投資ファクターについてのメモ。内容は主に「Your Complete Guide to Factor-Based Investing」という本を参照にしている。
3ファクターモデル
ファーマとフレンチが1993年に発表したモデル。異なるポートフォリオ間のリターンの違いをマーケット、サイズ、バリューの3ファクターで説明する。
それまで主流だったリスク(ベータ)を唯一の説明変数とするCAPMに対して、3ファクターを使うことで株式リターンの説明力を大きく向上させた。説明力は90%程度になるそうだ。
マーケット
株式市場のリターン-リスクフリーレート。株式市場の超過リターンを表す。
サイズ
SMB(スモール・マイナス・ビッグ)で記述される。小型株ほどリターンが高いというアノマリー。
ファーマ・フレンチのモデルでは、時価総額の中央値よりも大きい銘柄を大型株、小さい銘柄を小型株としている。
バリュー
HML(ハイ・マイナス・ロー)。割安株は割高株よりリターンが良いというアノマリー。普通はB/M(PBRの逆数)が使われる。
サイズ・ファクター以外のロング・ショートは指標の上位30%と下位30%が使われることが多いようだ。
Carhart の4ファクターモデル
3ファクターにモメンタムを加えたモデル。説明力は95%程度まで上がるとのこと。
モメンタム
WML(ウィナー・マイナス・ルーザー)、またはUMD(アップ・マイナス・ダウン)。直近の株価が強いほどリターンも高くなるというアノマリー。
過去12か月で直近1か月を除くリターンという定義が使われることが多い。直近1か月は短期リバーサルの傾向があるため除かれる。
Hou・Xue・Zhang の4ファクターモデル、ファーマ・フレンチの5ファクターモデル
マーケットベータ、サイズに収益性(プロフィタビリティ)と投資(インベストメント)ファクターを加えたのが Hou・Xue・Zhang の4ファクターモデル。
ファーマとフレンチは、この4ファクターにバリューファクターも加えた5ファクターモデルを発表している。
Hou らの4ファクターモデルにバリューが入っていないのはバリューを加えても説明力が向上しないため。ファーマとフレンチもこの点は認めている。
ただし、バリュー・ファクターが説明力を高めないというのはアメリカ市場の話であって、グローバル株式市場を対象とした調査ではバリュー・ファクターの影響が大きいという結果も出ている。
収益性
RMW(ローバスト・マイナス・ウィーク)。収益性の高い銘柄ほどリターンも高くなるというアノマリー。
最初に報告した Novy-Marx は Gross Profitability (粗利益/総資産)を使っている。
Gross Profitability のほかにも Operating Profitability(営業利益/総資産)やROE、ROAといった指標が使われるようだ。
投資
CMA(コンサバティブ・マイナス・アグレッシブ)。投資が少ない会社の方がリターンが高いというアノマリー。
ケネスフレンチ教授のHPでは総資産の増加率が使われている。
その他のファクター
主なマルチ・ファクターモデルで使われている指標を取り上げたが、それ以外にもいろいろなアノマリーが発表されている。
クオリティ
QMJ(クオリティ・マイナス・ジャンク)。質の高い銘柄ほどリターンが良いというアノマリー。
クオリティ・ファクターの定義にはかなりの多様性がある。ただ、収益性系と負債比率系の指標は入っていることが多い。
各インデックスでの定義はこららに書いた。
低ボラティリティ
ボラティリティの低い銘柄ほどリターンも高くなるというアノマリー。
伝統的なCAPMではリスク(ボラティリティ)が高いほどリターンも大きくなるはずだが、実際には両者はゼロかネガティブの相関になるそうだ。
キャリー
利回りの高い資産は利回りの低い資産よりも成績が良いというアノマリー。伝統的には通貨(FX)の世界で使わるが、他の資産でも有効なようだ。
株式であれば配当、債券であれば利回り、コモディティデあればロールリターン(スポットと先物の差)がキャリー・ファクターに相当する。
タイムシリーズ・モメンタム
先に紹介したモメンタムと異なり、タイムシリーズモメンタムは過去の自らの価格に対するモメンタムを指す。伝統的にはトレンドフォローとしてよく知られているファクター。