6890 フェローテックホールディングス 2022年3月期4Q決算

半導体関連の製品・サービスと電子部品の会社。

磁性流体、真空シール、石英製品、セラミックス、半導体洗浄、サーモモジュール、パワー半導体基板などを提供している。

 

4Q累計の業績は、前年比で売上高+47%の増収、経常利益+216%の増益。期首の予想を大幅に上振れて着地した。

今期の予想も売上高+35%の増収、営業利益+33%の増益と好調を持続する見込み(経常利益は為替差益を見込まないため+7%の増益)。

 

セグメント売上高の推移は以下のグラフの通り。

現在は半導体等装置関連事業、電子デバイス事業、その他の3セグメントだが、2019年までは太陽電池関連事業を行っていた。

2022年の半導体等装置関連事業は前年比+35%の増収。過去の業績を見ると波があるものの右肩上がりに伸びている。

電子デバイス事業は2014年~2015年頃から大きく伸びている。2022年は前年比+56%の増収だった。

 

セグメント利益の推移。

2022年の半導体等装置関連事業は前年比2.5倍と大きく伸びた。業績に波があるものの近年は大きな利益を出している。

電子デバイス事業は前年比+50%の増益。この事業は赤字がなく、安定して利益を出している。

太陽電池事業は2009~2011年ごろに大きな利益を出していたが、2013年以降は撤退するまで赤字が続いていた。

 

次に製品ごとの売上高を見てみる。

半導体等装置関連事業ではコア技術である磁性流体を使った真空シールで65%という高いシェアを持つ。真空シールは半導体製造装置、FPD、LED関連製造装置の基幹部品として使用されているそうだ。

2022年の真空シールの売上高は前年比+24%増加した。ただ、過去10年ほどを見るとそれほど大きく伸びてはいない。セグメントに占める比率は17%程度。

 

フェローテックは真空シールを販売している顧客に対して石英製品やセラミックスなどの半導体生産プロセスで使われる消耗品を拡販してきた。これらの製品(石英製品、シリコンパーツ、セラミックス、CVD-SiC)を半導体マテリアル製品として区分けしている。

2022年の半導体マテリアル製品の売上高は前年比+48%と大幅に伸びた。過去の業績を見てもこの製品は右肩上がりに増えている。

セグメント売上高に占める比率は63%。単体の製品でも石英製品やセラミックスの売上高は真空シールを上回っている。ただ、これらの製品では真空シールのような高シェアは持っていないそうだ。

 

真空シールと半導体マテリアル製品を除いた半導体等装置関連事業の内訳が以下のグラフとなる。

EBガン・LED蒸着装置はほぼ成長がなく横ばいで推移している。

ウェーハ加工は中国でのビジネスだが、株式売却により持分法適用会社となった。この事業は成長期待こそあったものの、赤字かつ多額の投資により財務悪化の原因になっていた。現在のフェローテックの持分は23.05%。中国での上場を目指している。

装置部品洗浄も中国でのビジネス。会社によるとウェーハ洗浄は中国で50~60%の市場シェアを持つそうだ。業績は順調に伸びており2022年は前年比+28%の増収だった。セグメント売上高に占める比率も12%まで上がっている。

石英坩堝は以前は太陽電池関連事業に含まれていた。売上高は減少が続いていたが2022年は久々に大きく回復した。

 

続いて電子デバイス事業。

このセグメントは磁性流体、パワー半導体基板、サーモモジュールで構成されている。なお、パワー半導体基板の数字が分かるのは2017年からでそれ以前はサーモモジュールに含まれていた。

磁性流体は祖業で高シェアを持つものの市場規模が小さいため売上高は少ない。

サーモモジュールは対象物を瞬時に暖めたり冷やしたりすることのできる製品。小型軽量かつ振動騒音がないことから幅広い分野で使われているそうだ。用途別で42%を占めているのが光通信で5G通信機器にも使われる。サーモモジュールはフェローテックのコア技術のひとつであり36%のシェアを持つ。

この製品の売上高は2016年から横ばいが続いていたが、2022年は前年比+35%と久々に大きく伸びた。5G機器向けやPCR検査機など医療分野が伸びたそうだ。

パワー半導体は、産業用機械やEVのモーターなど大きな電力を扱う場所で使われることが多い。フェローテックはサーモモジュール製造技術を応用したDCB基盤を作ってきたとのこと。現在の生産能力はDCB基板が月産110万枚、AMB基板が月産10万枚。DCB基板160万枚、AMB基板45万枚への増産を計画している。

パワー半導体基板の2022年の売上高は前年比+143%と大きく伸びた。この製品は過去数年で見ても成長率が高い。

 

好調な決算と同時に中期経営計画が上方修正された。

従来は2024年3月期に売上高1,500億円・営業利益250億円という目標だったが、今回の修正により売上高2,300億円・営業利益400億円となった。

22年3月期~24年3月期の投資金額も旧計画の950億円から1,800億円に引き上げられた。資金はこれまでに行った増資とキャッシュフローによって賄う見込み。

 

中期経営計画のカテゴリー別の目標売上高を見ると、電子デバイスと半導体サービスの伸び率が高くなっている(半導体金属・装置の伸び率も高いが、これはその他に計上されていた金属加工が含まれるようになるため)。

電子デバイスの内訳は、サーモモジュールが+15.6%、パワー半導体基板が+241.7%とパワー半導体基板の伸び率が非常に高い。パワー半導体基板の2024年の売上高は石英製品やセラミックスを超えて最大になる見込み。

 

バランスシートを見ると2022年3月期の有利子負債は前年から減って395億円となった。

一方で現預金は200億円以上増加して525億円。

中国への積極投資で悪化した財務は、ウェーハ子会社の株式売却や増資によって大きく改善した。

 

株価は決算後に大きく上げたものの、その後は横ばいが続いている。2021年末のピークからは4割近く下げた位置にある。

今期PERは7.6倍。成長率に比べると評価が安い。

半導体銘柄ということで市況のピークが意識されているのと、中国リスクが高いことが原因かなと思う。

2Qの資料によると、売上高に占める中国子会社比率は44%、有形固定資産に占める中国比率は83%となっている。中国の半導体国産化の追い風を受けるポジションではあるがカントリーリスクが高い。

また、中国子会社を上場させる方針から、業績の伸びほど純利益が増えない可能性や、ガバナンス面での不安がある。

パワー半導体基板、シリコンパーツ、半導体洗浄という最も伸びる事業の中国子会社は、上場により5割前後の持分まで低下しそう。

SQM ソシエダード・キミカ・イ・ミネラ・デ・チリ 2022年1Q決算

チリの化学メーカー。

チリ北部のアタカマ砂漠から採れるチリ硝石を使って硝酸ナトリウムやヨウ素を、アタカマ塩湖から炭酸リチウムや塩化カリウムを生産している。

硝酸ナトリウムと塩化カリウムから硝酸カリウムも生産しており、硝酸カリウムは肥料セグメントの主力製品となっている。

 

セグメントはリチウム、特殊肥料(Speciality Plant Nutrition)、ヨウ素、カリウム、工業化学品の5つ。

 

特殊肥料セグメントは、硝酸カリウムと硝酸ナトリウム・カリウム(硝酸カリウムと硝酸ナトリウムの混合物)の販売量が全体の半分以上を占めている。次いでスペシャリティブレンド、その他の特殊肥料、硝酸ナトリウムとなっている。

主力製品の硝酸カリウムは、塩化カリウムや硫酸カリウムと並ぶ三大カリ肥料のひとつで、完全な水溶性、塩素を含まない、窒素を硝酸態で供給(作物の栄養吸収が早い)、土壌の酸性度上昇を避けることができる、などの特徴があるそうだ。値段が高いため、高価値作物の生産者がターゲットになる。SQMの世界シェアは51%とのこと。

 

カリウムセグメントでは、塩化カリウムと硫酸カリウムを生産している。

塩化カリウムはカリウム系の中でも最もよく使われる汎用肥料で、さまざまな作物に使用されている。硫酸カリウムは塩化カリウムを原料に作られる。塩化カリウムよりも値段が高く特殊肥料と見なされるそうだ。

