかないという意見もあります。SQMの需要予想は2025年の時点でEVのシェア10%前後という前提です。それ以後にシェアが20%・30%と上がったら、さらにこれに加えて蓄電池需要の急増があったらすごいことになるという話ですね。