投資家が大切にしたいたった3つの疑問

PSRの発案者として有名なケン・フィッシャーの本です。ケン・フィッシャーは成長株への長期投資で有名なフィリップ・フィッシャーの息子ですが、彼自身長期にわたり資産運用の世界で平均を上回る成績を残してきたそうです。

投資家が大切にしたいたった3つの疑問 (ウィザードブックシリーズ)

投資家が大切にしたいたった3つの疑問 (ウィザードブックシリーズ)

 

この本の主題はたったひとつ、株式市場で勝つには「他人の知らないことで、あなたが知っていることは何か?-自分だけの優位性とは何か?」を知らなければならないというものです。

フィッシャーは、相場は現在知られている情報をすべて織り込むため他人が知っている情報をもとに売買をしても勝つことはできないと言います。効率的市場仮説ですね。しかし、彼はそこで話を終わりにせず、市場にはまだまだ知られていないことが多いためそれを知ることで平均を上回る成績を出すことができるという立場をとります。

この他人が知らないことを知るために題名に書かれている3つの疑問を使おうというのが彼の主張です。

① 実際には間違っているが、私が信じているものは何か?

② あなたが見抜けても、他人には見抜けないものは何か?

③ 私の脳は、自分を騙して何をしようとしているのか。自分を見失わせるのか?

 

本書は700ページを越える分厚い本ですが、その大部分が3つの疑問を使って他人が知らないことを見つけていく実例に当てられています。

・PERはリスクやリターンと関係ない。

・株式益回りと債券利回りの比較は有効。

・財政赤字は株式にとっては好都合。

・広く話題になったニュースは相場に織り込まれており打撃にならない。Y2K、鳥インフルエンザなど。

・FF金利の変動と株価の間には信頼性のある関係が何もない。

・石油と株式市場に逆相関の関係はない。影響はゼロ。

・5月売りに有効性はない。5-10月のリターンは11-4月のリターンより低かったがプラスである。

・曜日・月・季節などに関する神話には信頼性がない。

・貿易赤字や経常赤字は悪いものではない。

・金は株式のヘッジにはならない。

・貿易収支や経常収支は為替レートとは無関係。

 などなど。

 

また、いったん機能する手法を見つけてもそれで終わりではありません。

フィッシャーは、市場の持つ効率性という特徴からいま機能している手法もそれが広く知られてしまうと有効性を失ってしまうと言います。彼によると自身が発見したPSRもいまでは「単なる思い出」にすぎないそうです。したがって長期にわたり市場を上回る成績を残したいのであれば、継続的に検証をして革新を進めていかなければならないと説いています。

市場の効率性を訴えてインデックスファンドを勧める本や、市場の非効率を訴えてファンダメンタル投資やテクニカル分析を勧める本は多いですが、全体として市場は効率的だが非効率を発見すれば勝つことができる(ただしその優位性もみんなが知ると消えてしまう)というスタンスの本は珍しいと思いました。ただ、個人的にはこの見方が現実世界をいちばんうまく説明しているように思えます。

 

その他にも、(フィリップ・フィッシャーの息子なのに)集中投資で勝った人は単に運の良い愚か者であるとか、10~20%程度の調整をうまくとるのは無理なので小幅下落は気にするなとか、現金化を考えるのは大幅下落を予想するときだけだがそれは非常に珍しいとか(80年代以降に4回しかない)、自分だけが知っていることがあったとしても極端なベンチマークリスクは取ってはならないなど、良いアドバイスがたくさん書かれています。

僕の感想としては、ケン・フィッシャーの投資観というのは現実的でバランスが良いなと思いました。個人的にはとてもおすすめの一冊です。

 

ただし、書き方はちょっとクセが強いので注意が必要かもしれません。

この本は基本的にデータを使って客観的に検証すべしというスタンスで書かれているのですが、少ないデータをもとに断定口調で言い切っていたり、検証の規準が緩く思えるものが多かったです。

たとえば、長期の相関が多少あることを著者も認めているのにPERの有効性はまったくないと断定していたり、それほど有効に見えない1枚のグラフを掲載しただけで株式益回りと債券利回りの比較が有効だと言い切っていたりします。また、著者が有効だとした指標が機能しないときはそのときは相場に織り込まれていたと(正しいのかもしれませんが)反論不可能なことを書いていたりします。

そんなわけで、この本の基本的な原則論はすごくためになりましたが、個々の内容についてはどれだけ信頼していいかちょっと判断しにくかったです。