政策金利と株価についてはニュースなどで解説を見ます。一般的には利下げは株価にプラスで、利上げは株価にマイナスとされます。
しかし、実際のところ株価は政策金利にどれくらい左右されるものなのでしょうか?この点について少し調べてみました。
アメリカの政策金利
アメリカの政策金利はかつては公定歩合でしたが現在はFF金利が使われています。両者のデータは FREDのEconomic Data からダウンロードできます。
公定歩合からFFレートに移行した正確な時期はわからなかったので、この記事では2つのレートが6%で重なる1991年3月を基準に公定歩合とFFレートとつないで政策金利としました。
また、2008年12月以降のFFターゲットレートは上限-下限が発表されていますがこの記事では上限値を使っています。
公定歩合とFFターゲットレートを比較したのがこちらのグラフです。初期のFFターゲットレートはギザギザで波が荒いです。
1991年3月で両者をつないだデータを使って利上げ期間と利下げ期間をわけると下表のようになります。
ちなみに、利上げ期間とは利下げ期間の後に初めて利上げが起こり次に利下げが起こるまでの期間、利下げ期間は利上げ期間の後に初めて利下げが起こり次に利上げが起こるまでの期間とします。
政策金利と実質S&P500のチャート
まずは両者の動きをざっくり見るために政策金利と株価をチャートにしてみます。
政策金利は上に書いたように公定歩合とFFターゲットレートをつないだもの、株価はロバート・シラー教授のHPよりダウンロードした実質S&P500です。灰色のシャドーは景気後退の時期です。
ざっくり見た感じでは、50年~60年代後半までは政策金利と株価がそろって上昇、それ以後95年頃までは両者は逆の動き、2000年~2010年の期間は両者がほぼ同じように動いています。一目でわかる一貫したパターンはないかなという感じです。
利上げ・利下げ期間の株式リターン
次に利上げ期間、利下げ期間にわけて株式リターンを見てみます。
グラフを2つ載せますが、上のグラフは17回あった利上げ期間のリターン、下のグラフは16回あった利下げ期間のリターンを年率換算したものです。
グラフのX軸は利上げ・利下げが開始された年で、一番右の「平均」という棒が利上げ・利下げ全期間を集計した年率換算リターンです。
一目瞭然ですが、リターンは利下げ期間が圧倒的に良いです。
1950年1月~2017年5月までの期間では、利上げ期間の年率リターンが2.7%(実質リターン-1.2%)だったのに対して、利下げ期間の年率リターンは11.6%(実質リターン8.7%)もあります。
ただし、2000年以降は事情が変わり、利上げ期間が堅調なプラスリターンになっているのに対して、利下げ期間のリターンは悪化しています。
ちなみに米国の過去の利上げ局面から読み取る!今から使える戦略とはというレポートでは、利下げ・利上げ期間に加えて変化がない時期も調べています(期間は1971年1月から2015年2月まで)。
そちらも全体的には利下げ期間のリターンが良い傾向が出ていますが、1991年以降は利下げ期間のリターンはマイナスにまで落ち込んでいます。
利下げ・利上げ開始前後の株価
金融政策が転換し、利下げ・利上げが開始された月から前後1年間の株価(名目)の値動きをグラフにしてみます。
・1950年以降の平均値(利上げ17回、利下げ16回)を集計したものです。
・X軸のtは利下げ・利上げが起きた月、-1はその1か月前、+1はその1か月後になります。棒グラフは単月の損益、線は累積の損益曲線です。
こちらも一目見てわかるように利下げ開始は明確な強気シグナルになっています。利下げ開始後1年間のリターンは約15%です。
一方で利上げを開始した翌月のリターンははっきりと悪くなっています。ただ、3ヶ月後にはプラスに戻り、以後もプラスのリターンが続いています。利上げ開始前と開始後を比べると、一時的な株価の落ち込みはありますが上昇トレンドは途切れていません。
感想
長期的に見れば利下げは株価にプラスという明確な傾向があります。しかし、やっかいなことにITバブルからリーマンショックの期間はその関係が完全に逆転しています。
おそらくですがITバブルのときはPERが高すぎたこと、リーマンショックのときは金利を下げても景気をコントロールできなかったことが理由だと思います。
金融政策は重要なシグナルではありますが、その神通力はFRBへの信頼感や実際に景気がコントロールできるかといった要因に左右されるのではないでしょうか。
一方で利上げの悪影響ですが、確かに株価にマイナスの影響は見られるものの、全体でみれば大きくマイナスになるほどの強力なインパクトはなさそうです。単純に利上げだけを見てマーケットタイミングを予測するのは少し難しいかなと感じました。