SQM ソシエダード・キミカ・イ・ミネラ・デ・チリ 2021年1Q決算

チリの化学メーカー。

チリ北部のアタカマ砂漠から採れるチリ硝石を使って硝酸ナトリウムやヨウ素を、アタカマ湖からリチウムやカリウムを生産している。

硝酸ナトリウムと塩化カリウムから硝酸カリウムも生産している。硝酸カリウムは特殊肥料セグメントの主力製品。

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セグメントはリチウム、特殊肥料、ヨウ素、カリウム、工業化学品(集光型太陽熱発電向けの硝酸塩)の5つ。

2019年の世界シェアはリチウムが15%、特殊肥料が51%、ヨウ素が25%、工業化学品が41%と高い。カリウムは1%以下。

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1Qは前年比で増収増益だった。

売上高 528Mドル(前年比+35%)

粗利益 136Mドル(前年比+27%)

税引き前利益 95Mドル(前年比+45%)

調整EBITDA 230Mドル(前年比+25%)

EPS 0.26ドル

 

売上高と純利益は新型コロナ前の水準に戻っている。前年4Q比だと増収だが利益は横ばいとなる。

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セグメントの売上高。

特殊肥料は順調に回復している。肥料市場は需要が増加しており、今年の販売数量は前年比+10~15%になるとのこと。

ヨウ素は前年比ではマイナスだが、前年4Q比では大きく伸びた。今年の需要は9%回復するものの2019年の需要を下回る。ただ、来年も堅調な回復が見込まれるそうだ。

リチウムは前年比で2倍と大幅な増収だが、前年4Q比では微減だった。今年のリチウム需要は前年比+30%増加すると予想している。

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セグメント利益。

特殊肥料、ヨウ素、リチウムの主要3セグメントは前年4Q比で増益になった。

全体で見ると新型コロナの影響から順調に回復しているが、2017年・2018年のピークは大きく下回っている。リチウムセグメントの利益が半減しているのが原因。

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リチウムの販売数量と平均販売価格は下のグラフの通り。

チリのキャパシティが70Ktになったことで販売数量が大きく増加している。今年の販売量は少なくとも85Ktになるそうだ。

販売価格は依然として低迷しているものの4Q比では上昇に転じた。1Qの販売価格は前年に合意済みのものが大半だったが、下半期は販売の半分以上が現在の価格を反映することになるそうだ。販売価格は年間を通じ上昇し続けると予想している。

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チリの拡張は順調に進んでおり、今年末までに120Ktの炭酸リチウムと21.5Ktの水酸化リチウムに達する予定。さらに2022年末までに炭酸リチウム180Kt、水酸化リチウム30Ktにキャパシティを増やす。

生産量のターゲットは今年90~95Kt、来年は140Ktとのこと。

 

決算は良かった。しかし、チリの制憲議会選で与党が大敗したというニュースを受けて株価は55ドルから41ドルまで急落した。現在はやや戻して45.7ドル。

YahooFinanceのコンセンサスEPSは今年1.27ドル、来年1.79ドルとなっている。リチウム価格の急騰やキャパシティの大幅積み増しを考えると手ごろなバリュエーションになっていると思う。

 

SQMの問題はカントリーリスクになりそう。

チリでは銅やリチウムのロイヤリティ引き上げが議論されており、この法案がかなり厳しい内容になっているようだ。

チリ共和国、国会審議中の新鉱業ロイヤルティ法案|JOGMEC金属資源情報

2021 年 5 月 6 日、下院本会議において新鉱業ロイヤルティ法案が可決された。当初の法案は、 年産 12 千 t の銅もしくは 50 千 t の炭酸リチウムを生産する企業には生産鉱物価値に対して 3%の 新しい税を導入するという案であったが、2021 年 3 月に国会審議が再開され審議が進む過程で、 銅価格の高騰、新型コロナウイルス(以下、コロナ)対策の財源確保、憲法改正や大統領選挙等 の様々な要因が重なる中で法案の修正が行われた。そして、銅については LME 価格に応じて変動 する累進課税(限界税率 75%)が修正案として可決される事態となった。実効税率は現在の 40.3%から 82%に達すると報道されており、これはほとんど「収用」だと非難している関係者も いる。法案は今後上院で審議されるが、チリは世界の銅生産の 28%を占め、多くの日本企業もチリの銅鉱山に投資していることから、本法案の行方に多大な影響を受けることが予想される。

 

今回の制憲議会選で与党が拒否権(議席の1/3)すら確保できなかったことで、チリのカントリーリスクが改めて意識されている。

SQMはオーストラリアに開発中の鉱山を持っているものの、現在のリチウム生産はチリに集中しているため他社に比べて厳しい状況となる。

 

ALB アルベマール 2021年1Q決算

リチウム、臭素、触媒を生産する化学メーカー。

リチウムは最大手の一角。チリのアタカマ湖とオーストラリアのグリーンブッシュ鉱山(持分49%)を持つ。両者は資源量と品位の点でかん水と鉱石でベストの資産とされる。その他にもオーストラリアのウォジナ鉱山を持つ(持分60%、休鉱中)。

臭素は難燃剤が主な用途。他にもエレクトロニクス、自動車、建設、アプライアンスなど幅広い産業に使用される。GDP比例のビジネス。

触媒はガソリンなどの精製やディーゼルや石油原料の汚染物質を取り除くのに使われる。新型コロナによる移動制限が逆風になっている。

 

1Qは前年比で増収増益。リチウムと臭素が好調。為替の追い風もあった。

売上高 829Mドル(前年比+12%)

営業利益 155Mドル(前年比+26%)

調整EBITDA 230Mドル(前年比+17%)

調整EPS 1.1ドル

 

良い決算だったが通期のガイダンスは変更なし。

リチウムと臭素は需要増加に対応する商品がないため、2Q以降に1Qと同じ勢いが続くとは考えていないとのこと。

 

セグメント別に見ると、リチウムは前年比で売上高+18%(数量+28%、価格-10%)、調整EBITDA+35%の増収増益だった。1Qの業績は想定よりも良かったそうだ。