このセグメントの割合は以前は大きかったが、近年は規模が縮小している。カリウムはリチウムとともにアタカマのかん水から生産されるが、生産をリチウムに最適化していること、硝酸カリウムの原材料として使われること、環境保護のためかん水の使用量を減らしていることから販売量が減少している。

 

ヨウ素の最も大きな用途はX線造影剤で、需要の約24%を占めている。次いで医薬品の13%、液晶およびLEDスクリーンの13%、ヨードの8%、動物栄養剤の8%、フッ化物誘導体の7%と続く。2020年には新型コロナの影響でヨウ素の需要が落ち込んだが、2021年はパンデミック前を上回るまで回復した。SQMの世界シェアは31%。

 

リチウムセグメントでは、アタカマ塩湖のかん水を原材料として、チリのプラントで炭酸リチウムと水酸化リチウムを生産している。

炭酸リチウムはLFP(リン酸鉄リチウム電池)バッテリーやニッケル比率の低いNMC(ニッケル-マンガン-コバルト)バッテリーに使われる。LFPバッテリーは、エネルギー密度こそ低いものの低価格で安全性に優れている。

水酸化リチウムはニッケル比率の高い三元系バッテリーに使われる。三元系バッテリーは、エネルギー密度が高いことから今後の主流になると考えられていたが、技術向上によりLFPバッテリーの航続距離が伸びたことから、現在の中国ではLFPが優勢になっている。テスラのモデル3・YスタンダードレンジもLFPバッテリーを採用している。

2021年末のSQMのキャパシティは、炭酸リチウムが年産12万トン、水酸化リチウムが年産3万トン。これを2023年に炭酸リチウム21万トン、水酸化リチウム4万トンに拡張する計画となっている。

チリ以外では、SQMが50%出資するオーストラリアのMt Holland(鉱石プロジェクト)の投資が決定した。クイナナに水酸化リチウムプラントも建設され、原材料からリチウム化合物まで生産する垂直統合プロジェクトになる。こちらは2024年後半に製品出荷の予定。

 

工業化学品セグメントでは、工業用の硝酸ナトリウム、硝酸カリウム、塩化カリウムを生産している。これらは、ガラス、セラミックス、火薬、金属リサイクル、断熱材など、幅広い分野で使用されているそうだ。

また、集光型太陽熱発電所の蓄熱用として硝酸ナトリウムと硝酸カリウムの混合物を含むソーラーソルトが使われており、こちらの成長も期待されている。

ただし、このセグメントが全体の利益に占める比率は2%程度しかなく重要性は低い。

 

1Qの業績は、大幅に伸びた前年4Qのさらに2倍という圧倒的な数字だった。

売上高 20.2億ドル(前年比+282%)

粗利益 11.7億ドル(前年比+752%)

純利益 8.0億ドル(前年比+1,071%)

調整EBITDA 11.9億ドル(前年比+619%)

EPS 2.79ドル

 

四半期の業績の推移は下のグラフの通り。前年4Qからの伸びがものすごいことになっている。

 

セグメント売上高の前年比は、特殊肥料+42%、ヨウ素+59%、リチウム+970%、カリウム+89%、工業化学品-26%。

特殊肥料、ヨウ素も好調だが、リチウムの伸びが大きすぎてかすんでしまう。カリウムは4Q比では減収となった。

 

セグメント純利益の四半期の推移は下のグラフの通り。

この会社はセグメント純利益(Unallocated amountsの前の数字で粗利益に近い金額)の開示が遅く、いまのところ前年4Qまでしか取得できない。多少のズレが出るが1Qの数字に粗利益を使ったのが下のグラフになる。

こちらもリチウムの伸びがものすごい。特殊肥料とヨウ素も好調で、前年4Q比でも増益となっている。

 

続いてセグメント別に見ていく。

特殊肥料セグメントの業績は長らく横ばいで推移していたが、前年4Qからレンジを上抜けしている。1Qは大きく伸びた4Qの業績をさらに上回った。

 

販売量と販売価格は下の資料(左のグラフ)の通り。

販売量は前年4Q比で-25%減少している。

2022年の販売量も2021年よりも少なくなるそうだ。前年並みという前回のガイダンスから下方修正された。

販売価格は前年同期比+89%で、四半期で見ても783ドル/トン→940ドル→1,310ドルと急騰している。

材料のカリウムの値上がりを背景に、販売価格はここ10年で最も高い水準に達している。

 

カリウムセグメントの1Qは、前年同期比では大幅な増収増益だったものの、前年4Q比では大幅な減収減益となった。

 

販売量と販売価格は下の資料の通り(右のグラフ)

前年4Q比で減収減益になったのは販売量が半減したため。2022年の通期でも75万トンと前年の89万トンから減少する見通し。

一方で販売価格は急騰した4Qからさらに値上がりしている。

カリウム価格はウクライナの戦争の影響を大きく受けている。ロシアとベラルーシは世界の供給量の3~4割超を占めるそうだ。

 

ヨウ素セグメントは、前年同期比でも前年4Q比でも大幅な増収増益となった。

 

販売量と販売価格を見ると、販売量は横ばいだが、販売価格が大きく上昇した。短期的に供給が増える見込みがないため需給はタイトで、2022年の販売価格は1Qよりもさらに上昇するそうだ。

販売量については前年並みだが、2023年の初めに1,000トン、2024年に2.500トン生産能力を拡大させる計画。

 

リチウムセグメントの業績はものすごいことになっている。

 

業績の大幅な伸びは、販売量の増加もあるが、販売価格の急騰が主な理由となっている。

1Qの販売価格は38,000ドル/トンで、前年4Qの14,600ドルから大幅な上昇となった。2020年4Qの底値5,300ドルと比較すると、わずか1年弱で7倍に急騰している。

足元では中国のロックダウンによりリチウム価格が多少下げているものの、炭酸リチウムの中国スポット価格はトン当たり40万元台後半(6万ドル後半~7万ドル程度)と依然として高値が続いている。SQMの2Qの販売価格も1Qより多少高くなるそうだ。

なお、SQMの販売契約は、20%が固定価格またはフロアと天井のある変動価格、50%がベンチマークに連動する変動価格、30%が未定とのこと。アルベマールやライベントに比べると変動価格の比率が高いため、価格上昇による恩恵が短期間で業績に反映される。

販売量は、中国のロックダウンの影響で2Qに減少するものの、下半期に回復にする見込み。2022年は14万トンという計画。

 

決算は素晴らしい内容だったが、決算前の株価が堅調だったことや、さすがにリチウム価格のピークが意識されることからか、株価はそれほど反応しなかった。

現在の時価総額は286億ドルで、アルベマールの285億ドルとほぼ同水準になっている。

1QのEPSを4倍して計算するとPERは9倍くらい。

今年14万トンの販売量が来年18万トン+α、2023年のキャパシティが年産21万トン、2024年にMt Holland(年産5万トン)稼働を考えると、数量面では堅調な伸びが期待できる。現在の販売価格が続くという前提であれば割安な株価だと思う。

 

ただし、個人的にはリチウム価格の高騰が何年も続くというのは少し楽観的なのではないかと思う。

前回のブーム&バストと同じく、今回も真っ先に生産が増えそうなのがスポジュメン精鉱だが、今年中に稼働するプロジェクトだけで以下のものがある。

・アルベマールのウォジナ再稼働。5月に年産25万トン+7月に年産25万トン。

・ガンフォンのマウントマリオンの拡張。4月に年産45万トン→60万トン、年末に90万トン。

・ピルバラの拡張。2022年の3Qに年産33万トン→56~58万トン。

・コアリチウム、シグマリチウムの新規稼働。年産40万トン程度。

以上を合計すると160万トンのキャパシティ追加となり、炭酸リチウム換算で約20万トンに相当する。

現在稼働しているグリーンブッシュ、マウントマリオン、ピルバラ、マウントキャトリンの合計が230万トンくらいなのでかなり大きい。

これらの増産によってリチウムの需給がどうなるかは分からないが、現在のように値段がいくら高くても買うという極端な状況は緩和されていくのではないだろうか。

 

