経済成長率の高い国に投資すべきか?

ごく普通に考えると経済成長率の高い国ほど株価の上昇率も大きいように思える。

ある国の経済が成長するとその国の企業の収益が伸び、企業の収益が伸びれば1株あたり利益も増加し、1株あたりの利益が増加すれば株価も上がるというシンプルな理屈だ。

この一見するともっともに思える話が実際に成り立っているのか調べてみた。

 

経済成長率と株式リターンについての研究

おそらく最も長期の研究がクレディスイスの Global Investment Returns Yearbook 2014 に掲載されている。期間は1900年~2013年で主要21か国を対象にしたものだ。

この研究によると実質GDP成長率と実質株式リターンはプラスの相関、1人あたりの実質GDP成長率と実質株式リターンはややマイナスの相関になるそうだ。

 

・実質株式リターンと実質GDP成長率

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・実質株式リターンと1人あたり実質GDP成長率

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ただ、これ以外の資料も見ると、両者にはプラスの相関があるというレポートもあれば、相関がないまたはマイナスの相関があるというレポートもある。

 

世界経済を牽引する成長国・新興国の株式市場(ゴールドマン・サックス)

2011年までの過去23年間の先進国と新興国の名目GDPと名目株式リターン(MSCI先進国&新興国指数)の比較。明確なプラスの相関がある。

 

The outlook for emerging market stocks in a lower-growth world(バンガード)

46か国を対象に1970年~2012年(スタート年は国によって異なる)における実質GDP成長率と実質株式リターンを比較している。ほぼ無関係といっていいレベル。

 

Is There a Link Between GDP Growth and Equity Returns?

先進8か国を対象に1958年~2007年 or 2008年の実質GDP成長率と実質株式リターンを比較している。マイナスの相関。

 

以上のようにGDP成長率と株式リターンの関係は対象期間や対象国によって変わってしまうため、両者の間にはっきり断言できるほどの一貫した傾向を見つけるのは難しそうに感じた。

仮に長期でプラスの相関があるとしても、たぶんそれほど強くないレベルにとどまるのではないかと思う。

 

なぜ両者の関係が弱いのか

経済成長率と株式リターンのリンクが弱い理由についてはいろいろ書かれている。

 

・希薄化効果

新規上場や既存の会社の新株発行があるため1株あたり利益の伸びは経済成長率を下回る。たとえば Earnings Growth: The Two Percent Dilution という論文によると、米国株の1株あたり利益の伸びは経済成長率を年2%ほど下回ったそうだ。

この希薄化という条件はどの国も同じだが、その大きさにばらつきがあるのであれば経済成長と株式リターンの相関が低いことの理由になる。

上で紹介したバンガードのレポートによると、1995年~2012年の期間における新株発行効果は、先進国の年間1.4%(時価総額の増加は7.2%)に対して新興国は年間7.4%(時価総額の増加は12.7%)もあったそうだ。

 

・海外売上高の存在

GDPが国内の数字なのに対して上場企業には海外の売上高や利益が含まれている。

S&P500や日経平均株価に採用されている企業の海外売上高比率は5割前後もある。

 

・株価指数の偏り

新興国では指数に占める金融セクターのウェイトが高い傾向がある。

また、マイナーな国の指数はそもそも構成銘柄が非常に少ない。例えばMSCIベトナム指数の構成銘柄は14銘柄しかない。

このような株価指数と実体経済の間のギャップが両者の関連を弱めているのかもしれない。

 

・国有企業の割合

中国などの国では国有企業の存在感が大きい。これらの企業は株主利益の最大化を追求していない可能性がある。

 

・バリュエーション

いくら成長率が高くても買値が割高であればリターンは低くなってしまう。株式市場は将来の成長を織り込む傾向があるため高成長がリターンに反映されにくいのかもしれない。

 

感想

ざっと資料を見たかぎりでは、経済成長率と株式リターンの間にはっきりとした傾向があるわけではなさそう。

仮に数十年という長期で見れば両者にプラスの相関があるとしても、投資期間が5年10年といったレベルであれば経済成長率をあまり重要視する必要はないのかなと思った。

ただ、両者の間にマイナスの相関があるわけではないし、理屈的に経済成長率と株式リターンがまったく無関係とも思えないので、バリュエーションなど他の条件が変わらないのであれば経済成長率の高い国に投資するのも良いと思う。