自分の資産のうちリスク資産・無リスク資産の割合をどれくらいにするかというのはアセットアロケーションの最大の問題でしょう。
この問題には明確な回答はなく、最終的には個人の好みになりそうです。
ただ、それだと話が終わりになってしまうので、今回は過去のデータを使っていくつか代表的なアセットアロケーションの成績を見てみます。
データについて
・株式はMSCIのサイトよりダウンロードしました。日本株はMSCI JAPAN、世界株はAWCI、先進国はWORLDです。
・MSCI指数はいずれも配当再投資のGROSS指数で、通貨はJAPANがLOCAL、AWCIとWORLDはUSDをダウンロードしました。
・AWCIとWORLDを使うときは日銀からダウンロードした為替レート(月末値)で円換算しています。
・債券のデータは日興債券パフォーマンスインデックスです。総合指数と国債(長期)指数を使っています。
株式60%/債券40%
米国でベンチマークとして使われていることが多い伝統的なアセットアロケーションです。
まずは1980年1月~2015年12月までの期間で100%株式と株式60/債券40ポートフォリオの累積リターンをグラフにしてみます。
・グラフは日本株と世界株の2つです。
・債券は総合指数と国債(長期)指数の2つです。(日本の投資家を想定するので)世界株の場合も日本債券を使います。
・ポートフォリオは毎月リバランスです。
日本株は90年まで急上昇した後、バブル崩壊で急落し、それ以降はレンジ相場で推移しています。
この期間は債券のリターンが良かったこともあり、債券を組み入れた60/40ポートフォリオはボラティリティが低いうえ、リターンでも株式100%ポートフォリオを上回っています。
一方で世界株式は右肩上がりで上昇したため、60/40ポートフォリオのリターンは株式100%ポートフォリオに遅れをとっています。
ただ、ITバブルやリーマンショックといった株価下落局面においては債券が安全資産として機能することから損失はマイルドになります。
次に大きな株価下落があった期間の株式と債券の損益を見てみます。
1980年以降の日本株では大幅下落は6回ありました(1989年12月~1992年7月までを1回とすると5回になります)。世界株はITバブルとリーマンショックの2回です。
下表がそれらベアマーケットでの株式・債券の騰落率です。
株式リターンを基準にしているので当然ながら株式は大幅下落ですが、対照的に債券はほとんどの期間でプラスのリターンとなっており、安全資産として機能していたと言えそうです。(ただし、この期間が長期的な金利低下局面にあったことは考慮する必要があるかもしれません)
ピーク | ボトム | 日本株 | 債券総合 | 長期国債 |
---|---|---|---|---|
1989年12月 | 1990年9月 | -46.4% | -4.6% | -10.8% |
1991年2月 | 1992年7月 | -35.8% | 16.2% | 18.2% |
1989年12月 | 1992年7月 | -56.2% | 21.9% | 19.5% |
1994年5月 | 1995年6月 | -27.0% | 10.8% | 13.7% |
1996年4月 | 1998年9月 | -34.3% | 17.8% | 30.9% |
2000年3月 | 2003年4月 | -51.8% | 10.6% | 18.0% |
2007年6月 | 2009年2月 | -57.3% | 5.8% | 9.6% |
ピーク | ボトム | 世界株 | 債券総合 | 長期国債 |
2000年2月 | 2003年3月 | -36.7% | 10.5% | 17.9% |
2007年10月 | 2009年2月 | -61.3% | 3.7% | 6.0% |
下落局面における株式100%と株式60%/債券40%ポートフォリオの成績が下表です。
株式100%ポートフォリオでは5割を超える下落があっても、安全資産である債券を4割組み込むことで損失は-30%前後に抑えられています。
ピーク | ボトム | 株式100% | 株式60%/債券40% | |
---|---|---|---|---|
日本株式 | 債券総合 | 長期国債 | ||
1989年12月 | 1990年9月 | -46% | -30% | -32% |
1991年2月 | 1992年7月 | -36% | -15% | -14% |
1989年12月 | 1992年7月 | -56% | -25% | -26% |
1994年5月 | 1995年6月 | -27% | -12% | -11% |
1996年4月 | 1998年9月 | -34% | -13% | -8% |
2000年3月 | 2003年4月 | -52% | -27% | -24% |
2007年6月 | 2009年2月 | -57% | -32% | -31% |
ピーク | ボトム | 世界株式 | 債券総合 | 長期国債 |
2000年2月 | 2003年3月 | -37% | -18% | -15% |
2007年10月 | 2009年2月 | -61% | -35% | -34% |
※結果はリバランスなしの成績です。月次リバランスの場合は平均すると4~5%ほどリターンが悪化してしまいます。