3663 アートスパークホールディングス 2022年1Q決算

イラストマンガ制作ソフトのクリップスタジオと主に車載向けのUI開発ソリューションを提供している会社。

クリップスタジオはアマチュアからプロのクリエイターまで幅広く利用されているとのこと。

2022年3月末の累計出荷本数は1,886万本で、うち74.8%が海外向けとなっている。

 

1Qの売上高は、前年比で売上高が+3%の増収、経常利益が+10%の増益だった。

売上高 18.2億円(前年比+3%)

経常利益 4.6億円(前年比+10%)

純利益 2.8億円(前年比-47%)

 

セグメント別に見ると、クリエイターサポート事業は、売上高が+5%の増収、経常利益が+9%の増益だった。

売上高の成長率は新型コロナ後の前年比+40%前後から大幅に落ちている。2018年と2019年の+25%と比べても低い。ステイホームの特需終了やサブスクリプションへの移行が影響していると思われる。

 

サブスクリプションは順調に伸びており、契約数は前年末の47.8万から4月末の56.9万まで増加している。3か月ARRも順調に伸びており、4月は20億円を超えた。

とはいえ、今期のクリエイターサポート事業の売上高が63億円の予想なので、セグメント売上高に占めるサブスクリプションの割合はまだまだ低い。


なお、3月の月次からクリエイターサポート事業の売上高の内訳も開示されるようになった。

全体に占めるツール販売とサブスクリプションは8割程度を占めており、この事業はほぼペイントソフトの売上高と見ていいようだ。電子書籍の売上は低く、前年比で減少している。

 

UI/UX事業は、売上高-9%の減収、セグメント損失1.1億円だった。

カンデラ社ののれんを償却したことで一時期より赤字は減ってはいるが、依然として損失が続いている。今期は2.2億円の赤字予想。

 

1Qの業績は中間の会社予想に比べると良かった。2Qは売上高+4%、経常利益-34%で会社予想を達成できる。

 

決算翌日に株価は大きく上げたが、その後は乱高下している。

株価はピークの1,279円から599円まで下げたあと851円まで戻している。現在の時価総額は309億円。

今期の予想PERは22.7倍。赤字のUI/UXを除いてクリエイターサポートの営業利益×0.7で計算すると20倍弱になる(この会社は営業外の損益もセグメント間の調整も少ない)。

数字は高くもなく低くもないが、クリエイターサポートの売上高成長率が1桁に落ちているのでPEGで見ると割安感はない。

今後は特需終了やサブスクリプションへの移行を経て、クリエイターサポート事業が元の高成長に戻るかどうかが問題になりそう。

 

ALB アルベマール 2022年1Q決算

リチウム、臭素、触媒を生産する会社。

リチウムでは最大手の一角。チリのアタカマ塩湖、オーストラリアのグリーンブッシュ鉱山(持分49%)、同じくオーストラリアのウォジナ鉱山(持分60%)のかん水や鉱石からリチウム化合物を生産している。アタカマとグリーンブッシュはかん水と鉱石でベストの資産とされる。

臭素は難燃剤が主な用途。他にもエレクトロニクス、自動車、建設、アプライアンスなど幅広い産業に使用されるGDP比例のビジネス。アルベマールはこの業界のマーケットリーダーとのこと。コスト競争力のある死海とアーカンソー州で事業を行っている。

触媒はガソリンなどの精製やディーゼルや石油原料の汚染物質を取り除くのに使われる。この部門は新型コロナによる移動制限が逆風になっている。

 

1Qの業績は、前年比で売上高+36%の増収、調整EBITDA+88%の増益となった。

前年6月に売却したファインケミストリーサービスを除くと、売上高は+44%の増収、調整EBITDAは+107%の増益とのこと。

売上高 1,128Mドル(前年比+36%)

営業利益 311Mドル(前年比+100%)

調整EBITDA 432Mドル(前年比+88%)

調整希薄化EPS 2.38ドル。

 

四半期の売上高と調整EBITDAの推移が下のグラフになる。

新型コロナで落ち込んだ後は前年4Qまで回復が鈍かったが、1Qは売上高・調整EBITDA共に久々に大きく伸びた。

 

四半期のセグメント売上高の推移が下のグラフになる。

前年比では、リチウム+97%、臭素+28%、触媒-1%。

2020年1Qを底に回復が続いていたリチウムの伸びが加速している。臭素の業績も好調。

 

四半期のセグメント調整EBITDAの推移が下のグラフ。

前年比では、リチウム+190%、臭素+37%、触媒-33%。

リチウムは前年4Q比でも2倍以上の増益で、一気に業績が好転している。臭素も前年4Q比で+48%の増益と好調。

 

好調な決算と同時に通期のガイダンスも大幅に引き上げられた。

上方修正後のガイダンスは、売上高5.2~5.6Bドル(前年比+60~70%)、調整EBITDA1.7~2Bドル(前年比+100~140%)、調整希薄化EPS9.25~12.25ドル。

 

続いてセグメント別の業績を見ていく。

リチウムセグメントは前年比で売上高+97%、調整EBITDA+190%と大幅な増収増益だった。売上高の増加の内訳は、販売価格が+66%、販売量が+31%の寄与。

1Q時点では大きな拡張がなかったため(La Negraは2Qから売上を計上する)販売量の増加はやや意外だった。トーリングによる販売や、ウォジナ鉱山の再稼働に伴いスポジュメン精鉱の一回限りの販売があったそうだ。

 

2022年の調整EBITDAは、前年比+200~225%の増益というガイダンス。前回の+75%から大きく上方修正された。

 

リチウム販売量は、前回の見通しどおり前年比+20~30%の増加を見込む。

La NegraIII&IVが2Qから、KemertonⅠが下半期から売上を計上する予定。

ウォジナ鉱山の再稼働は順調に進んでおり、トレイン1が5月から、トレイン2が予定を前倒して7月からスポジュメン精鉱の出荷を開始する。キャパシティはそれぞれ年産250Ktで合計500Kt。70Ktの水酸化リチウムを生産することができる量となる。

ウォジナの再稼働が順調に進めば、トーリング販売などいくつかのアップサイドも考えられるそうだ。

 

リチウムの販売価格は前年比で約2倍とのガイダンス。前回の+40~45%から大幅に上方修正された。

ガイダンスは2Qに上昇した販売価格が通年で続くという想定にもとづく。現在の市場価格が続けば上方修正されるが、大きな値下がりがあれば下方修正されるとのこと。足元では中国のロックダウンの影響で価格がやや下がっているが、ガイダンスに影響を与えるにはもっと大幅な下落が必要になるそうだ。

なお、アルベマールはこれまで主力としていた長期・固定価格の契約を減らし、変動価格の契約を増やすことを表明している。

2022年はバッテリーグレード(売上高の70~80%程度を占める)の販売のうち20%がスポット価格、50%がインデックスに連動する天井と底のある変動価格、30%が固定価格の契約となるそうだ。

固定価格の契約も変動価格への移行を進めており、これが成功すればガイダンスをさらに上方修正できるとのこと。

 

La NegraⅢ&ⅣとKemertonⅠ&Ⅱの進捗は以下の通り。両者の完成によりキャパシティは年産175Ktに増加する。

・La NegraⅢとⅣ は計画通り2Qから売上高を計上する。

・KemertonⅠは試運転フェーズ。5月末には最初の製品を出荷する見込み。KemertonⅡはの完成は今年末になる。

 

Wave2に続きWave3の拡張も進行している。Wave3では当初は年産150Ktのキャパシティ追加を予定していたが、今回これが年産200Ktに上方修正された。

・Qinzhou のプラントの買収は今年下半期に完了する予定。年産25Ktのキャパシティ。

・Meishan の年産50Ktの水酸化リチウムプラントの建設が始まる。Zhangjiagang はエンジニアリングの段階。

・ネバダ州のシルバーピークの拡張は順調に進んでいる。炭酸リチウムの生産量を倍増させる計画。

・グリーンブッシュスの拡張も同時に進めている。この記事によると現在のキャパシティは年産1.27Mtのスポジュメン精鉱だが、既存プラントの増強と新規のプラントの建設により800Ktのキャパシティが加わる。新規プラントの稼働は2025年を目指しているそうだ。

