リチウム市場の主要企業

リチウム市場の主要企業について整理します。

 

2017年の時点で生産をしている会社

SQM、アルベマール、ティエンチ・リチウム、ガンフェン・リチウム、FMC、オロコブレ、ギャラクシー・リソーシズの7社です。

以下に各社の主な資産と生産量を書いていきます。キャパシティや生産量の単位は特に断りがなければ炭酸リチウム換算(LCE)です。

 

SQM(NYSE : SQM)

チリの Atacama とオーストラリアの Mt Holland(50%)を持ちます。

2017年の Atacama の年間生産キャパシティは48Ktでしたが、現在は70Ktまでの拡張を完了させています。2019年に120Kt、2021年に180Ktまで増やす計画です。

Mt Holland はキッドマン・リソーシズとの50:50の鉱石プロジェクトです。2021年に生産開始の計画で生産量は37Ktです。

SQMのリチウムセグメントの粗利益は全体の5~6割です。

 

アルベマール(NYSE : ALB)

チリの Atacama とオーストラリアの Greenbushes(49%)を持ちます。

2017年のキャパシティは65Ktでしたが、これを2021年に165Ktまで拡大させる計画です(2019年+20Kt、2020年+40Kt、2021年+40Kt)。

リチウムセグメントのEBITDAは全体の5割くらいです。

 

ティエンチ・リチウム(深圳A株 : 2466)

Greenbushes の51%のほかにHPによると中国チベットに資産を2つ持っています。また、SQMの株式の24%を購入することを発表しています。

Greenbushes の生産量ですが、オペレーターであるタリソン・リチウムのHPによると現在350Ktのリチウム製品を輸出しているそうです。炭酸リチウム換算で45Kt前後になると思います(スポジュメン鉱石から炭酸リチウムへは7~8分の1で換算されることが多いです)。

なお、報道によるとティエンチ・リチウムは香港への上場を検討しているようです。

 

ガンフェン・リチウム(深圳A株 : 2460)

オーストラリアの Mt Marion の43.1%を持つほか、リチウム・アメリカズの Cauchari-Olaroz の37.5%やピルバラ・ミネラルズの Pilgangoora の4.3%も持ちます。

Mt Marion のキャパシティは、パートナーの一社であるネオ・メタルズによるとスポジュメン鉱石450Kt(炭酸リチウム換算55Kt)です。2017年は鉱石170Ktを生産しています。

Cauchari-Olaroz はもともとはリチウム・アメリカズとSQMの共同プロジェクトでしたが、つい先日ガンフェン・リチウムがSQMの持ち分を買い取りました。プロジェクトは2019年に生産開始の計画で生産量は25Ktです。なお、ガンフェン・リチウムはリチウム・アメリカズの17%を持つ筆頭株主です。

ガンフェン・リチウムは香港にIPOの申請をしています。

 

FMC(NYSE: FMC)

アルゼンチンの Hombre Muerto からリチウムを生産しています。

2017年のキャパシティは18Ktで、2018年に21Kt、2019年に30Kt、2020年に40Ktに拡大する計画です。

全体に占めるリチウムセグメントの比率は低いのですが、この部門は Livent Corporation として10月に分離上場する予定です。

 

オロコブレ(ASX : ORE)

アルゼンチンの Olaroz からリチウムを生産しています。豊田通商がパートナーです。キャパシティは17.5Ktですが2018年(6月期)の生産量は12.5Ktでした。

 

ギャラクシー・リソーシズ(ASX : GXY)

オーストラリアの Mt Cattlin からスポジュメン鉱石を生産しています。2017年の鉱石生産量は155Ktでした。2018年は半年間で91.8Kt(炭酸リチウム換算で11.5Kt)を生産しています。

ギャラクシー・リソーシズはこれまでの会社と違って川下の生産設備は持たず鉱石を中国に輸出するモデルです。Mt Cattlin は資源量の少ない鉱山ですが、いち早くこのモデルを採用することで成功を収めています。

 

2018年に生産を開始する(した)オーストラリアの鉱石銘柄

タワナ・リソーシズ(ASX : TAW)、ピルバラ・ミネラルズ(ASX : PLS)、アルチュラ・マイニング(ASX : AJM)の3社で、いずれもギャラクシーと同じくオーストラリアで鉱石を生産して中国に輸出するモデルです。

各社の鉱石の生産キャパシティはそれぞれ150Kt、330Kt、230Ktです。3社のキャパシティを合計して炭酸リチウム換算すると85Kt前後にもなります。さらにピルバラとアルチュラは生産量を倍増させる計画も発表しています。

この巨大な生産量がリチウムの過剰供給懸念の原因のひとつになっています。

 

その他の会社

そのほかに生産までたどり着けそうな会社はリチウム・アメリカズ(TSX : LAC、NYSE : LAC)、キッドマン・リソーシズ(ASX : KDR)、ネマスカ・リチウム(TSX : NMX)です。

上で書いたようにリチウム・アメリカズはガンフェン・リチウムとの、キッドマン・リソーシズはSQMとの共同プロジェクトなのでリスクは低めです。ただし、キッドマン・リソーシズは資金調達をまだ行っていません。

ネマスカ・リチウムはカナダで鉱石から炭酸リチウム・水酸化リチウムまでを生産する垂直統合プロジェクトを持ちます。資金調達に苦労していましたが、最終的に多大な希薄化を伴いつつも巨額の資金を確保しました。

 

リチウム会社についての感想

リチウム資源を開発中の会社は数多くありますが、質の良い資産を持つ大手を差し置いて新規の会社が一から資源を開発するのはかなり難しそうです。理由は、、、

・特にかん水系のプロジェクトは資源量が非常に多いです。Atacama はほとんど無尽蔵に思えますし、オロコブレの Olaroz やリチウム・アメリカズの Cauchari-Olaroz も相当な量を何十年も生産できる資源量です。既存の設備の拡張で生産量をまかなえるのであれば、新規に開発する必要がなくなってしまいます。

・さらに既存施設の拡張は必要な投資額も少なく済みそうです。SQMによると Atacama の拡張に必要なCAPEXは48Kt→70Ktが75百万ドル、70Kt→120Ktが200百万ドル、120Kt→180Ktが200百万ドルとのことです。あるいはオロコブレのステージ2(17.5Kt→42.5Kt)の拡張に必要な金額は285百万ドルです。一方でリチウム・アメリカズの25Ktの生産開始までのCAPEXは425百万ドルですし、ネマスカ・リチウムに至っては849百万ドルもの資金を調達しています。

 ・ネマスカ・リチウムはこの資金調達の過程で大幅な希薄化という犠牲を払いました。リチウム各社の現在の株価はさらに下がっており、新興企業が独自に資金を調達するのはかなり厳しい状況です。

・新規参入組で川上から川下までの一貫生産に成功したのはオロコブレしかいません。

・鉱石を生産して中国に輸出するモデルは参入が比較的簡単そうですが、これがビジネスモデルとして長期的に成り立つのかはまだ不明です。中国の施設のキャパシティが関わってくるのでわかりにくいです。