株式60%/債券40%が標準的なアセットアロケーションとされているのは、たぶん多くの人が-50%を超えるような大幅なドローダウンに耐えられないからでしょう。
一定の比率で債券を組み込むことで損失をマイルドにしようというのは良いアドバイスだと思いました。
株式=100-自分の年齢
株式は長期で見れば値上がりするものの、短期的には変動が大きく高リスクです。ただ、この短期的な変動というリスクは、人によって受け止め方が違ってきます。
一般的には、若くて時間のある人にとっては短期的な株価変動リスクよりも長期的な絶対リターンの方が重要なので株式の割合を増やすべきでしょうし、一方でリタイヤして資産を取り崩しながら生活している人にとっては短期的でも大きく資産が減るのは精神的なダメージが大きいので債券の割合を増やすべきでしょう。
年齢が上がるほどリスクの高い株式の割合を減らすというのは60/40ポートフォリオよりも現実的なアセットアロケーションだと思います。
最大損失や希望リターンから逆算する
ただ、年齢が上がるほどリスク許容度が下がるというのはあくまでも一般論です。個人には年齢以外にもいろいろな事情があるので、一律に一定の計算式を押し付けるよりもリスクとリターンの割合を自分で選ぶほうがベターでしょう。
下の表はポートフォリオにおける株式と債券の比率を変えたときに予想されるリターンと最大損失です。
・最大損失はリーマンショック時の損失(国内株式は2007年6月~2009年2月、海外株式は2007年10月~2009年2月の期間)を使います。
・株式と債券のリターンには Global Investment Yearbook に掲載されている実質の世界リターン(株式+5.1%、債券+1.8%)を使います。将来のリターンは予想できないので、日本株も海外株も同じ数字を使います。
・リバランスなしポートフォリオの結果なので、下落率は少し保守的に見たほうが良いかもしれません。
比率 | リーマンショックの損失 | 実質リターン | ||
---|---|---|---|---|
株式 | 国債(長期) | 国内株式 | 海外株式 | |
10% | 90% | 2.9% | -0.7% | 2.1% |
20% | 80% | -3.8% | -7.5% | 2.5% |
30% | 70% | -10.4% | -14.2% | 2.8% |
40% | 60% | -17.1% | -20.9% | 3.1% |
50% | 50% | -23.8% | -27.6% | 3.5% |
60% | 40% | -30.5% | -34.4% | 3.8% |
70% | 30% | -37.2% | -41.1% | 4.1% |
80% | 20% | -43.9% | -47.8% | 4.4% |
90% | 10% | -50.6% | -54.5% | 4.8% |
100% | 0% | -57.3% | -61.3% | 5.1% |
リーマンショックを最大損失だと仮定すると、ポートフォリオの損失を-10%くらいに抑えたいのであれば株式は20%くらいに留めておくべきでしょうし、-20%の損失を許容できるのであれば株式を40%くらいまで組み込むことができそうです。
あるいはリターンが+5%欲しいのであれば株式100%以外に選択の余地はなくなります。
株式100%
長期的に見れば株式は債券とは比較にならない利益をもたらすため、十分な投資期間を確保できるなら株式100%のポートフォリオで良いという考え方もあります。
このポートフォリオが実行できるかは株式のドローダウンに耐えれるかという点にかかってくると思います。
ちなみにリーマンショックのドローダウンは-60%前後の損失で、下落前のピークを回復するまでに日本株で7年10か月、世界株で6年2か月かかっています。また、山から谷までの下げ期間は、日本株が1年8か月、世界株が1年4か月でした。
しかし過去を振り返ると70年代~80年代にかけてリーマンショックより損失が長引いた時期もあります。
下のグラフは1971年~1986年のMSCI WORLDのドル建て名目、円建て名目、ドル建て実質、円建て実質指数です(インフレの調整には日本のCPI総合指数を使っています)。
グラフを見てわかるように、この時期は高インフレと円高の期間であったため、名目指数と実質指、あるいは円換算の名目・実質指数は値動きがまったく違ってきます。特に為替レートとインフレの両方の影響を受ける円換算の実質指数の低迷がひどいです。
この期間のドローダウンをチャートにしたのが下表です。下落が始まった地点から損失を回復するまでの株価の推移になります。
まずドル建ての名目指数ですが、落ち込みは-40%で回復までの期間は4年9か月です。
円換算の名目指数は下落幅は同じく-40%ですが、回復途中に円高が発生したため回復するまでに6年9か月かかっています。
インフレを考慮した実質指数の低迷はさらに厳しいです。特に円換算の実質では下落幅が-62%に達し、ピークを回復するまで13年4か月もかかっています。しかも本格的に回復が始まるまで10年も低迷が続いています。
当時のレートが1ドル300円台だったことや現在の低インフレを考えると、今後このような長期低迷が起きる確率は低いとは思います。
とはいえ、為替やインフレといった悪条件が重なると思った以上に低迷が長引くこともあるというのは想定しておいてもいいかもしれません。