四半期の売上高と調整EBITDAは下のグラフの通り。2018年からのリチウム市場の低迷を受けてリチウム部門の業績も横ばいが続いている。

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2021年の調整EBITDAは前年比で1ケタ台後半の増加になる見通し。

販売数量は北アメリカのプラント再稼働もあり増加する。一方で価格は2Q以降に上昇していくものの、通期で見ると前年比で横ばいにとどまるとのこと。

なお、カンファレンスコールで今後の契約形態についてコメントがあった。

昨年アルベマールは固定価格の譲歩を行ったが、契約は価格変動リスクを増やしたメカニズムになっており上昇するマーケットで利益を得ることができる。この契約は今年中に失効するが、今後の契約でも価格上昇を見込んで市場へのエクスポージャーを増やすのを基本にするそうだ。

 

拡張計画のWave2は順調に進展。今年の後半には La Negra III&IV と Kemerton I&II が完成することでキャパシティが175Ktになる。両者は2022年から業績に貢献する。最初の12か月は40~50%程度の生産と考えるのが妥当とのこと。

さらに早ければ今年の夏にWave3の最初のプロジェクトの投資決定を行う。Wave3はキャパシティ150Ktで中国での新規投資もしくは中国コンバーターの買収を含む。

 

臭素セグメントは前年比で売上高+21%、調整EBITDA+14%の増収増益。

2021年の見通しは調整EBITDA1桁後半のプラスで変更なし。

臭素セグメントの四半期業績は下の通り。安定しており収益力も高い。

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触媒セグメントは前年比で売上高+6%の増収、調整EBITDA-46%の減益だった。気候や前年の利益調整の影響があるものの業績は予想より悪かったそうだ。

2021年は30~40%のマイナスとなりリチウムのプラスを相殺する見込み。パンデミック前の業績に戻るのは2022年末か2023年になるとのこと。

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他には、その他セグメントに入っていたファイン・ケミストリー・サービスを570Mドルで売却することを発表した。その他セグメントは前年76Mドル、前前年に41Mドルの純益を出している。

 

アルベマールの現在の株価は162ドル。

今期の調整希薄化EPS3.25~3.65ドルはもちろん業績ピークの2018年の5.5ドルと比べても割高感がある。今後のリチウムセグメントの伸びがかなり織り込まれていそう。

 

LTHM ライベント 2021年1Q決算

アルゼンチンのオンブレ・ムエルト湖からリチウム化合物を生産している会社。

会社によると炭酸リチウムの生産コストは下位1/4、水酸化リチウムの生産コストは下位1/2に入るそうだ。戦略的に水酸化リチウムに注力している。

 

1Qは前年比で売上高+34%増収、営業利益5.7Mドル→1.7Mドル、調整EBITDA16Mドル→11.1Mドルだった。

前年比では減収減益だが四半期で見ると業績は改善しており、売上高は3四半期連続の増収、営業利益は黒字転換した。

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売上高が増えたのは販売数量の増加が原因。

一方で価格はわずかに低下した。スポット市場ではリチウム価格が急騰しているが、ライベントは主に年間ベースの契約のため影響は限定的となる。

なお、月次、四半期ごとに価格調整される数量も多少あり、その影響は2Q以降に出てくるそうだ(価格調整の影響は市場価格に遅れる)。

 

通期のガイダンスは売上高335~365Mドル、調整EBITDA40~60Mドルで変更なし。ただしレンジの上方で着地することが見込まれるとのこと。

 

2021年のCAPEXは125Mドル。2022年の資本支出はさらに高くなるそうだ。

2021年の調整後の営業キャッシュフローは45~60Mを見込んでいる。キャッシュ21.5Mドルに対して有利子負債は300Mドル程度。

ライベントの財務には余力がないため資金調達が必要になりそう。経営陣はさまざまなオプションがあると言っている。

 

今回の決算で良かったのは拡張計画の再開がアナウンスされたとこだろう。

2023年1Qに10Kt、2023年4Qに10Ktの炭酸リチウムのキャパシティがアルゼンチンに追加される。さらに長期的には60Ktまで拡張する計画。現在の20Ktに比べて3倍の規模となる。

ベッセマー・シティ(アメリカ・ノースカロライナ)の水酸化リチウムは2022年3Qに5Ktがプラスされる。

2023年にはフェーズ1の10Ktとベッセマー・シティの大部分が反映されるとのこと。

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決算は微妙な数字が続くが、今後の見通しは明るくなりそうと感じた。

2Q以降は量は多くないが市場価格に連動する数量の影響が出てくるようだし、2022年は多くの数量の価格が改定される。計画通りに進めば2023年と2024年は数量増加が期待できる。

ただし、増資の可能性は高いし、2018年の好調時のEPS0.99ドルで見てもPERが割安なわけではない。

 

01772.HK ガンフォンリチウム 2020年4Q決算

中国のリチウム大手。川上のリチウム資源開発から川下のバッテリー製造やリサイクルまで手掛けている。中国では天斉リチウムと並ぶ2強。深セン(002460)と香港(01772)に上場している。

 

4Q単体は前年比で売上高+49%の増収、純利益27M人民元→695M人民元の大幅増益だった。大幅増益の原因は金融資産の評価益が計上されたため。

四半期の売上高と純利益の推移は下のグラフのとおり。売上高は4四半期連続で増加している。

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年間ベースの売上高、粗利益、純利益の推移。

2020年は売上高が+5%の増収、粗利益が-6%の減益だった。純利益は金融資産の評価益526M人民元が計上されたため大幅増益となった。

なお、中間決算の時点では売上高-15%、粗利益-35%だったので下半期にかなり巻き返している。

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セグメントの売上高はリチウム化合物&メタルが3,853M人民元で前年比-7%の減収、リチウムバッテリーが1,267M人民元で+110%の増収だった。