 

Wave3の次のWave4ではさらに年産75~125Ktの生産能力が追加される計画となっている。

キングスマウンテンではプレフィージビリティスタディを開始。マグノリアの臭素工場では、かん水を活用してリチウムを抽出するDLE技術の評価を行っているそうだ。

 

臭素セグメントの業績は、前年比で売上高+28%(うち価格+25%、数量+3%の寄与)、調整EBITDA+37%の増益だった。リチウムほどではないが好調な業績を出している。

供給よりも速いペースで需要が増加しており、今後数年間は供給不足が続くと考えているそうだ。

2022年のEBITDAの見通しは前年比+15~20%の増益。前回のガイダンスの+5~15%から上方修正された。

 

触媒セグメントは、前年比で売上高-1%の減収、調整EBITDA-33%の減益だった。

販売価格は上昇したものの、原材料費の高騰と販売量の減少で減収となった。

2022 年の調整EBITDAは前年比で横ばいから-65%の減益となる見込み。前回の+5~15%から大幅に下方修正された。

 

好調な決算を受けて株価は急騰したが、株式市場の急落に巻き込まれて値を戻している。

現在は221ドルで時価総額26Bドル。時価総額は同業であるガンフォンの22Bドル、SQMの21Bドルを上回っている。

会社予想のEPSを使うと今期のPERは18~24倍。こちらはガンフォンやSQMより高い。販売量はそれほど大差ないので、価格戦略の違いが差になっているのかと思う。変動価格の契約を増やしているとはいえ、アルベマールはもともと長期・固定価格契約が主体の会社だった。ただ、価格に関しては中長期では契約の更新によって他社と差が無くなっていくと思う。

リチウム各社のPERは業績の改善によって程度な水準になってきた。今後の大幅なキャパシティの拡張を考えると割安にも思えるが、あくまでもリチウム価格の高値が維持されるのが前提となる。

今年は新規プロジェクトによる供給量の増加は限定的だが、来期以降は多くのプロジェクトが稼働する。需要の増加とどちらが早いかという話になりそう。

 

LTHM ライベント 2022年1Q決算

リチウム準大手。

アルゼンチンのオンブレ・ムエルトから炭酸リチウムを生産し、アメリカや中国で水酸化リチウムに加工している。

生産コストは低く、会社によると炭酸リチウムでは下位1/4、水酸化リチウムでは下位1/2に入るそうだ。

戦略的にバッテリー向けの水酸化リチウムに注力しており、2021年の売上高の49%が水酸化リチウムになっている。炭酸リチウム&塩化リチウムは17%。

用途別では電池向けが売上高の57%を占めている。

 

1Qの業績は、前年比で売上高+56%の増収、営業利益1.7Mドル→46Mドルの大幅増収、調整EBITDA+380%の増益だった。

売上高 144Mドル(前年比+56%)

営業利益 46Mドル(前年比+2,612%)

純利益 53Mドル(前年赤字)

調整EBITDA 53Mドル(前年比+380%)

調整希薄化後EPS 0.21ドル

 

大幅な増収は販売価格の値上がりのため。ライベントは主力製品である水酸化リチウムの3/4を複数年・固定価格で販売しているが、今年は販売量のすべてが2021年末の改定価格もしくは市場価格での販売となるため、リチウム価格の上昇が本格的に業績に反映されるようになった。

 

四半期の売上高、営業利益、調整EBITDAの推移が下のグラフになる。

2020年3Qを底に業績の回復が続いており、1Qの営業利益と調整EBITDAは過去最高を更新した。

 

決算と同時に通期ガイダンスが大幅に引き上げられた。

新たなガイダンスは、売上高755~835Mドル(中央値で前年比+89%)、調整EBITDA290~350Mドル(中央値で前年比+360%)。調整EBITDAは過去のピーク(2018年)の183Mドルを大きく超える。

前回のガイダンスと比較すると、売上高は+39%、調整EBITDAは+78%の上方修正となる。

 

上方修正の内訳は会社資料に掲載されている。

水酸化リチウム/炭酸リチウムが130Mドルの上振れ、ブチルリチウム/リチウムメタル等が95Mドルの上振れとなっている。後者は原材料のコスト上昇を価格転換したとのこと。

 

生産キャパシティの拡張計画もアップデートされた。

これまでの計画は、アルゼンチンの炭酸リチウムのキャパシティ20Ktを2023年に40Kt、2025年に60Ktに拡張し、アメリカの水酸化リチウムプラントに5Kt追加するというものだった。

 

今回は以下の計画が追加された。

・2025年に追加される炭酸リチウムキャパシティは従来より10Kt多い30Ktとなる。

・2023年末までに15Ktの水酸化リチウムの生産施設を中国に建設する。

・ネマスカの持ち分を25%から50%に引き上げる。ネマスカはスポジュメン鉱石から水酸化リチウム34Ktを生産する垂直統合プロジェクト。Whabouchi の資源量は44Mt@1.47%で中規模クラス。2025年に稼働する計画。出資の引き上げにあたって17.5M株の新株が発行される(希薄化10%弱)。現在の株価をもとにすると取得価格は500Mドル、プロジェクト全体では2Bドルとかなり割高感がある。

・水酸化リチウム10Ktのリサイクル工場の建設。場所は米国か欧州の可能性が高い。完成は早ければ2025年末。

 

これらのアップデートにより、2025年末の(ネマスカを除く)キャパシティは、炭酸リチウム70Kt、水酸化リチウム55Ktに拡張される。なお、リサイクルを除く水酸化リチウム45Ktの原材料にはアルゼンチンで生産する炭酸リチウム40Ktが使用される。

また、長期的な目標として、2030年までに炭酸リチウム100Kt、水酸化リチウム89Ktにキャパシティを拡大させるそうだ。

 

設備投資は2022~2024年にかけて1Bドルの見込み(ネマスカを除く)。

2022年の資本支出は中間値で320Mドル。

これら資金の大部分は事業が生み出すフリーキャッシュフローで賄う。今後2年間は増資の可能性は低いとのこと。

 

決算が良かったことから翌日に株価は+30%も上げた。現在の株価は28.55ドルで時価総額は4.6Bドルとなる。

1Qの調整EBITDA53Mドル、通期の調整EBITDAのガイダンス320Mドル(中央値)、1Qの調整希薄化EPS0.21ドルから単純に計算すると、今期の調整希薄化EPSは1.26ドルくらいになる。このEPSで計算すると今期PERは23倍程度。

割安な数字ではないが、今後4年で炭酸リチウムのキャパシティが3.5倍になり、ネマスカやリサイクルが加わればかなり割安になりそう。あくまでもリチウム価格の高値が続くことが前提の話だが。

 

3186 ネクステージ 2022年11月期1Q決算

中古車販売の大手。中古車買取や輸入車ディーラーも手掛けている。

 

1Qは大幅な増収増益だった。

売上高 815億円(前年比+29%)

経常利益 43億円(前年比+58%)

純利益 30億円(前年比+55%)

中間への進捗も良く、2Qは売上高+11%増収、経常利益+12%増益で会社予想を達成できる(ただし前年2Qの業績が良いので楽勝というわけではない)。

 

四半期の売上高の推移は下のグラフの通り。

2020年に1年ほどの停滞があったが、前年の2Qから成長軌道に戻っている。1Qは過去最高の売上高となった。

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経常利益も最高益を更新した。前年4Qから2四半期連続となる。

4Qの経常利益率は5.3%。前年の4%台からさらに改善した。

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売上総利益率と販管費の推移が説明会資料に掲載されていた。

粗利益率は高水準を維持している。2015年~2016年の15%を下回る水準から年々数値を向上させている。

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粗利益率の向上の理由として買取店の強化を挙げている。1Qは自社買取による仕入れがオートオークションを上回ったとのこと。

