リセッションはいつ起きるのか?

株式市場は落ち着きを取り戻していますね。

株価を下支えしているのは実体経済の強さだと思います。足元の景気はリーマンショック後で最も良い状態で、企業収益も好調なことからS&P500の予想PERは20倍を切っています。このように先行きが良い状況だと一時的に株価が調整してもそこから一方的に下げ続けるのはなかなか難しいのだと思います。

もちろん景気と株価の関係は完全ではなく、ブラックマンデーのようにリセッションを伴わない暴落もありますし、一方でリセッションが起きても株価はそれほど下がらないこともあります。しかし、株価が40%も50%も暴落するときは実体経済も悪化していることが多いです。よって次の下落相場を予想するにはリセッションがいつ起きるのかを考える必要があると思います。

 

景気循環と住宅市場

一般的にはリセッションを予想してマーケットタイミングを取るのは不可能だと言われています。実際、アメリカの景気後退が起きるのは数年~10年に一度といった頻度であり、これを予想するのは分の良い賭けではないでしょう。

しかし、世の中には精度の高い経済予測をする人もいることから完全に不可能だとあきらめるのも早いと思います。

たとえば Calculated risk という有名なブログがありますが、2005年にブログを開始したあと、2007年にリセッションを予想し、2009年に景気の底打ちを宣言し、それ以後は毎年リセッションは来ないという予想をしています。つまりこれまで10年以上にわたって100%の確率で景気判断を当てているわけです。しかもその予想の根拠が経済データを基に具体的に説明されています。

このブログの著者による最近の景気見通しはこのあたりに書かれています。

Is a Recession Imminent? 

Question #7 for 2018: How much will Residential Investment increase?

Update: Predicting the Next Recession 

著者は景気を予測する最も良い先行指標は住宅市場だと言います。そして下のグラフのように現在の住宅関連指標が(底から上がってきたものの)依然として過去の水準を下回っていることから、今後もしばらくは回復が続くという予想をしています。

 

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なお、2番目の記事で紹介されている Housing is the business cycle というNBERのワーキングペーパーも参考になるので簡単に内容をメモしておきます。やや昔の研究(2007年)ですが景気循環における住宅投資の重要性が書かれています。

・住宅投資の実質GDP成長率への寄与はとても小さい(寄与率はわずか4.6%)もののリセッションにおいては非常に重要な役目を果たしている。

・住宅投資はリセッションの1年前から悪化し始め、この期間ではGDP成長の最大のマイナス要因となる。住宅投資はリセッションが始まって平均して2四半期後に底打ちする。

・第二次世界大戦後、10回の景気後退のうち8回でリセッションに先立つ住宅投資の悪化があった。例外は53年と01年。53年の場合はリセッションの前に景気悪化の兆候がなく、景気後退は防衛費の大幅な減少によって起こった。01年の場合はリセッションに先立つ住宅投資の悪化はわずかで、非耐久消費、企業投資、輸出の落ち込みが大きかった。

・住宅投資の悪化がリセッションにつながらなかったのは1951-52年と1966-67年。両者はちょうど朝鮮戦争とベトナム戦争で防衛費が非常に増大した時期にあたる (防衛費はこれ以後急激な増減をしていない)。

・7回 (戦後すぐの49年、53年、01年を除く) のノーマルなリセッション前の1年間では、住宅投資>耐久消費財>サービス消費>非耐久消費財の順にマイナス寄与が大きい。これらはすべて個人消費サイドの項目である。

・設備・ソフトウェアはリセッションの最中に最大のマイナス要因となる。設備・ソフトウェアの次に続くのは、耐久消費財>非耐久消費財>輸出>住宅投資。

・在庫はリセッションに入ると一気に落ち込むが、回復は早く、平均して2四半期後が底になる。

・リセッションを予想するには住宅投資の動きを見るのがベストでビジネス消費や在庫は予想の役に立たない。リセッションはビジネスサイクルではなく消費サイクルである。

 

感想

景気循環は個人消費が主導するのか企業活動が主導するのかという問題がありますが、Housing IS the Bussiness Cycle では明確に個人消費のサイクルだと書いています。

住宅投資が重要なのは、個人消費を最も敏感に反映するのが一番高額な買い物である住宅であるためでしょう。また、住宅購入には金利や家計のバランスシートも関連してくるので、マクロ経済の状況がバランスよく反映されるのかもしれません。

現在の米国経済を見ると、住宅投資は依然として過去の平均以下の水準であり、家計のバランスシートは良好で、金利はまだ低くインフレも上がっていないことからリセッションが来るのはまだしばらく先になるのかなと思います。