粗利益は、リチウム化合物&メタルが888M人民元で前年比-19%の減益、リチウムバッテリーが205M人民元で前年比+163%の増益。

リチウム市場の低迷でリチウム化合物&メタルが不調だった一方でバッテリービジネスは好調だった様子。

バッテリーは、コンシューマーバッテリー、TWSバッテリー(ワイヤレスイヤホンのバッテリーみたい)、パワー/エナジーストレージ、全個体電池などを手掛けているとのこと。製品ごとの内訳などは開示されていないのでイメージがつかみづらい。

また、会社はリチウムイオンバッテリーのリサイクルビジネスにも力を入れており、2020年は34,000トンの処理能力を達成したそうだ。将来的には100,000トンの処理能力を目指すとしている。このレポートによると欧州でリサイクルトップの Umicore の処理能力が7,000トンとのことなのでかなりの規模に思える。ただ、売上高などの開示がないのでこちらも詳細はよく分からない。

 

リチウム市場についてはいくつかリサーチレポートの数字を挙げている。

・2020年の需要は369Kt(以下特に断りがなければ単位はLCE)。2019年の309Ktより増加。

・2020年の水酸化リチウムの需要は123Ktでうちバッテリーが98.8ktを占める。2025年には575Ktとなり、2020~2025年は年率36.35%の成長率となる予想。

・鉱石の生産量は2015年の61Ktから2020年は210Ktに増加。

・塩湖の生産量は2015年の97Ktから2020年は184Ktに増加。

・水酸化リチウムの生産量はアルベマールとガンフォンで半分を占めている。キャパシティではガンフォンがトップ。

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・中国のEV販売台数は136.6万台で前年比+7.5%。全体の自動車販売台数は前年比-1.8%。EVのマーケットシェアは5.4%。2021年の販売台数は184.2~218.5万台を予想する。

・新エネ社への補助金は2020年で全廃の予定だったが2022年まで延長された。

・中国のスポット価格は炭酸リチウムが9月に水酸化リチウムが12月に底打ちした。現在は炭酸リチウム価格が水酸化リチウムの価格を上回っている。

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・国際価格は比較的安定している。下のグラフはアジアでの価格。なお、グラフの炭酸リチウムと水酸化リチウムの価格は逆になっていると思われる。国際価格は水酸化リチウムの方が炭酸リチウムよりも高い。

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会社の基礎化学材料(Basic chemical materials)の生産量は前年比でほぼ変わらずの54.3Kt(炭酸リチウム換算)だった。

販売量は前年の48.4Ktから63Ktに増加した。生産量以上の販売によって在庫は14.6Ktから5.9Ktに減っている。

平均販売価格は上半期70,850RMB/トン、下半期54,940RMB/トン。前年比で22.5%の下落。

Fastmarket によると直近の中国国内バッテリーグレードのリチウム化合物の価格は、炭酸リチウムが85,000-90,000RMB/トン、水酸化リチウムが70,000-75,000RMB/トンとなっている。

 

グループの設計キャパシティ(Designed capacity)は Xinyu の拡張により50Kt増加した。

2025年までに鉱石から100Kt・かん水とクレイから100Ktを達成し、将来的に600Ktを目指すとのこと。

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※水酸化リチウム、リチウムメタルはLCE換算していない。 

 

実効生産キャパシティ(effective production capacity)は炭酸リチウムが横ばい、水酸化リチウムが24Ktから31Ktへ増加した。

ガンフォンの生産能力は右肩上がりに増えており非常に順調に見える。

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製品ごとの生産量は開示がなくなってしまった。代わりに生産設備の稼働率が開示されている。

参考までに実効生産キャパシティに稼働率をかけた数字で代用したのが下のグラフとなる。水酸化リチウムが増えた一方で炭酸リチウムが減少したようだ。

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ガンフォンの持つ川上の資源マップ。

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現在の主力は50%の権益を持つマウントマリオンで年間400Kt(≒50Kt LCE)のスポジュメン精鉱を生産している。ガンフォンはこのうち半分程度を購入する権利を持つ。

鉱石では同じくオーストラリアの鉱山を持つピルバラの6%弱の株式を持つ。フェーズ1では160Ktまでのスポジュメン精鉱を購入する契約。

かん水資産は2022年1Hに生産開始する予定のカウチャリ・オラロスの51%を持つ(+リチウム・アメリカズの約15%)。年間生産量は40Ktの計画で生産量の76%を購入する権利を持つ。

その他にはメキシコのソノラ・プロジェクトの規模が大きそう。ガンフォンはプロジェクトの50%とバカノラ・リチウムの約3割を持つ。ただし、資源量は大きいものの現在クレイからリチウム化合物を生産している会社は存在しない。

上で書いたようにガンフォンはキャパシティを順調に拡大させている。設計キャパシティは炭酸リチウム40.5Kt、水酸化リチウム81Ktに達している。一方でマウントマリオンとピルガングーラ(ステージ1)の持ち分はフル生産でも50Kt LCE に満たない量にすぎない。ガンフォンはアルチュラやAVZらともオフテイク契約を持っているが、これらの生産が順調にいかない場合は原材料が不足気味になりそう。

 

キャッシュフローは営業キャッシュフローが746M人民元、投資キャッシュフローが3,955M人民元。フリーキャッシュフローは3年連続で大幅なマイナスとなった。

結果として有利子負債(転換社債を含む)は前年の4,187M人民元から6,102人民元まで増加した。一方で流動資産のキャッシュは2,175M人民元となっている。

2017年には2,095M人民元の純利益を出しているので業績が回復すれば大きい負債とは言えないかもしれないが、業績が低迷したままこの規模の投資を続けるのは厳しいのではないかと思う。

 

株価は今年の2月に150HKドル近い高値を付けた後に現在は94.9HKドルまで下げている。

業績低迷によってバリュエーションは見積もるのが難しい。

好調時のEPSは2017年が1.89人民元、2018年が1.17人民元だったが、2018年と比べて水酸化リチウムの実効生産キャパシティは約2倍に増加している。ただ、仮に好調時のEPSを2倍してもPERは30倍くらいになりそうなのでガンフォンはかなり高く評価されていると思う。