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小売販売台数は25,750台で前年比+24%の増加だった。中古車登録台数が前年比-7.4%の中で大幅に増やしている。ただし、前年2Q~4Q比でみるとそれほど大きく伸びていない。

買取台数は30,970台。前年比+92%と大きく伸びた。

小売販売台数と買取台数の推移が下のグラフ。近年注力している買取台数の伸びが大きく、1Qは小売販売台数を上回った。

一方で小売販売台数は店舗数が増えている割にそれほど伸びていないように見える。

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1Qの出店は、中型店+2、総合店+1、買取店+1で、期首の計画通り。

通期では総合店+22の出店を計画している。総合店の店舗数は前年比1.5倍になる。

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今期の業績予想は、前年比で売上高+20%増収、経常利益+29%増益。

中期経営計画では、今後3年間で売上高が+72%、経常利益や純利益は2倍以上という目標を掲げている。

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決算後に株価は大きく上げたが、地合いの悪さもあり全戻しとなっている。

今期の予想PERは約15倍。成長率と比較すると割安感があると思う。

不安点としては増資懸念がある。BSを見ると、現預金が200億円程度に対して、有利子負債が500億円程度ある。今期の予想経常利益+減価償却費で200億円を超えるので、財務が悪いわけではないが、積極出店をカバーするほど良いわけでもない。いつ増資があってもおかしくないと思う。

あとは中古車価格が下落に転じたときの影響だろうか。USS発表の中古車の平均落札価格は依然として上昇しているが、アメリカの中古車価格(Used Vehicle Value Index)は2か月連続で下落している。

 

01772.HK ガンフォンリチウム 2021年4Q決算

中国のリチウム会社。川上のリチウム資源開発から川下のバッテリー製造やリサイクルまでを手掛けている。アルベマールやSQMと並ぶリチウム最大手の一角。

 

2021年の業績は、売上高が前年比2倍、粗利益・調整EBITDA・調整純利益が前年比3~5倍と大幅な増収増益になった。

希薄化EPSは3.72人民元(4.57香港ドル)。ただし、純利益には金融資産の評価益が含まれている。純利益と調整純利益の比率から計算するとEPSは2.25人民元(2.76香港ドル)となる。

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四半期の売上高と純利益の推移は下のグラフの通り。先に書いたように純利益には金融資産の評価益が含まれているので参考にならないが、この会社は四半期によって営業利益や調整純利益を発表しないので仕方なく使う。

時系列に見ると、2021年の2Qから売上高が急増していることが分かる。

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直近2年分だが四半期の粗利益が説明会資料に掲載されていた。3Qの粗利益の伸びがやや弱く見えたが、4Qは再び大きく増加している。

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2021年のセグメント売上高と利益は下の表のとおり。

リチウムメタル・化合物がメインだが、リチウムバッテリーの売上高もそれなりに大きい。

リチウムバッテリーは、コンシューマーバッテリー、TWSバッテリー、パワー/エナジーストレージ、固体電池、リサイクルを手掛けている。売上高の内訳が開示されていないので何を主力にしているのか分からない。

固体電池は2021年発売の東風汽車のE70に搭載されたそうだ。

リサイクルは年間3.4万トン(前年比横)の廃リチウム電池の処理能力を持つ。リン酸鉄リチウム電池では国内シェア1位、三元系リチウム電池では国内シェアトップ3入りしているそうだ。将来的には10万トンの処理能力を目指すとのこと。

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2021年のリチウム製品の生産量は9万トンで、前年の5.4万トンから大幅に増加した。

販売量は9.1万トン、平均販売価格は上半期が72,277人民元/トン、下半期が107,777人民元/トンとなっている。平均販売価格は前年比で49%上昇した。ちなみに足元で中国国内の炭酸リチウムのスポット価格は500,000人民元/トンまで急騰している。

 

設計キャパシティ(Degigned capacity)は前年から横ばい。Ningdu の炭酸リチウムラインが改修により微増している。

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※水酸化リチウムやリチウムメタルは積み上げただけで炭酸リチウム換算していない。

 

実効生産キャパシティは水酸化リチウムが大幅に増加した。2020年末に追加された Xinyu の水酸化リチウムプラント5万トンが寄与している。

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製品別の生産量は昨年から開示されなくなったが、設備稼働率は開示されている。2021年の稼働率は、水酸化リチウムが88%、炭酸リチウムが69%。

実効生産キャパシティに設備稼働率をかけて生産量を計算したのが下のグラフとなる(2019年までは実際の生産量)。

水酸化リチウムの割合が年々増加しており、2021年は生産量の約3/4が水酸化リチウムになった。

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設計キャパシティ、実効生産キャパシティ、実際の生産量の推移。

2020年に生産量が落ちたが、長期で見るとキャパシティ・生産量ともに右肩上がりとなっている。伸び率はアルベマールやSQMらの競合に比べても高い。原材料から開発する垂直統合にこだわらず、コンバーター能力の拡大に注力しているためだろう。

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リチウム化合物の原材料は、自社が50%の権益を持つマウントマリオン、6.16%出資するピルバラミネラルズが主な調達先。この他に青海省の Yiliping 塩湖の49%の権益を獲得した。

マウントマリオンは2021年に42.2万トン(≒5.3万トンLCE)のスポジュメン精鉱を生産した。ガンフォンは生産物の49%を確保している。さらに今年の2月にミネラルリソーシズが持つ残りの51%も加工・販売する契約を交わした。マウントマリオンのキャパシティは年45~48万トンだが、アップグレードにより今年の下半期に20~30%増加する予定。

ピルバラは2021年に32.4万トン(≒4万トンLCE)のスポジュメン精鉱を生産した。ガンフォンの購入量は、フェーズ1が16万トン以下、現在建設中のフェーズ2が15万トン以上という契約。

青海省の Yiliping 塩湖の生産キャパシティは炭酸リチウム1万トンとのこと。

原材料の調達先を見て分かるように、ガンフォンはオーストラリアの鉱石への依存度が高い。このため生産物は水酸化リチウム主体になっている(鉱石からの炭酸リチウムの生産は高コストになる)。一方で現在の中国ではLFPバッテリーがシェアを伸ばしており、炭酸リチウムにプレミアムがついている。今年の下半期に稼働予定の Cauchari-Olaroz によって炭酸リチウムの生産を強化したいところだろう。

 

今後の拡張計画としては、アルゼンチンの2つの塩湖プロジェクト、メキシコのクレイプロジェクト、リチウム化合物とリチウムメタルのコンバージョンプラントの5つがプレゼン資料に掲載されている。

キャパシティは、2021年の年10万トンを2025年に年30万トンまで増加させる目標。さらに長期的には少なくとも年60万トンを目指すとしている。

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プロジェクトのうち最も進んでいる Cauchari-Olaroz は2022年の下半期に稼働する予定。Cauchari-Olaroz は膨大な資源量を持つアルゼンチンの塩湖プロジェクトで、フェーズ1では年4万トンの炭酸リチウムを生産する。ガンフォンはプロジェクトの46.67%と、パートナーであるリチウムアメリカズの約15%の株式を持っている。

Mariana はアルゼンチンの塩湖プロジェクト。すでに建設が始まっており、フェーズ1では年2万トンの塩化リチウムを生産する計画。Mariana の資源量は大きいもののグレードは低い。ガンフォンの持ち分は100%。

Sonora はメキシコのクレイプロジェクト。こちらも建設フェーズにある。資源量は大きく、フェーズ1では年5万トンの水酸化リチウムを生産する予定。会社によるとクレイは鉱石と塩湖の中間の性質を持ち、鉱石と同様のスピードでリチウムを抽出できる一方で塩湖のように低コストとのこと。ただし、現状でクレイからリチウム化合物を生産している会社は存在しない。また、メキシコでリチウム国有化の話が出ているのも問題。ガンフォンはプロジェクトの50%、パートナーであるバカノラの86.88%を持つ(買収オファーが継続中)。

Fengcheng はリチウム化合物のコンバージョンプラント。フェーズ1では年2.5万トンの水酸化リチウムを生産する。フェーズ2で年5万トンのキャパシティとなる。

