EVの普及によって需要増加が予想されるニッケルについてです。
UBSのレポートによると、EV(シボレーボルトEV)普及率100%の世界でのニッケルの需要の増加率は105%とのことです。これはリチウムやコバルトと比べるとかなり小さいのですが、銅やアルミニウムといったメジャーな金属のなかでは最も大きい数字です。
また、上のグラフはあくまでもシボレーボルトEVが基準の話です。
ニッケルやコバルトは正極材に使われますが、今後は価格の高いコバルトを減らし価格の安いニッケルを増やしていくことが予想されるため、ニッケルの需要もより大きくなると考えられます。
ニッケルの用途
Nickel Institute によるとニッケルの68%はステンレス鋼の製造に使われています。さらに17%が他の金属との合金用で、バッテリー向けはわずかです。
ニッケル鉱石の生産量
鉱物資源マテリアルフローによると2015年のニッケル鉱石の生産量は年間200万トンほどです。
国別の生産はフィリピンが全体の17%を占めており、ロシア(13%)、カナダ(12%)、豪州(12%)、ニューカレドニア(10%)と続きます。
ちなみに数年前まではインドネシアが生産量トップでしたが、製錬業育成のため未加工鉱石を禁輸にしたことでシェアが落ちました。これによってフィリピンが生産量首位になりましたが、フィリピンも環境基準を満たさない鉱山を閉鎖する方針を打ち出しています。
なお、ニッケル鉱石は主に地金の原料となる硫化鉱と、主にフェロニッケルの原料となる酸化鉱に大別されます。硫化鉱を主に産出するのはロシアやカナダで、酸化鉱を主に産出するのはフィリピンやインドネシアなどです。
生産量はかつては硫化鉱が多かったのですが現在は酸化鉱が逆転しています。資源量も酸化鉱の方が多いそうです。EV向け電池関連金属資源の最近の動向によると今後新規に供給される可能性のある硫化鉱は供給量全体の20%にすぎないとのことです。
クラス1ニッケル
ニッケルはグレードによってクラス1とクラス2に分かれます。バッテリー向けに使われるのは高グレードのクラス1ニッケルです。
マッキンゼーはバッテリー向けの需要が現在の3万トンから2025年に57万トンに大幅に増えると試算しており、これに伴ってクラス1ニッケルが不足することを予想しています。
このクラス1のニッケルは主に硫化鉱から生産されますが、酸化鉱からクラス1ニッケルを生産するHPALという方法もあり住友金属鉱山などはこの技術を使っています。
ただし、原則として酸化鉱からのニッケル抽出は技術的に難しいとのことです。HPAL: Upping The Pressure という資料にはこれまで稼働したHPALのプロジェクトのレビューがありますが失敗に終わったプロジェクトも多いです。
今後はクラス1ニッケルの需要増加が予想されることから、質の良い硫化鉱を持つ会社や、低コストで酸化鉱からクラス1ニッケルを生産できる会社が有利になると考えられます。
ニッケル価格
ニッケル価格は長らく低迷を続けていましたが、2015年末に底を打ち、2016年末から大きく値上がりしています。
在庫は高水準ではあるものの、需給がひっ迫したことで低下傾向にあります。
ニッケル生産大手
やや古いものの The 10 Biggest Nickel Producers of 2014 にニッケル生産のトップ10が掲載されていました。顔ぶれを見るとヴァーレやBHPやグレンコアといった総合資源会社が多いです。日本からは住友金属鉱山が入っています。
Vale SA - 275kt
MMC Norilsk Nickel - 274kt
BHP Billiton Ltd. - 143kt
Jinchuan Group Ltd. - 128MT
Glencore - 100MT
Sumitomo Metal Mining Co. - 75kt
Anglo American Plc - 65kt
Eramet SA - 55kt
Queensland Nickel - 34kt
Sherritt International Corp. - 31kt
Norilsk Nickel
ロシアの非鉄最大手でニッケル生産量は世界2位・パラジウムは世界1位です。銅、コバルト、プラチナも大手となります。