他社と比較するとガンフォンの時価総額18.5Bドルに対して、アルベマール17Bドル、SQM14Bドルとなっている。アルベマールやSQMはリチウム以外のセグメントの利益が大きいので、リチウムに限るとガンフォンの時価総額が際立って大きい。

 

NLC.V ネオリチウム

カナダ上場のリチウムジュニア。

アルゼンチンに位置する3Qプロジェクトを持つ。

 

3Qはリチウムトライアングルと呼ばれる地域にある。

周囲には、アタカマ、オンブレ・ムエルト、オラロス、カウチャリ-オラロスといったリチウム大手のプロジェクトが点在している。

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3Qの資源量は、精測・概則が4mt、予測が3mt。かん水では世界5位とのこと。

かん水は基本的に資源量が大きいので上位であれば細かい順位を気にする必要はないと思う。

グレードは最初の10年が1,000mg/l、鉱山寿命の35年の平均が790mg/l。

会社によると3Qのグレードは世界でも3番目に高いそうだ。すでに生産を開始しているプロジェクトと比べると、アタカマには及ばないもののオンブレ・ムエルトやオラロスよりも高い値となる。

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マグネシウムなどの不純物も低く低コストでの生産が可能になるという。

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プロジェクトは2019年にPFSを完了しており、現在はDFSステージにある。DFSの結果は2021年3Qに出る予定。

PFSの数字は以下の通り。

年間20Ktの生産量で35年の寿命。生産コスト2,914ドル/トン、CAPEX319Mドル。リチウムの平均販売価格は11,882ドル/トンという前提。

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なお、パイロットプラントはすでに2年の生産実績があり、バッテリーグレードを達成しているそうだ。

 

ネオリチウムの売りは3Qのグレードの高さとCATLからの出資という2点かと思う。

グレードについては上で書いたとおり。ただ、専門的な話なだけにグレードの高さがどこまで品質やコストに影響するのかはよく分からなかった。

CATLからは2020年9月にC8.5Mドル(一株C0.84ドル)持ち分にして8%の直接出資を受けている。2月にはC30Mドルの資金調達に合わせて持ち分を保つための追加出資を受けた。

CATLとの関係により今後の販売先やファイナンスにある程度めどが立っているのがネオリチウムの一番の強みだと思う。

 

株価はC2.99ドル、時価総額はC382Mドル(≒313Mドル)。 

現在生産中・生産間近のかん水の銘柄の時価総額は、ライベント2.65Bドル、オロコブレA1.38Mドル(≒1Bドル)、リチウムアメリカズ1.93Bドルとなっている。

ネオリチウムの時価総額は低いが、今後の資金調達やパートナー獲得によって希薄化が予想されるため、いったいどれくらいの時価総額が適当なのか判断するのは難しい。

また、ジュニアだけにリスクも非常に大きい。プロジェクトが生産に至らなければ株価は大きく下げる。ネオリチウムも前回のブームで株価がC2.75ドルまで高騰したが、その後のリチウム市場の低迷により底値C0.38ドルまで下げている。

今回はすでにかなり上げているだけに投資対象としてのうまみは減っているが、かん水系のリチウムジュニアとしては有望な銘柄ではある。

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SQM ソシエダード・キミカ・イ・ミネラ・デ・チリ 2020年4Q決算

チリの化学メーカー。

チリ北部のアタカマ砂漠から採れるチリ硝石を使って硝酸ナトリウムやヨウ素を、アタカマ湖からリチウムやカリウムを生産している。

硝酸ナトリウムと塩化カリウムから硝酸カリウムも生産している。硝酸カリウムは特殊肥料セグメントの主力製品。

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セグメントはリチウム、特殊肥料、ヨウ素、カリウム、工業化学品(集光型太陽熱発電向けの硝酸塩)の5つ。

2019年の世界シェアはリチウムが15%、特殊肥料が51%、ヨウ素が25%、工業化学品が41%と高い。カリウムは1%以下。

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4Qは前年比で売上高+9%の増収、調整EBITDA-7%の減益、純利益±0だった。

セグメント売上高は、特殊肥料が前年比+4%、ヨウ素が-23%、リチウムが+37%、工業化学品が+41%、カリウムが+6%となっている。

落ち込みの大きいヨウ素は新型コロナの影響で市場の需要が減少したため。ヨウ素の最大の用途はレントゲン造影剤で2割以上を占めている。需要の落ち込みは新型コロナの影響が薄れるとともに回復するとのこと。

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リチウムの増収は生産キャパシティの拡張によって販売数量が増加したため。4Qの販売数量は25.8Ktと大幅に伸びて2020年の通期では64.6Ktとなった。

足元では月産7Ktを達成しており2021年の生産と販売は80Ktを超えそうとのこと。

数量増加の一方で平均販売価格は低迷している。2021年の販売価格は上昇するものの大幅な値上げは見込んでいないそうだ。

なお、この記事によると中国内のバッテリーグレード炭酸リチウムのスポット価格は今年に入って+68%上昇している。SQMは主力製品が炭酸リチウム、中国での販売が多い(2Qでは1/3を占めると言っていた)、短期契約が大きいということから恩恵を受ける銘柄となる。

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セグメント利益(管理費・利払い費用・税金前の利益)の推移。

前年比では特殊肥料が+5%、ヨウ素が+12%、リチウムが-18%、工業化学品が-24%、カリウムが-14%となった。

ヨウ素は売上高が減ったものの高水準の利益を維持している。リチウムは前年比では減益だが、四半期比では大幅増益となった。

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通期の決算が出たので年間ベースの業績推移も見てみる。

長期で見るとSQMの売上高は伸びておらず純利益もやや低迷している。

赤字の年がなく、リーマンショックでも十分な黒字を確保しているのはプラス点に思える。

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続いてセグメントごとに見てみる。

特殊肥料の業績は多少の波はあるがおおむね横ばいで安定している。利益率(SQMのセグメント純利益は管理費・利払い費用・税金前の利益)は20~30%。

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販売数量はやるやかに増加しているものの、平均販売価格がゆるやかに低下している。