 

上記以外の新たな投資としては、マリの Goulamina 鉱石プロジェクトの権益を50%取得している。Goulamina の概測・精測・予測資源量は108.5Mt@1.45%と、大型かつハイグレードな資源を持つプロジェクトとなる。すでにDFSは完了しており、2024年初めの生産開始を目指している。ステージ1のスポジュメン精鉱の生産量が年50.6万トン、ステージ2が年83.1万トンで21年以上のマインライフ。ガンフォンはオフテイク契約により生産物の50%、条件により100%を購入する権利を持つ。

 

投資先以外のオフテイク契約は、AVZと5年+オプション5年のスポジュメン精鉱16万トン、コアリチウムとスポジュメン精鉱7.5万トン以上を結んでいる。

AVZ の持つコンゴの Manono プロジェクトは、概測・精測・予測資源量401Mt@1.65%と世界最大規模。コアリチウムの持つオーストラリアの Finniss プロジェクトは、資源量が小さくマインライフ7年と短いが、今年末には生産を開始する予定となっている。

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2021年のキャッシュフローは、営業キャッシュフロー26.2億人民元、投資キャッシュフロー61.7億人民元だった。大規模な投資によってフリーキャッシュフローは4年連続で大幅なマイナスになっている。

バランスシートを見ると、有利子負債は63.6億人民元、キャッシュは63.3億人民元となっている。新株発行による資金調達によって財務は悪化していない。

 

株価は昨年秋に185香港ドルの高値をつけた後、ジリジリと値下がりしている。現在は110香港ドル前後。

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A株とH株を合計した時価総額はドル換算で約267億ドルとなる。アルベマールの254億ドルやSQMの245億ドルよりも大きい。

2021年末の3社の生産キャパシティは、ガンフォン約10万トン、アルベマール約9万トン、SQM約12万トンでそれほど大きな差はない。アルベマールとSQMは原材料からの完全垂直統合であること、リチウム以外のビジネスも抱えていることを考えると、ガンフォンの評価はかなり高い。

高評価の理由は、これまでの成長力の高さや新規プロジェクトへの積極的な投資かと思う。ただ、今後数年で見るとアルベマールやSQMもガンフォンに負けないスピードで生産能力を増加させる計画を出している。ガンフォンのみがずば抜けて評価が高くなる理由はないと思う。

 

バリュエーションは、2021年の調整EPSを使うと実績PER40倍程度になる。ただ、2021年の販売価格が現在のスポット価格を大きく下回っていることから、単純に割高と結論できない。

ガンフォンの販売価格をSQMやオールケム(Olaroz)と比べると、販売価格は2社を上回っているが、値動きはおおむね並行して動いている。業績を見ても、リチウム価格が落ち込んだ2019年はピークから8~9割減益になっていることから、アルベマールのような安定的な価格政策はとっていないのではないかと思う。今後の価格上昇に期待できそう。

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なお、会社は3月末に1~2月の業績をアナウンスしている。売上高36億人民元、調整純利益18億人民元。ちなみに前年4Qの業績は、売上高39.9億人民元、調整純利益17億人民元だった。

単純に1~2月の調整純利益を年換算すると108億人民元となり、2021年の31.5億人民元から3倍以上の増益となる。EPSは9香港ドルを超え、今期PERは11~12倍程度と割安感のある数字となる。

 

5713 住友金属鉱山

銅、金、ニッケルの開発や製錬、電子材料等の生産を行っている会社。

2021年度の統合報告書によると、銅権益生産量(2020年度の25万トン)は世界18位、ニッケルメタルの生産量は世界5位とのこと。

材料事業ではニッケル系のリチウムイオン電池の正極材(NCA、NMC、水酸化Ni)も生産している。ニッケルやコバルトといった原材料から正極材までを生産するEV関連銘柄となる。

 

年次ベースのセグメント損益(税引前利益)の推移は下のグラフの通り。

主要セグメントは、資源、精練、材料の3つだが、材料セグメントの重要性は低い。

資源セグメントでは銅と金を開発している。精練よりも利益が大きい年が多いが、ブレも大きく2015年~2016年は赤字を出している。今期はシエラゴルダの売却益が740億円計上される見込み。

精練セグメントはニッケルと銅がメイン。資源に比べるとブレが小さく毎年利益を出している。

住金はEV関連株ではあるものの、資源セグメントの重要性が高いため、基本的には銅の好不調が業績を左右している会社だと思う。

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〇資源セグメント

銅の主力鉱山は、モレンシー、セロベルデ、カンデラリア。

モレンシーとセロベルデの生産量は世界でもトップ5に入る。どちらもフリーポート・マクモランがパートナーで、住友金属鉱山はモレンシーの25%、セロベルデの16.8%の権益を持つ。

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フリーポート・マクモランの2021年の決算書によると、モレンシーの営業利益は14億ドル、セロベルテの営業利益は18億ドルとなっている。

2020年の営業利益はモレンシー6億ドル、セロベルテ5.5億ドルだった。

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2つの鉱山の埋蔵量と年間生産量も掲載されている。

両者を単純に比較すると、モレンシーは10年以上、セロベルタは20年以上も生産できる。モレンシーはやや短いが、資源量が埋蔵量の2倍近くあるので当面の間は問題なさそう。

ただし、どちらも品位は低下傾向とのこと。

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モレンシー、セロベルデに次いで生産量の大きかったシエラゴルダは今期中の売却が決定した。この鉱山は今期黒字化したものの、長らく損失を出し続けていた。

シエラゴルダ売却の一方で、テックリソーシズがチリで開発しているケブラダブランカの権益25%を取得している。こちらは2022年後半に生産開始の予定で、年間生産量24万トン、マインライフ28年となっている。埋蔵量は620万トンと巨大で、さらなるアップサイドも期待しているそうだ。

 

銅(権益分)の生産計画は下のグラフの通り。

シエラゴルダ売却のため中期的に生産量はそれほど増えないが、ケブラダブランカが期待通りの利益を出せば損益面では改善しそう。

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金は菱刈鉱山が年6万トン生産している。この記事によると、菱刈鉱山の品位は非常に高く、鉱山寿命も約30年あるそうだ。

新規の鉱山は、IAMGOLDの開発するカナダのコテ(住金の権益は28%)が2023年に生産開始する予定。年間生産量は約10トンでマインライフ18年。

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資源セグメントの今期利益は2,020億円という予想。

内訳は、シエラゴルダの売却益が740億、持分法投資利益が420億円(うちセロベルデ250億円、カンデラリア100億円、シエラゴルダ80億円)、本体連結のモレンシーは、フリーポートマクモランの2021年の営業利益14億ドルから計算すると400億円くらいになるのかなと思う。残りの400~500億円は分からない。金の利益も開示されていない。

 

〇精練セグメント

精練セグメントはニッケルと銅がメインのようだが、両者の割合やそれ以外の金属の比率は不明。この会社は金属別の業績も鉱山別の各種数字も出しておらず、重要情報の開示が少ないと思う。

 

銅は電気銅を年間45万トン生産している。世界の供給量2,500万トンの約1.6%とのこと。

 

ニッケルは、主に特殊鋼に用いられる電気ニッケル、電池材料の元となる硫酸ニッケル、ステンレス鋼の製造に使われるフェロニッケルを生産している。

年間生産量は、硫酸ニッケル8万トン未満、電気ニッケル5~6万トン、フェロニッケル1.3万トン程度。

過去数年の生産量を見ると、電気ニッケルとフェロニッケルは横ばいだが、硫酸ニッケルは増加している。

 

ニッケルのサプライチェーンは下の図の通り。

原材料はインドネシアの出資鉱山・製錬所から調達したニッケルマットと、フィリピンのコーラルベイ・タガニートHPAL(High Pressure Acid Leach、高圧硫酸浸出)で作ったニッケル・コバルト混合硫化物(MS)。

コーラルベイとタガニートのHPALは年間5万トン前後のMSを生産している。

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住金の特徴は、HPALによって電池材料にも使われるクラス1ニッケルを生産しているところだろう。