2017年の売上比率はニッケル27%(2016年は34%)、銅27%、パラジウム28%でした。
ニッケルの比率はそれほど高くないものの鉱床からは銅、パラジウムといった金属が生産されるため、これら副産物によりニッケルの生産コストはマイナスとなっています。
過去数年のEBITDAは4~5十億ドルくらいで推移しています。EPSは2016年が16.1ドル(為替利益がやや大きいです)で2017年が13.5ドルです。
1株あたりの配当は2016年が15ドルで2017年が13~14ドルでした。現在の株価10,255ルーブルに対する2017年の配当利回りは8%弱となります。
この会社は利益のほぼすべてを配当に回している高配当銘柄ですが、ネットの有利子負債が2017年に8.2十億ドルまで急増しているため高配当が維持できるか少し心配です。
ノリリスク・ニッケルの株はSBI証券で取り扱いがあります。ただし、ロシアルーブルの両替手数料が片道4~5%もかかるのが難点です。
住友金属鉱山
セグメントは資源、製錬、材料の3つです。2017年のセグメント利益は、資源560億円、製錬480億円、材料70億円でした。
各セグメントの内容ですが、資源セグメントは銅と金、製錬セグメントは銅とニッケル、材料セグメントはリチウム電池材料や結晶材料を手掛けています。
製錬セグメントのニッケルですが、原材料は住友金属鉱山が出資するフィリピンのニッケル・アジア(26%)やヴァーレ・インドネシア(20.09%)などから調達しています。フィリピンのコーラルベイやタガニートではHPALにより低品質の酸化鉱からニッケル中間財を生産し、これを国内工場で電気ニッケルにしています。ニッケル製錬では世界でもトップレベルのコスト競争力とのことです。
2017年のニッケル生産量は9万トンで、2021年に15万トンまで増加させる目標です。
ニッケルやコバルトといった原材料から正極材までを生産するEV関連株ですが、銅の割合が高いのが残念です。
予想PERは11倍弱で割高感はありません。ただ、足元で銅をはじめとする資源価格が下がっているのが不安材料でしょう。
Sherritt International
カナダ上場の会社です。キューバの MOA とマダガスカルの Ambatovy でニッケルやコバルトを生産しています。MOA は HPAL を初めて商業生産に使ったプロジェクトだそうです。シェリットは MOA の50%と Ambatovy の12%を持ちます。
MOA の2018年1Qの生産量は、ニッケル2,854トン・コバルト336トン(50%の持ち分)で、営業コストは2.06ドル/ポンドでした。精測&概測資源量は66.6Mt@ニッケル1.26%・コバルト0.13%で、確認埋蔵量の寿命は15年以上です。
Ambatovy の2018年1Qの生産量は、ニッケル665トン・コバルト53トン(12%の持ち分)で、営業コストは5.34ドル/ポンドでした。資源量は261.9Mt@ニッケル0.85%・コバルト0.08%と世界最大級のニッケル資源とのことです。このプロジェクトは住友商事が47.7%を持ちます。
ちなみにかつてはシェリットが Ambatovy の40%を持っていましたが、ニッケル価格の低迷と資金難のため持分を引き下げています。これによって売上は減ったものの、ネットの有利子負債は2016年末の1,938百万ドルから507百万ドルまで大きく減少しました。
業績ですが、2017年のEBITDAは約150百万ドルでした。会社によると1ポンド1ドルのニッケル価格の上昇はEBITDAを53百万ドル、1ポンド5ドルのコバルト価格の上昇はEBITDAを28百万ドル上昇させるそうです。
下はニッケル価格&コバルト価格とMOAのEBITDAの推移です。
2018年の計画は、MOAの生産量がニッケル16,000トン・コバルト1,780トン、Ambatovy の生産量がニッケル4,980トン・コバルト486トンで、営業コストは MOA 2.75ドル・Ambatovy 3.25ドルです。
現在の時価総額は397百万CAドルです。依然として赤字の会社なので、株価が大きく上がるにはニッケル価格の上昇が前提になると思います。