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ヨウ素の業績はぶれが大きい。

セグメント利益率は最高で63%、2020年も50%とかなりの高収益事業となっている。

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販売価格は変動が大きく業績がぶれる原因になっている。販売数量もやや波がある。

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リチウムは2016年~2018年のブーム時に大幅に業績を伸ばした。しかし、その後の価格下落で2019年と2020年は大幅な減収減益となった。

利益率は2017年の71%をピークに2020年は22%まで落ちている。

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販売数量は長らく40Kt前後で推移していたが、70Ktへの拡張が完了したことで2020年は大幅増加となった。

会社は炭酸リチウムの生産キャパシティを2021年末に120Kt、2023年末に180Ktまで拡張するとアナウンスしている。

さらにオーストラリアの Mt Holland への投資も最終決定された。年間50Ktのバッテリーグレードの水酸化リチウムを生産する計画。2024年下半期に生産開始の目標。

平均販売価格は2018年の16.3ドル/トンをピークに2020年は5.9ドルまで落ち込んでいる。

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カリウムの業績は右肩下がり。

アタカマ湖での生産をリチウムに最適化したことでカリウムの生産量が減っているそうだ。

また、環境保護の点から塩水の抽出を減らしていくという話もしており(それでもリチウムは生産量を増やせると言っている)この事業の成長は見込めなさそう。

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販売数量はピークから半減している。

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工業化学品は集光型太陽光発電のエネルギー貯蔵に利用するソーラーソルト(硝酸ナトリウムと硝酸カリウムの混合物)を作っている。

集光型太陽光発電システムについては日経新聞の記事が分かりやすかった。

太陽熱発電の商業運転、欧米で続々始まる: 日本経済新聞

面白そうな事業ではあるが、業績へのインパクトはリチウム、特殊肥料、ヨウ素の主要3事業に比べると低い。

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各セグメント売上高を積み上げたのが下のグラフとなる。

2011年~2012年ごろは特殊肥料、ヨウ素、カリウムが好調だったことが分かる。

その後はヨウ素とカリウムが落ち込むものの2016年~2018年にかけてリチウムが伸びることで再び増収基調となった。

2019年と2020年はヨウ素がやや戻したがリチウムの大幅な落ち込みをカバーしきれず減収になっている。

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セグメント利益の積み上げグラフ。

2012年と2020年を比べるとヨウ素とカリウムの落ち込みが大きい。リチウムは好調時の2016年~2018年にセグメント利益の半分以上を占めていた。

特殊肥料とヨウ素はゆるやかな数量の増加もあるが劇的な成長は見込めなさそう。カリウムはじり貧。というわけで今後の業績はリチウム次第ということになりそう。

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SQMの実力だが、過去の業績を見るかぎり特殊肥料とヨウ素は合わせて300Mドル程度の利益は出せそうに見える。カリウムと工業化学品は100Mドル未満といったレベル。

リチウムは2016年の平均販売価格10.4ドル/トン(適度な価格)の業績が参考になるのかなと思う。現在はキャパシティが約1.5倍に増加したので同条件であれば500Mドル程度が見込める計算となる。

以上のすべてを足すと850~900Mドル程度、その他の費用(管理費・利払い費用・税金など)が毎年300Mドル前後あるので純利益は550~600Mドルくらいが実力ということになりそう。現在の時価総額で計算するとPERは24倍となる。

 

SQMのバリュエーションはアルベマールよりも魅力があるように思う。リチウム価格が低迷する時期に投資を緩めなかったことで業績に上積みがある一方で、株価は他のリチウム銘柄ほど上げていない。

短期契約主体のためリチウム価格の上昇により業績が一気に改善しそうなのも見栄えが良い。

さらに足元ではSQMの主力製品である炭酸リチウムに追い風が吹いている。

つい最近までEVの電池はエネルギー密度の高いニッケルメインの正極材が主力になっていくと見られていた。ニッケルメインの正極材には水酸化リチウムが使われる。しかし、中国で小型EVが売れていることやテスラがリン酸鉄リチウムイオンバッテリーをより多く使うのではという報道からの炭酸リチウムが見直されている。

水酸化リチウムではかん水と鉱石の生産コスト差が少ないとされるが、炭酸リチウムではかん水の方が生産コストは低い。

 

SQMの不安点としては販売価格の低さがある。SQMの平均販売価格は欧米向けや日韓向けはおろか中国国内のバッテリー向け炭酸リチウムのスポット価格も下回っている。実際にどれくらいの品質の製品を生産できているのかよく分からない(アルベマール、ライベント、オロコブレはカンファレンスコールや決算資料で言及がある)。

 

中国ADR(BABA、BIDU、BILI)2020年4Q決算

アリババの3Q決算とバイドゥ、ビリビリの4Q決算。

記事中のPER、PSRはすべてYahooFinanceのアナリスト予想の数字をもとに計算した。

 

・BABA アリババ

3Qは前年比で売上高+37%、営業利益+24%増加、調整EBITDA+20%だった。

セグメント別の売上高の前年比は、コアコマース+38%、クラウドコンピューテング+50%。デジタルメディア&エンターテインメント+9%となっている。

調整EBITDAの前年比はコアコマース+15%、クラウドコンピューテングは初の黒字化、デジタルメディア&エンターテインメントは赤字縮小。

今期PERは23倍で割安感があるように見える。

ただ、アリババは赤字部門と営業外損益の大きなぶれのため実力が分かりにくい。

過去1年のコアコマースの営業利益は155B人民元(≒23Bドル)だった。時価総額が650Bドルなので、コアコマースだけで考えるとそれほど割安感はないと思う。

クラウドは過去1年の売上高が55B人民元だった。アマゾンの営業利益率3割に倣うと16.5B人民元(≒2.5Bドル)くらいの営業利益が見込めることになる。期待の持てる事業だがコアコマースが大きいために全体に占める比率は小さい。