クラス1ニッケルの多くは硫化鉱から生産されるが、世界的にも大規模な硫化鉱の新規鉱山はほとんどない。低品位・大規模の硫化鉱資源は存在するが、採算を取るのに高いニッケル価格が必要になるため開発が進んでいない。

HPALは豊富に存在する酸化鉱からクラス1ニッケルを生産する方法。コーラルベイ・タガニートを含めていくつかのプロジェクトが稼働しているが、技術的な難易度が高く失敗したプロジェクトも多い(HPAL:Upping The Pressure)。

さらにHPALには環境問題もある。製造に伴って大量の尾鉱が発生するため、この処理が問題となる。

 

クラス1ニッケルはEVの普及に伴って需要が大きく伸びることが予想されている。この需要を満たすためにインドネシアで多数のHPALプロジェクトが計画されているが、難度の高さや環境問題からどれくらい実現するかは不明。

なお、住金もインドネシアのポラマで第3のHPALプロジェクトを計画している。年間生産量4万トン。現在はDFSを継続中だが、新型コロナウイルスの影響により遅れが生じている。

 

〇 材料セグメント

電池材料がセグメント売上高の半分を占めている。

会社の生産するニッケル系の正極材はパナソニック-テスラなどに供給されている。ニッケル系の正極材ではトップクラスのシェアとなるそうだ。

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最近では、採算性のある電池材料のリサイクル技術を発表したり、住友大阪セメントからリン酸鉄リチウム事業を買収したりとEV関連のニュースを出している。

EV電池、レアメタル再利用 住友鉱山が国内で安定確保

住友鉱山、EV電池材事業を買収

 

業績好調かつロシアのウクライナ侵攻によるニッケル価格の高騰(ロシアはクラス1ニッケルの供給量の2割を占めるそうだ)もあり株価は大きく値上がりしている。

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現在の時価総額は1兆9,159億円。

予想PERは7.3倍だが、シエラゴルダの売却益を除くと10倍程度になりそう。

今後の業績は資源価格次第だが、今年の後半にケブラダブランカ、来年にコテ金山が稼働するので、資源価格が変わらないという前提なら割高ではないと思う。

 

SQM ソシエダード・キミカ・イ・ミネラ・デ・チリ 2021年4Q決算

チリの化学メーカー。

チリ北部のアタカマ砂漠から採れるチリ硝石を使って硝酸ナトリウムやヨウ素を、アタカマ塩湖から炭酸リチウムや塩化カリウムを生産している。

硝酸ナトリウムと塩化カリウムから硝酸カリウムも生産しており、硝酸カリウムは肥料セグメントの主力製品となっている。

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セグメントはリチウム、特殊肥料、ヨウ素、カリウム、工業化学品(工業用の硝酸カリウムなど)の5つ。

会社によると2020年の世界シェアはリチウムが19%、特殊肥料(硝酸カリウム)が48%、ヨウ素が28%、工業化学品が73%とのこと。カリウムは1%以下。

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4Qは前年比で大幅な増収増益だった。3Q比で見ても急激に売上高と利益を伸ばした。

売上高 10.8億ドル(前年比+111%)

粗利益 5.4億ドル(前年比+310%)

税前利益 4.6億ドル(前年比+441%)

調整EBITDA 5.6億ドル(前年比+283%)

EPS 1.1ドル

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セグメント売上高の前年比は、特殊肥料+50%、ヨウ素+53%、リチウム+231%、カリウム+215%、工業化学品-29%。

3Q比で見てもリチウムやカリウムの売上高は2倍以上になっている。

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この会社はセグメントの純利益(Unallocated amountsの前の数字で粗利益に近い金額)の開示が遅く、いまのところ3Qまでの数字しか取得できない。多少のズレが出るが4Qの数字に粗利益を使ったのが下のグラフになる。

リチウムの伸びがものすごいが、肥料とカリウムも大幅増益となっている。

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各セグメントの4Qの販売価格と数量の前年比は下の表のとおり。

販売価格はすべてのセグメントで上がっており、特にリチウムとカリウムの値上がりが大きい。

販売数量も工業化学品を除いて増加している。

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次にセグメント別に見ていく。

特殊肥料セグメントの4Qの販売量は前年比+8%、販売価格は前年比+39%だった。販売価格はQonQでも783ドル/MTから940ドル/MTに大きく値上がりしている。

値上がりは主に硝酸カリウムの価格上昇による。材料のカリウムの値上がりが止まらず、過去10年以上で最も高い水準に達しているとのこと。

2022年の販売数量は前年並みだが、販売価格は前年より高くなるそうだ。

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年ベースの特殊肥料セグメントの販売数量と販売価格が下のグラフになる。

販売数量は緩やかに増加を続けている。販売価格は2012年をピークに値下がりが続いていたが、今年は大きく反発した。

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年ベースの業績が下のグラフ(2021年のセグメント利益には粗利益を使っている)。

長らく横ばいの業績が続いていたが、2021年は数量と値上がりにより過去13年で最高の業績になった。

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カリウムセグメントの販売価格は3Qから急上昇している。4Qは前年比で2.5倍になった。2022年も前年比で大きな値上がりを見込むそうだ。

販売数量は2020年の下半期から増加しており、2021年は前年比で+23%となっている。

ただ、足元で販売数量は増えているものの、アタカマでの生産をリチウムに最適化していることや、環境保護の観点から塩水の抽出を減らしていくため、カリウムの販売量は今後も減少していくとのこと。

 

カリウムセグメントの年ベースの販売数量と販売価格が下のグラフとなる。2018年から販売数量が大きく減っているのがわかる。

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販売数量の減少と販売価格の低迷によって業績は右肩下がりとなっていた。

2021年は価格上昇によって久々に大きな売上高と利益を計上した。

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ヨウ素セグメントの4Qの販売量は前年比+35%、販売価格は+13%だった。

ヨウ素の需要で最も大きいのがはレントゲンの造影剤となっている。新型コロナで需要が落ち込んだが、2021年はパンデミック前を上回るまで回復したそうだ。

販売価格は横ばいが続いていたが、4Qは3Q比で+11%の上昇となった。短期的に供給が増える見込みがないため、2022年も価格上昇が続くと会社は予想している。

生産能力は来年に1,000トン、2024年に2.500トン拡大させる計画。

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ヨウ素セグメントの年ベースの販売数量と販売価格が下のグラフになる。

数量、価格ともに大きく変動しているが、長期では横ばい傾向となっている。

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業績はおおむね販売価格に連動しているように見える。2022年も価格上昇を見込んでいるので、業績の拡大が続きそう。

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リチウムセグメントの4Qの販売量は前年比+21%、販売価格が+174%だった。

販売量も増えているが、4Qは価格の値上がりが目立つ。昨年の契約が切れたことで3Qの8,400ドルから4Qの14,600ドル/トンまで急上昇している。2022年の上半期の販売価格も4Qと比べてかなり高くなるそうだ。

販売契約は、20%が固定価格またはフロアと天井のある変動価格、50%がベンチマークに連動する変動価格、30%が未定とのこと。

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やや長期のリチウムの販売数量と販売価格の推移が下のグラフになる。

SQMはリチウム市場が低迷していた時期にも投資の手を緩めなかったことで、2020年下半期には競合他社に先駆けて生産量を増加させている。

販売価格は短期の契約が多いため変動が大きいが、現在のような価格上昇期には業績が大幅に伸びる構造になっている。

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リチウムセグメントの年ベースの販売数量と販売価格が下のグラフになる。

2021年の販売数量は10.1万トンで、前年の6.5万トンから大幅に増加した。ここ2年で生産能力を大幅に拡大したのがわかる。

販売価格は上半期が低かったためまだピークのはるか下だが、今年は大幅な上昇が期待できる。

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生産能力の拡大は続いており、2022年の上半期には炭酸リチウム18万トン、水酸化リチウム3万トンになる予定。さらに炭酸リチウムと水酸化リチウムの生産能力をそれぞれ21万トン、4万トンに引き上げるアナウンスがあった。

