景気循環と株式リターン

景気が良いと株価は上がり、景気が悪くなると株価は下がる、当たり前の事実のように思えます。

しかし、実際に株価と景気は連動しているのでしょうか?景気循環と株式リターンについて調べてみました。

 

景気循環と株価のチャート

まずは両者をチャートにして見てみます。

株価は名目株価だと過去の数字が小さくなりすぎて変動がわかりにくいので実質株価を使います。灰色のシャドー部分が景気後退期に当たります。

データは、日本の景気循環は内閣府の景気基準日付、米国の景気循環はNBERのUS Business Cycle Expansions and Contractionsを、株価は日経平均株価の月足とS&P500の月足を使っています。両国の株価は消費者物価指数で実質株価に調整しています。

 

アメリカの場合は景気循環と株価が比較的一致しているように見えます。

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一方で日本はリセッションの数が多く、チャートを見ただけではなかなか判断しにくいです。

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景気拡張期と景気後退期のリターン

景気拡張期と後退期に分けて株式リターンを見てみます。

まずは日経平均株価の景気拡張期のリターンです(拡張期の長さはバラバラなのでリターンの大きさを単純に比較することはできません)

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景気拡張期には名目リターンのマイナスが1回、実質リターンのマイナスが3回ありました。ただ、大きなマイナスは1962年10月~1964年10月の実質リターン-16%だけです。

日経平均はバブル崩壊後の90年代以降に大幅に下落しましたが、この期間でも景気拡張期にはマイナスリターンになっていません。

一番右の年率換算は景気拡張の累積リターンを年率換算したものです。名目+13.1%・実質+9.9%でした。

 

次に景気後退期の日経平均のリターンです。

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90年のバブル崩壊以前は景気後退期でもマイナスリターンになるのは半々くらいの確率でしたが、バブル崩壊以降では5回のリセッションのすべてでマイナスリターンになっています。マイナス幅も2012年のリセッションを除いて非常に大きいです。

累積リターンの年率換算は名目-3.2%・実質-6.5%でした。

 

一方で米国のS&P500の場合は、景気拡張期が名目+8.7%・実質+4.8%の年率換算リターン、景気後退期が名目-0.2%・実質-4.0%の年率換算リターンでした。

景気拡張期の方がリターンが高いのは日本と同じですが、景気後退期でも半分ほどの確率でプラスリターンとなっており、-10%を超える下落も2回だけと日本株に比べると底堅いです。

なお、景気拡張期のリターンが日経平均に比べて低いのは、1940年代のマイナスリターンが含まれていること(日経平均は1951年10月以降のデータ)、日本に比べて景気拡張期が長いこと、景気後退期の落ち込みが小さいことが原因だと思います。

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景気の山と谷周辺の株価の値動き

次に景気のピークとボトム周辺で株価がどのように動いているのかを見てみます。

下のグラフは景気のピーク周辺(15回)での日経平均株価(名目)の平均月次リターンと累積リターンを集計したものです。

X軸の0が景気のピークの月に当たり、-1はその一か月前、+1はその一か月後の月のリターンという意味です。

株価は景気のピークを超えた後にやや低迷している印象があります。ただ、明確な傾向というわけではないです。

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一方でボトム周辺の傾向ははっきりしています。

景気が底を打つ3か月前程から3か月後までの6か月の間は非常に大きなプラスのリターンで、それ以後も1年後まで継続的なプラスリターンが続いています。

累積リターンは+30~40%と非常に大きく、この時期に株に投資していないのは大きな機会損失となります。

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米国の場合です。

景気のピーク付近で株価はやや大きく落ちいており、下落幅は-6~7%になります。

ただ、半年を過ぎたあたりから株価は回復に向かっています。短いリセッションの回復期間が入ってくるからかもしれません。

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一方で景気のボトム周辺では、日本ほどではないですがはっきりしたプラスリターンになっています。

景気の底打ち3カ月前から6か月間のリターンが高く、その後もしばらく良好な株価推移です。累積リターンはボトム前後の6か月が+20%ほど、それ以後を含めると+25%くらいのリターンです。

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GDP成長率と株価変動

これまでは景気拡張期・後退期に分けて株式リターンを見ていましたが、今度は実質GDP成長率と株価の変動を四半期ベースで比べてみます。

 

下のグラフは実質GDP成長率と日経平均の実質リターンの散布図です。

上は1957年~2015年の期間、下は2000年から2015年の期間です。相関係数は0.13と0.27で、2000年以降に弱い相関があるといったレベルです。

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一般に株価は景気に先行すると言われるので、実質GDP成長率と1四半期前・2四半期前の株価リターンの相関も見てみます。また、名目株価と実質GDPも比べてみます。

1957年~2015年の期間で実質GDP成長率と最も相関が高いのは2四半期前の名目株価、2000年以降では1四半期前の実質株価のリターンでした。ただ、いずれも弱いレベルです。

  名目株価リターン 実質株価リターン
  同四半期 1四半期前 2四半期前 同四半期 1四半期前 2四半期前
実質GDP成長率 0.16 0.21 0.23 0.13 0.14 0.19
(2000年以降) 0.26 0.29 0.14 0.27 0.31 0.13

 

次に1951年~2015年の米国のS&P500と実質GDP成長率の比較です。

数字は全体的に日本よりも高くなっていますが、相関の強さは日本と同じく弱いです。

ただ、2000年以降は実質GDP成長率と株価の動きの連動性が高まっています。この期間は景気拡張期・後退期と株価の値動きがかなり一致していたからだと思います。

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  名目株価リターン 実質株価リターン
  同四半期 1四半期前 2四半期前 同四半期 1四半期前 2四半期前
実質GDP成長率 0.10 0.24 0.32 0.11 0.25 0.32
(2000年以降) 0.42 0.33 0.28 0.41 0.33 0.28

 

感想

2000年以降はITバブル崩壊とサブプライムショックという2つのビッグイベントが起こり、リセッションと株価の動きが完全に一致しました。しかし、今後もこのようにはっきりした値動きが続くとは限りません。

2000年以前も含めた全体で見るとリセッション時にも株価が下がらないことも多く、景気循環と株価は必ずしも一致しているとは言えないという印象を受けました。

景気後退を予想するのはとても難しいこと、また正確に予想できたとしても株価が下落するとは限らないこと、リターンの高い景気のボトムで投資していないリスク、を考えるとリセッションを予想してマーケットタイミングを取るのはあまり割の良い賭けではないのかなというのが感想です。

 

ただし、実際にできるかどうかは別ですが、経済危機レベルのリセッションを予想するのは試してみる価値がある気がします。

60年代~80年代の米国のインフレ危機、90年代の日本の金融危機、2000年のITバブル、2007年からのサブプライム危機など、深刻なリセッションのときには株価も大きく下落しています。

特に90年以降の日本のリセッション時の株価を見ると、なんとかこの暴落を避けたいと考えてしまいます。