 

・BIDU バイドゥ

検索最大手。傘下のiQIYIは動画配信サイトで首位を争う大手だが長らく赤字を垂れ流している。現在はAI、音声アシスタント、自動運転、クラウドといった分野に注力している。

4Qは前年比で売上高+5%、営業利益+7%だった。

セグメント別に見ると、バイドゥコアは前年比で売上高+6%、営業利益-8%。バイドゥコアの非広告の売上高は前年比+52%増加して4.2B人民元(セグメント売上高の18%)になった。クラウドやその他のサービスが主導したとのこと。AIクラウドは前年比+67%増加して年換算で2Bドル(≒13B人民元)の売上高になったそうだ。

iQIYIは売上高が前年比-1%と減収に転じたものの営業赤字は前年の2.2B人民元から1.3B人民元に半減した。

 

株価は昨年の底値から3倍以上に急騰している。AIや自動運転といったキーワードで買われたようだ。時価総額は97Bドル。株価の値上がりにより今期PERは28倍まで上がった。

バリュエーションの割安感は薄れたものの、各事業を分割して見れば割高とまではいかないのかなと思う。

・バイドゥコア・・・売上高12Bドル、営業利益(non-GAAP)4Bドル、営業キャッシュフロー4.5Bドル、フリーキャッシュフロー3.7Bドル。

・iQIYI・・・時価総額20Bドル(半分程度を持っていたと思う)。

・自動運転・・・競合他社の評価額は5.4~30Bドル(3Qでの話)。

・クラウド・・・競合のキングソフトクラウドの時価総額12.8Bドル。

・ネットキャッシュ・・・現金+売上債権+長短投資-総負債は16Bドル。

 

なお、会社はYYから中国国内のライブプラットフォーム3.6Bドルで購入することを発表している。空売り機関からYYについてのレポートが出たものの取引は元の価格で進捗中とのこと。

 

・BILI ビリビリ

中国版ニコニコ動画。若い世代の強い支持を得ている。

4Qは前年比で売上高+91%、営業赤字903M人民元(前年の赤字は420M人民元)だった。

売上高の伸び率は非常に高いが内容はさらに良い。これまで主力だったモバイルゲームの比率が下がった一方で、バリュー・アド・サービス(有料会員、ライブ放送、コミックなど)、広告、イーコマースの比率が増えている。3事業の伸び率はどれも前年比2倍を超えている。

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MAUは前年比+55%の2.02億人。有料ユーザー数は前年比2倍超の1,790万人。 

新型コロナの影響で1Qに大きく伸びたのち2Qは横ばいだったが、3Q4Qは再び成長路線に戻っている。

 

時価総額は43.5Bドル。株価は絶好調で昨年の初めから5倍以上に値上がりている。

今期PSRは15.5倍(前年比+50%の増収想定)で割高な数字になってしまった。

 

LTHM ライベント 2020年4Q決算

アルゼンチンのオンブレ・ムエルト湖からリチウム化合物を生産している会社。リチウム専業。

会社によると炭酸リチウムの生産コストは下位1/4、水酸化リチウムの生産コストは下位1/2に入るそうだ。戦略的に水酸化リチウムに注力している。バッテリーグレードの水酸化リチウムではライベント、アルベマール、ガンフォンリチウムが3強とされる。

2019年だが売上高の内訳は下のグラフの通り。水酸化リチウムが全体の55%を占める。バッテリー向けは全体の46%。

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ライベントはかつてのビッグ3の一角だが、現在はアルベマール、SQM、ティエンチ、ガンフォンの4社と比べると規模が小さい。

 

4Qは前年比で売上高は+13%増加したものの営業利益は赤字だった。調整EBITDAはかろうじてプラスを維持した。

売上高 82.2Mドル(前年比+13%)

営業利益 -3.9Mドル(前年5.7Mドル)

調整EBITDA 5.6Mドル(前年16Mドル)

 

四半期ごとの業績の推移をグラフにした。

売上高は2四半期連続で増加している。販売数量と平均販売価格の両方が増収に寄与した。

営業利益と調整EBITDAは前年比マイナスだが3Q比では改善している。サードパーティ―製の炭酸リチウムを原料にした高コストの水酸化リチウムの販売が減ったのがプラス、アメリカの水酸化リチウムプラントを2か月間閉鎖したのがマイナスの要因。

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2020年通期では、売上高-7%の減収、営業利益は前年の58Mドルから-21Mドルに赤字転落した。

販売量の減少(水酸化リチウム-2Kt)、平均販売価格の下落(-10%台半ば)、コスト上昇(新型コロナ費用と高コストの水酸化リチウム在庫)と三重苦の年になった。

2020年の営業キャッシュフローは6Mドル、調整営業CFは15Mドルとかろうじてプラスを維持している。

資本支出は114Mドルで2019年の183Mドルより減少した。資本支出の内訳は成長投資92Mドル、メンテナンス22Mドル。

 

バランスシートを見ると、キャッシュ11.6Mドルに対して長期有利子負債は236.7Mドルある。

2018年には営業利益153Mドルを出しているので業績さえ回復すれば問題ないように思えるが、キャッシュフローも赤字すれすれの現状では財務的な余裕はない。

 

2021年のガイダンスは売上高335~365Mドル、調整EBITDA40~60Mドル。

2020年の売上高288Mドル、調整EBITDA22Mドルと比べると増収増益だが、2018年の売上高442Mドル、調整EBITDA183Mドルと比べると回復は鈍い。

 

2021年は販売数量が増加するものの価格はやや低下を見込んでいる。

数量については、キャパシティの追加はないものの昨年に起きた新型コロナに伴う施設閉鎖がないためアルゼンチンで2Kt多く生産できるそうだ。水酸化リチウムと炭酸リチウムのやや多めの在庫(4Kt以上)も販売される。