2022年の販売数量は14万トンというガイダンスがされている。2023年は少なくとも18万トンに加えて、拡張による追加生産もあり19万トン~20万トンも期待できるとのこと。

オーストラリアの Mt Holland も最終投資決定がされた。水酸化リチウムプラントは Kwinana に建設される。2024年後半に製品出荷という計画。

 

リチウムセグメントの年ベースの業績が下のグラフ。

売上高は過去最高を更新しているが、利益は前回のピーク程度にとどまっている。しかし、今年の販売量は2018年の約3倍に増えており、スポット価格は以前のピークをはるかに超えているため、今後の業績は大幅に伸びると思う。

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バランスシートを見ると、現預金15億ドルに対して、短期有利子負債が0.5億ドル、長期有利子負債が26億ドルとなっている。

4Q単独で3.2億ドルの純利益を出していることから財務的にはまったく問題なさそう。

 

設備投資は今年9億ドルを見込んでいる。

前回までのガイダンスでは2021年から2024年にかけて総額20億ドルの設備投資(リチウムが11億ドル、硝酸塩とヨウ素の拡張が4.4億ドル、残りがメンテナンス投資)を行うと計画だったが、さらに2.5億ドルの追加投資が発表された(炭酸リチウム21万トン・水酸化リチウム4万トンへの拡張)。

 

決算は素晴らしい内容で、かつ今後の見通しも良かったため、株価は11.6%上げた。現在の時価総額は210億ドルで、アルベマールの218億ドルとほぼ同水準となっている。

YahooFinanceの予想EPS3.74ドルを使うと2022年の予想PERは20倍となる。他のリチウム銘柄と違って常識的な数字。

ただ、4Q単体のEPSは1.1ドルもあるので、実際には大幅に上振れると思う。

リチウムセグメントは、2018年の販売量4.5万トン・販売価格16,300ドル/トン・純利益4.2億ドルを基準にすると、販売価格がどこまで上がるかによるものの純利益20億ドルを超えてもおかしくない気がする。

その他のセグメントの過去の平均は4億ドル程度だが、特殊肥料、ヨウ素、カリウムの好況から好調時の6億ドルくらいは出そうに思える。

ここから全社費用3.5億ドル(2020年)を引いて計算するとPERは10倍前後になる。業績モメンタムとバリュエーションの点で他社よりもかなり魅力的だと思う。

 

ただし、SQMにはカントリーリスクという問題がある。

チリで勝利した左派の大統領は、国営のリチウム会社設立や銅のロイヤルティ引き上げを訴えている。

SQMのリース契約は2030年まで残っており、何年か前に改訂したロイヤルティ契約も炭酸リチウムの販売価格が10,000ドル以上で40%まで上がるという内容になっている。

アルベマールの言うように既存の契約に影響がないというのが楽観的なケースだが、国有化はないまでも何らかの税金引き上げはあるかもしれない。

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9214 Recovery International

今年の2月に新規上場した訪問看護サービスの会社。

訪問看護とは、看護師などが病気や障害を持った人の自宅等を訪問し、医師の指示に基づいた看護を行うサービス。

訪問看護の現状とこれから2021年版という資料によると、利用者の疾患は脳血管疾患が15.4%で最も多く、次いで筋肉骨格系が9.0%、認知症(アルツハイマー病含む)が8.6%、悪性新生物が8.3%と続いている。

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提供するサービスは、病状観察、療養指導、リハビリなどが上位になっている。

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訪問看護の利用者は、医療保険や介護保険を使用できる。

リカバリーインターナショナルの場合、サービス種別の割合は介護保険が約6割、医療保険が約4割となっている。

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高齢化の進捗、医療費抑制のための病床削減、住み慣れた場所に住み続けたり自宅で死を迎えたいといったニーズを背景にして市場規模は拡大している。

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市場の拡大とともに事業所数も過去10年で約2倍になっている。しかし、訪問看護の経営は厳しく、年間新設数の半数は廃業に追い込まれるそうだ。

経営上の大きな問題として人材と利用者の確保が挙げられている。

まず看護師は慢性的な人手不足の状況にある。さらに看護師の約8割は病院やクリニックで働いており、訪問看護を働く先と考えている看護師は少数派とのことだ。

また、看護師は売り手市場であるため、就業環境が悪ければすぐに他のところへ転職してしまう。看護師の退職は特に小規模な事業者で問題になる。

利用者は病院やケアマネジャーからの紹介が大半を占める。よって利用者を獲得するには、ケアマネージャーや病院への訪問営業が基本になるそうだ。頻繁に訪問することで認知度を上げ、信頼関係を築く必要がある。

訪問看護ステーション経営の話は下のような記事に書かれている。

訪問看護で高収益を生む「サテライト」の手法:日経メディカル

年間700カ所が休廃業となる訪問看護業界で、拠点を拡大し続けている2つの理由 - Hello News

 

訪問看護業界の大手には、エヌフィールド213拠点(精神疾患に特化)、セントケア96拠点、エムスリー傘下のソフィア67拠点、ニチイ学館64拠点などがいるようだ。大手でもそれほど事業所が多くないように見える。

現状で事業所の過半を占めるのは小規模事業者となっている。しかし、以下のような理由で規模の拡大が重要になるようだ。

・1拠点あたり看護師の最低人数(常勤換算2.5人)がある。

・看護師が辞めたときにカバーできる体制が必要。

・事務作業などの固定費の負担。

・在宅での看取りや重度化に対応できるステーションがより求められる。

・24時間365日体制の可否。

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日本の訪問看護のしくみという資料によると、平均的な収益構造は下の図のようになっている。

1訪問看護ステーション当たりの従事者は7人程度(うち看護職員が5人程度)で、利用者数は約70人、1利用者当たり月に6~8回程度の訪問看護、1 回の訪問看護に係る費用が7,500~11,000円とのことだ。

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リカバリーインターナショナルの場合は業界の平均より多い人員数を基本としており、1拠点につき看護師6名、理学療法士などのリハビリ職5名の11名体制となっている。

会社資料によると、1人当たりの訪問件数は月96回で4年前の82回から右肩上がりに伸びている。上のモデルだと1人当たりの訪問件数は月71回になるので平均を大きく超えているようだ。

その他の特徴としては、東京都西部へのドミナント出店、IT化の推進、未経験者の早期育成プログラム、専門部署を置かない営業などを挙げている。

ITの活用では、利用者情報や事務作業のクラウド化により1名の利用者を複数の看護師で対応できる体制を構築したり(通常は1人1名とのこと)、事務作業の本社一括管理を行なっている。

営業に関しては、看護師が自らケアマネージャーや医療機関とコミュニケーションをとるそうだ。この点は看護師の負担が大きそうであまり利点に聞こえないが。

 

会社の収益構造は下のグラフの通り。

訪問介護と比べると1件当たりの売上高が大きく粗利益が多い。コストに関しては人件費が過半を占めている。営業利益率は13%と介護事業者と比べて高い。

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事業モデルが軌道に乗ったことから、2021年には積極的な出店に転じている。前期4拠点、今期も4拠点、来期は7拠点の新規開設を計画している。

なお、このレポートによると、新規拠点の黒字化には8~10か月かかるそうだが、ドミナントであれば1~2か月で黒字化するとのこと。

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2021年12月期の実績は、売上高+47%の増収、経常利益+619%の増益だった。経常利益率は13.2%に大きく改善した。

今期の予想は、売上高+35%、経常利益+30%の予想。

再来期も売上高+40%、営業利益+57%と高成長を計画している。

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バランスシートは、現預金2億円、売上債権2.2億円。固定資産は0.2億円と小さい。事務所と人材を揃えれば開業できるため。

短期借入0.26億円、長期借入0.4億円。総負債2.4億円。バランスシートは健全。

 

今期の予想PERは16.4倍。成長率と比較すると割安に見える。

市場も成長しており、小規模の競合に比べると競争優位もありそう。

ただ、会社が拡大路線に転じてから1年しか経っておらず、想定通りに規模を拡大できるかまだ不明だと思う。

あとは実績の経常利益率が13%と高いので、利益率の改善はあまり期待できなさそう。