価格については、足元で中国のスポット市場が上昇しているがライベントはその市場に参加していない。会社は主に年間ベースの固定価格で販売をしており、2021年の契約はすでに終えているとのこと。ただし、数量の一部は価格調整されるため主に下半期に限定的な影響が出るそうだ。

 

アルゼンチンのキャパシティ拡張は3月から投資をストップしている。再開はいまだ未定。計画では現在20Kt程度のキャパシティを4フェーズに分けて合計40Kt増やすことになっていた(CAPEX600Mドル)。

 

決算は相変わらず悪かったが翌日の株価はやや下げの20.06ドルだった。決算と同時に発表したBMWへのリチウム供給契約が好感されたのかもしれない。2022年から複数年に渡り炭酸リチウムと水酸化リチウムを供給するとのこと。

業績低迷のためPERは実績・今期予想ともに100倍を超えている。2018年のEPSを使うと20倍弱となる。

 

ライベントの問題はアルゼンチンの拡張がストップしているため数量の増加が見込めないところだろう。

株価も上がり時価総額は3Bドルになっているので、この機会を利用して早く資金調達した方がいいのではないかと思う。ライベントよりも財務的な余裕のあるアルベマールやSQMですらすでに増資を行っている。

 

ALB アルベマール 2020年4Q決算

リチウム、臭素、触媒などを生産する化学メーカー。

リチウムは最大手の一角。チリのアタカマ湖とオーストラリアのグリーンブッシュ鉱山(持分49%)からリチウム化合物を生産している。アタカマ湖とグリーンブッシュ鉱山は資源量とグレードの点でかん水と鉱石でベストの資産とされる。その他にもオーストラリアのウォジナ鉱山を持つ(持分60%、休鉱中)。

臭素は難燃剤が主な用途。他にもエレクトロニクス、自動車、建設、アプライアンスなど幅広い産業に使用される。GDP比例のビジネス。

触媒はガソリンなどの精製やディーゼルや石油原料の汚染物質を取り除くのに使われる。足元では輸送燃料の消費が落ち込んでいるのが逆風になっている。

 

4Qの業績は減収減益だった。

売上高 879Mドル(前年比-11%)

営業利益 125Mドル(前年比-10%)

調整EBITDA 221Mドル(前年比-25%)

EPS 0.79ドル

 

セグメント別の売上高を見ると、前年比でリチウムが-13%(数量+7%、価格-20%)、臭素が+8%、触媒が-31%となっている。

リチウムは数量が増えたものの価格が大きく下落した。数量の増加は顧客が2020年の契約を順守したため。価格の下落は2019年末に合意した譲歩のため。

今年は数量がやや増えるものの価格はやや下がるという見通し。数量の増加は北アメリカの施設の再稼働など。価格は炭酸リチウムとテクニカルグレードの下落が大きいそうだ。会社は昨年の価格譲歩が一年限りと言っていたが、今年も元の契約価格に戻るわけではなさそう。カンファレンスコールでもあいまいな回答。ある程度は市場価格に連動する部分が出てくるみたい。

なお、昨年の4Qに中国のスポット価格は底を打ち上昇が始まっている。しかし、アルベマールは中国でのスポット価格ベースでの販売がないので影響を受けないとのこと。ただ、価格交渉でのプレッシャーは少なくなっていると言っている。現状でアルベマールの契約価格はスポット価格を上回っているそうだ。

臭素は経済のリバウンドを背景に増収となった。今年も緩やかな回復が続くという想定。

触媒は新型コロナの影響で厳しい。今年も横ばいの見通し。

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セグメント調整EBITDAは、前年比でリチウムが-13%、臭素が+10%、触媒が-71%となった。

リチウムは3四半期連続で回復が続く。臭素は3セグメントの中で最も落ち込みが少なく利益水準もコロナ前を回復した。触媒は厳しい状況が続いている。

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年間の売上高と調整EBITDA・営業利益の推移をグラフにした。

2020年は売上高-12%の減収、営業利益-24%の減益、調整EBITDA-21%の減益だった。営業利益率は過去4年ほど20%前後だったが(2018年はビジネス売却の影響で営業利益が大きくなっている)2020年は16%まで低下している。

長期で見るとアルベマールの成長率は高いとは言えないが、リーマンショックの最中でも利益を出しているのは見事だと思う。

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2014年からの主要3セグメント調整EBITDAの推移(セグメントの組み換えを調整するために2014~2016年の触媒は PCS と Refining solution を合計している)。

リチウムは2016~2018年のブームで大幅に業績を伸ばしたが、その後の価格下落により業績が悪化している。

2020年を除くと触媒は微減といった感じ。一方で臭素は安定した成長を見せている。

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2021年のガイダンスは、売上高3.2~3.3Bドル(20年は3.1Bドル)、調整EBITDA810~860Mドル(20年818Mドル)、調整EPS3.25~3.65ドル。

昨年と比べると小幅な増収増益だが、ESPの中央値は2020年より低下する。今年の2月に1.5Bドルの増資を行ったため希薄化が起きている。

 

リチウム市場についてだが、会社は2025年までのリチウム需要の見通しを上方修正した。新しい見通しでは現在の300Kt(LCE)が2025年に1,140Ktに増加する(EVの普及率19%、平均バッテリーサイズ40kWh→55kWhに増加という想定)。年率換算で31%、EV向けのバッテリーグレードに限ると47%の成長率になる。

リチウム化合物の内訳は、現在の炭酸リチウム7 : 水酸化リチウム3が2025年に4:6になると予想している。

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市場見通しの上方修正と同時に会社の拡張計画もアップデートされている。

アルベマールは2015年から2020年にかけてネームプレートキャパシティを3倍の85Ktまで拡大させた。今年の後半には La Negra III&IV と Kemerton I&II が完成することで175Ktになる予定。加えて Wave 3&4 で450~500Ktまで拡大させるという目標を出した。

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かなりアグレッシブな計画だが、当面は La Negra の拡張と Kemerton が問題になりそう。

La Negra はチリ(アタカマ)の拡張。低コストの炭酸リチウムが40Ktプラスされる。2021年の半ばに完成して6か月の試運転と品質検査プロセスを経て本格稼働する。

Kemerton はオーストラリアに建設中の50Ktの水酸化リチウムプラント。アルベマールの持ち分は60%。スポジュメン精鉱はグリーンブッシュから供給される。2021年の終わりに完成し6か月の試運転と品質検査プロセスを経て本格稼働する。

両者の業績への寄与が始まるのは2022年になりそう。初年度はキャパシティの50%程度の稼働と考えるのが妥当とのこと。

 

リチウム価格の底打ちを背景にアルベマールの株価は底から3倍以上に値上がりしたが、1月初めをピークにジリジリ下げていた。今回の決算を受けてさらに-10%ほど下げた。決算の数字は問題なかったが期待が高すぎたのだと思う。

アルベマールのリチウム販売は長期・固定価格がメインなので業績のブレが比較的小さい。リチウム価格が下落してもそれなりの利益が出ていた代わりに、価格の上昇が起きてもすぐに大幅増益に転じるわけではない。

La Negra の拡張と Kemerton が本格的に業績寄与する2023~2024年に向けて数量と価格の両方から業績を上げていくイメージになると思う。

 

PERは今期予想が39~43倍、実績が40倍となる。

業績が落ち込む前の2019年の調整・希薄化EPSで計算すると23倍。La Negra と Kemerton によりキャパシティが2倍近く増えることから2019年のリチウムセグメントの利益を2倍にすると純利益は64%の増加になる。かなりざっくりした計算だが、2023~2024年にEPS10ドル程度というのがひとつの目安になるのかなと思う。現在の株価に対して14倍程度となる。

 

アルベマールのリスクとして考えられるのはキャパシティの増加がうまくいかないことだろう。かん水からのリチウム増産は計画が遅れるのが日常茶飯事だし、オーストラリアの水酸化リチウムプラントは新規設備なので想定通りのコストで順調に稼働するかは未知数。

他にはリチウムのコモディティ化もリスク要因だと思う。リチウム資源は数多くあるが、現状でリチウム化合物を大手メーカーに供給できる会社は数が少ない。顧客の求める種類・品質のリチウム化合物を安定して供給できる信頼性が求められるため。このためリチウム化合物の生産会社はコモディティ銘柄ではなく特殊化学の銘柄として評価されている(PERが高い)。

しかし、昨年末にはテスラが中国 Yahua と水酸化リチウムの供給契約を結んでいる。中国のコンバーターが大手メーカーにリチウム化合物を供給できるようになるとアルベマールなどのリチウム大手のバリュエーションは低下するかもしれない。

 

3663 アートスパークホールディングス 2020年4Q決算

イラストマンガ制作ソフトのクリップスタジオや車載向けのUI開発ソリューションを提供している会社。

クリップスタジオはアマチュアからプロのクリエイターまで幅広く利用されているソフトとのこと。累計出荷本数は1,000万本を突破しており、全体の60%以上が海外シェアとなっている。昨年は従来より利用可能だったiOS版に加えて windows・mac、andoroid でもサブスクリプション課金モデルの提供を開始した。

 

4Q累計の業績は前年比で売上高+18%の増収、経常利益+225%の増益だった。経常利益は期首の予想を大幅に上振れて着地した。

4Q単体だと売上高+28%の増収、経常利益-0.36億円→1.41億円の黒字転換となる。

 

セグメント別の業績。

クリエイターサポート事業は好調が続く。4Qは前年比で売上高+41%の増収、セグメント利益+207%の増益となった。

年間の累計だと売上高は前年比+33%の48億円、セグメント利益(営業利益)は前年比+111%の14.6億円。

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クリエイターサポート事業が好調な一方でUI/UX事業は赤字が続く。4Qは前年比で売上高-2%の減収、セグメント利益-1.75億円の赤字だった。3Qにカンデラ社ののれんを全額減損して償却費が減ったにもかかわらず赤字額は3Qより増えている。

年間の累計は売上高-11%減収の15.8億円、セグメント利益は赤字拡大の8.1億円の損失。

中期経営計画によるとこの事業の赤字はしばらく続く見込み。赤字額は21年に3億円、22年に2.4億円となっている。なお、のれん等の償却費も24年まで残る。21年~23年は1.2億円、24年に0.3億円の償却費。

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バランスシートには現金が29億円ある一方で有利子負債はゼロ、総負債は16億円。

 

今期の予想は売上高+5.7%増の67.3億円、営業利益+19.2%増の9.2億円、経常利益+17.3%増の8.7億円。

増収増益だが去年11月に発表した中期経営計画の売上高69.8億円、営業利益10.7億円より下振れしている。

決算と同時に発表した孫会社の売却により売上高6.7億円、経常利益0.31億円が消えるので売上高の下振れは説明がつきそうだが営業利益の下振れはよく分からない。

 

中期経営計画とのズレといった細かい点より気になるのが、クリエイターサポート事業の今期計画の弱さだと思う。

中期経営計画に記載されていた今期予想は売上高54.9億円・営業利益13.7億円だが、実績で売上高48億円・営業利益14.6億円も出ている。単純に比較すると今期は売上高+14%、営業利益は減益になってしまう。ここ2~3年の業績の伸びからするとかなり弱い。単に保守的な予想なのか、実績が巣ごもり特需でかさ上げされていたのか、UI/UX事業が予想以上に悪化しているのか、もう少し説明が欲しいところ。

 

現在の時価総額は165億円。今期PERは17倍だが孫会社売却による特別利益がある。経常利益×0.7で計算するとPERは27倍となる。

クリエイターサポート事業の実績のみで考えると、セグメントの営業利益14.6億円から税金30%を差し引いて10.2億円となりPERは16.5倍となる(この会社の営業利益と経常利益の違いは少ない。また、セグメントの調整額は1.22億円の利益だった)。

クリップスタジオの将来性やUI/UX事業の赤字をどう考えるかによって評価は変わるのだろうが、少なくとも割高感はないのかなと思う。